第一章 6.さて、どうする?


「孤高の聖剣様、ねぇ……」


 ごろりとベッドに寝転んで、昼間に聞いた話を反芻するアリスである。


 てっきり、明るい感じに成長していると思ったのに。


「年中凍土って、なんだかなあ……」


 うーん、と唸って、アリスはむくりと起き上がった。


「よし、決めた」


 今生、平民の自分が、王弟であるあの子と会うのはどうかなと思っていたけれど。


 やっぱり接触を試みよう。


「……でも、どうしよう」


 前の自分ならば、軽く魔法陣を展開して、フィルの私室までちょちょいと転移、なんてことも可能だったが。


「いまは、これだからなぁ」


 己の髪をつまんでアリスは苦笑い。


 


 生きとし生けるものには、どんなに微量でも、等しく魔力が宿り、血液のように体内を巡っている。


 魔力の量には個人差があるが、生まれつきの魔力との親和性に因るものなので、努力によって増やすことはできない。


 これが、ロザリア王国における魔力に関する常識。 


 魔力量は、髪の色で大体見当がつくといわれている。




 微量ながら保有している場合は、茶色。


 魔力量が多くなるにつれ、栗色から明るい金茶、金へと移り変わる。




 現在のロザリア王国民は、貴族平民に関わらず魔力量が低く、ほとんどの人間が栗毛。

 黒っぽい髪の者もいるにはいるが、よく見れば焦げ茶だ。




 しかし、アリスの髪色は、正真正銘の漆黒だった。


 真っ黒とはつまり、魔力なし、を意味しているわけだが。


 血の通わない人間がいないように、魔力が宿らない者もいないはずで。




 アリスという娘は、まったくもって不可解な存在なのだが、周りの人間は、勝手にこう思っていたようだ。


「黒髪だから、喋れないじゃない?」


 大らかにもほどがある。




 アリス本人は、黒髪の本当の理由を知ってはいるが、それはともかく。


「どうするかなぁ」


 アリスは再びベッドの上に転がった。


「王都じゃないのが、地味に痛いな……」


 父親が商談に行くときに、せがんで連れていってもらう?


 いやそれより、特製魔法陣の品を作って、密かに王都で売りさばくほうが確実か。


 年中凍ってはいても、魔術師団の長だ。不審な魔法陣入り商品を、見逃すはずはない。あちらから見つけてくれるだろう。


「よし。それでいこう」


 そうとなったら、さっそく商品開発だ。


 待っててよ、フィルオード!


 アリスは勢いよく起き上がり、部屋から出て行った。


 

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