第9話 Side-A

「いやー終わった終わった」

 肩をぐりぐりと回しながら、シモンが言う。

「本当、みんなお疲れ!」

 触角も上機嫌である。

「あ~、こんなとき酒が飲めたらなあ」

 IDの思わず漏れた本音に、シモンが「うあ~、言わないでくれえ」と頭を抱える。

「酒も断ち、煩悩も断ち、悟りを開くのだ」

 ぼうさんのありがたい言葉に、「うるせえ! さっきまで女の子たちにハナの下伸ばしてたくせに!」とシモンが返す。

「けっこうかわいかったよなあ、二人とも」

 IDもどこか遠くを見ている。

「お~い、ID、帰ってこい。ともかく、俺たちはまたイベントのないオープンワールドのゲームに戻るってことだな」

 『劇場』を出て、四人は傷だらけのオープンカーに乗り込む。

「この後、どうする?」

 IDの問いかけに、触角が笑う。

「いっそのこと、世界中のネットワークを回って、今日みたいにヒーローごっこする? 僕、意外と楽しかったよ。あこがれるよね、ヒーローって。昔見てたテレビでさあ…」

「それもありだなぁ」

 シモンが笑い、深い息をつく。

「なあ、あのエリアも、今後変わるかなぁ」

「うむ。真実は知らされた。後はおのずと修復されん」

 ぼうさんが強い語調で言う。

「そうだなあ、ずっと偽物の空見ながら暮らすのもむなしいもんな。早くあれが取っ払われて、飛行機が行き来できるようになるといいよなぁ」

 IDが腕組みをして頷く。

 触角がエンジンをかける。振動が四人の身体を震わせた。

 シモンがエンジン音に負けじと大声で言う。

「IDの言う通りだよな! モニターばっかり見てるより、一緒にバカやれる仲間を見つけた方が一億倍楽しいわっ」

 オープンカーがタイヤの音を響かせて発進する。

 シモンが大きく伸びをすた。

「おっしゃぁー! まだまだ行くぜーーーっ」

 四人を乗せた車は、果てしなく続く道を再び走り始めた。

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エレクトロニック・カルテット 葉島航 @hajima

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