第2話
かなは去った。
しかしかなのことだからまだ何かあるのかと思っていたが、その夜は何事もなく過ぎた。
翌年の春、俺とかなは二回生になった。
二回生になっても二人の関係は相変わらずで、何の変化も進展もない。
が、かなのほうはその変人ぶりを遺憾なく発揮して、少しずつそして確実に大学内で有名人となっていった。
俺のほうは友人も増えずに彼女もできないままに、その年のクリスマスを迎えた。
そしてその夜、かなが去年のように俺を訪ねてきたのだ。
そして言った。
「私ねえ、サンタクロースになりたいの」
俺は聞いた。
「サンタクロースになりたい。どうして?」
「どうしてって、そんなの決まっているじゃない。あの服よ。あの赤い服、とっても素敵だとは思わない」
俺はサンタクロースの服が素敵だと思ったことはないので、それを正直に言った。
するとかなは目を見開いて俺をしばらく見た後、くるりと背を向け小走りで立ち去った。
俺にはそれは、やけに怒っているように見えた。
やがて年が明けて春になり、俺とかなは三回生になった。
三回生になっても俺の時間は去年や一昨年と同じように過ぎていく。
大学生になり三回生になったというのに、なんの変化もなく彼女もできないままで、その年のクリスマスを迎えた。
今年もやはり一人下宿で過ごす。
すると日が沈んだ頃に、下宿の外がなんだか騒がしくなった。
外に出てみてみると、少し離れたところで大人数人が集まって、興奮した様子でなにかを話している。
が、俺には何を騒いでいるのかわからないし、俺には関係がなさそうなので、そのままにしておいた。
夕べ近所で何があったのかを俺が知ったのは、翌朝のことだ。
近所にパトカーが何台も来ている。
慌ててテレビをつけると、ちょうどやっていた。
空き地で小学生の死体が見つかった。
夕べから行方不明になっていた小学生が、刃物で何度も刺された状態で発見されたのだ。
その空き地は俺の下宿とかなの下宿のちょうど中間地点にある空き地だ。
夕べ騒がしかったのは大人が集まって小学生を探していたためであり、今騒がしいのはその小学生が死体で見つかったからだと俺は理解した。
――それにしてもあまりにぶっそうだな。
子供の死体を直接見たわけでもないのに、俺は気分が悪くなり、少しもどしそうになった。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
出るとかなだった。
二年連続でクリスマスの夜に訪ねてきたが、今年は翌朝訪ねてきたのだ。
かなは何も言わずに俺の顔を見て笑っている。
仕方がないので俺は聞いた。
「どうした?」
すると彼女は満面の笑みを浮かべて言った。
「やったよ。私、ついにサンタクロースになったの。見て見て」
そして彼女は、来ていたコートの前をはだけた。
終
サンタクロースになりたい ツヨシ @kunkunkonkon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます