第一章 2.どちら様?
「うーん」
眩しい。
それが最初に思ったことだった。
夢心地のまま、寝返りを打つ。
「あらっ」
と、驚くような女性の声が、聞こえた気がした。
しばらくして人の気配が増え、俄かにベッドの周りが慌ただしくなる。
「うーん」
煩い。
布団を引き寄せ頭から被ったそのとき、上ずったような声が上から降ってきた。
「アリス、アリスティア? 聞こえるかい?」
「うーん」
アリスって、誰よ。
あ、私のことか。
そこでようやく、アリスは目を開けた。
布団から顔を出せば、上から覗き込んでいたのは、見知らぬ男。
「……どちら様?」
たずねると、笑みを浮かべかけていた男の顔が、たちまち凍り付いた。
そうはいっても。
最初に「あらっ」と驚きの声を発したらしき、ふっくらした腰つきの中年女性も、
目の前にいる、栗毛の三十半ばくらいの男性も、
後から駆け込んできた、三十すぎくらいの、茶髪の女性にも、
まったく見覚えがないのである。
記憶喪失かしら。
アリスは本気で考えた。けれども、記憶を失っているならば、自分が誰かも分からぬはず。
己のことは、ちゃんと覚えている。
ローズアリアの魔術師で、王国の長い歴史の中でも、随一といわれる魔力量の持主で。
賢者の称号まで持っていて。
けれど、美人(自分でいうか!)薄命。過ぎた魔力故に、二十を超えた頃には、体はもうぼろぼろで。
二十五で終わりを迎えたが、最期の瞬間をフィルに見られてしまい――
フィルオード。
どくん、と妙な具合に心臓が跳ねた。
新緑のような、澄んだ翠の瞳のあの子。
って、ちょっと待って。
それって、いつの記憶?
なにかが、おかしい。
慌てて己の手を見ると、幼児の手だった。
「小さい……」
という呟きも、子供の声音。
なんなのこれ。
私は、一体、誰?
アリスは改めて枕元にいる男女に目を向け、簡潔かつ真剣にたずねた。
「あの、ここはなんていう国ですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます