第3話 エンドロール
サブクエストを一通りクリアすると、いよいよメインクエスト。それも最後のクエストを選ぶ。
「ここから馬車で三日。城塞都市、魔王城に行ってもらいます。そこにいる魔王を討伐してください」
受付嬢がそう告げると、頭を下げる。
「無事な帰還をお待ちしております」
――偽善。
その言葉が奥歯に挟まったかのように引っかかる。
私のしていることはただの偽善なのかもしれない。
そうであったのなら、いっそわかりやすかっただろうに。
魔王城につくと、門番を蹴散らし、さっさと魔王のもとにたどり着く。
さすがにセーフティポイントが設定されており、そこにいれば少しは休まるというもの。
七天皇と呼ばれる配下を打ち倒し、ここまでくるのは容易ではなかった。
「これが最後のポーションね」
「千里さまが使ってください」
確かに戦闘能力では私が上なのかもしれない。それでも、レイラのHPは半分を切っている。一方、私は七割ほど。
私はポーションをレイラに使うと、驚いたような顔をされる。
「わたしに、ですか? バカなんですか? なんでそんな計算も出来なくなったのですか!? 千里さまは本当におバカさんですね。その頭の中には何が詰まっているんですか!?」
けっこう言うな~。
「それでも私はこっちの方が正しいと思ったんだよ。許して」
「許しません」
唇を尖らせてそっぽを向くレイラ。
「……魔王を倒すまでは」
俯くレイラ。耳が紅い。
照れ隠しね。嬉しいものだわ。
セーフティハウスから抜け出し、魔王の玉座に向かう。
六本の柱に守られるように玉座が鎮座しており、その玉座には完全武装した男が一人。
「お主らが人類の
落ち着いた声音で呟く魔王サタンは立ち上がり、異空間から刃の長い魔剣グラムが降り立つ。
一方の私は、聖剣エリザベートを振りかざす。
私は地を蹴り、真っ直ぐに斬りかかる。
上斜めから斬りかかると、柄で押し返してくるサタン。
「は。弱いのう。お主らは!」
振り返り、刃で切りつける。
なんとかかわしたものの、ダメージを負ってしまった。
「やぁ!」
下斜めから斬りかかると、刃で受け止めるサタン。
距離をとると、レイラの火炎魔法が飛んでくる。
火球に身を包むサタン。だが、すぐに立ち直り、炎を無力化する。
「なんで? 魔法ならダメージを受けてもおかしくないのに!」
うめくと、後ろのガラス窓に稲光と雷鳴が轟く。
「は。わしに勝てる者はいないのじゃ」
ガラスが割れて、そこから一発の銃弾が撃ち込まれる。
その銃弾がサタンに着弾すると、周りを覆っていたオーラが消える。
「ささっと倒せ!」
「火月!?」
私は聖剣から聖銃のスナイパーライフルに切り替える。
「狙い撃つ!」
トリガーを引き、サタンにぶつける。
HPバーが減っていく。
どうやらさっきのは負けイベントだったらしい。
「言ったはずだ! てめーの行為は偽善だと」
「偽善、いいじゃない。善と認めているのだから!」
私は柱に隠れながらスナイパーライフルを撃ち放つ。
そして後ろに隠れたレイラがバズーカを放つ。
二つの榴弾が空中で爆ぜる。
着弾したサタンはくぐもった声で応える。
「ただの巫女ごときが! 調子に乗るな!」
サタンは柱を片っ端から切り伏せ、天井が崩れ始める。
「嘘でしょ!?」
私は逃げるようにして入り口付近に戻る。
そこの柱はまだ無事だった。
火月のいる高台に逃げるのは無理があった。
天井が完全に落ち、土煙と砂礫が舞い上がる。
「やったのかしら……?」
私が疑問に思い口走ると、ドンッと大きな音が聞こえてくる。
火月がライフルを構え直す。
「敵は健在! 繰り返す敵は健在!」
火月の言葉に応じるように、瓦礫の山から伸びる手。だがそれは人の物ではない。
紫色の、長い手が伸び、徐々にその体躯が明らかになる。
鬼のような顔をした身体に、肥えた腹。肌は紫色で、でべそが見える。黒いパンツを履いた手の長い、短足な男――サタンの本当の姿が明らかになる。
醜い、醜悪な出で立ちをしている。
その手には先ほどの魔剣グラムが握られている。
攻撃範囲と破壊力を秘めた完全なる力。
「ぐぉおおおおぉぉぉぉおおぉおぉぉおおぉおっぉお!」
叫ぶサタン。
見た目からは想像もできない早さで迫り来るサタン。斬りかかりにくると、私はエリザベートで受け止める。
が、弾かれ、聖剣は城外に墜ちていく。拾い上げる道はない。
次いでスナイパーライフルを構えるが、それも弾かれ、城外に墜ちる。
「くっ。どうやって戦えば……!」
サタンの横脇に銃弾が飛び込む。
「火月……?」
「こっちだ! 聖剣エクスカリバーを! てめーが奴を倒すんだ!」
「いいえ。三人で倒すのよ!」
「……ちげーねー。だが、てめーに任せた」
「わたしも手伝います!」
レイラが聖弓を火月から受け取り、光の矢をつがえる。
私は火月から譲り受けたエクスカリバーを手にする。
「俺様は聖銃弾マルチベートを使う!」
「みんなで倒すよ!」
この世界には音声認識がある。
言葉にしたことで選択肢が無限に広がる。二択三択の話ではない。文章を理解し、選択肢を無限に増やす――それが巫女×巫女バスターズの醍醐味である。
「善意が人を助ける……見せてやりましょう。火月、レイラ!」
「へ。たくしょうがーねなー!」
「わたしも参ります!」
光の矢を放つと、動きが止まるサタン。そこに銃弾がぶつかり、聖剣で斬りかかる。
HPバーがじりじりと減っていく。
何度も繰り返し
その隙を狙い斬りかかる。
でべそが弱点らしい。HPバーの減りが段違いだ。
四回も斬りかかると、サタンのHPは尽きる。
やはりでべそが弱点だったらしい。
これが最後の一撃。
いよいよエンドロールだ。
これで全てが終わる。
「やぁぁあぁあ!」
振りかぶった剣筋が光を放ち、サタンを切りつける。
出血エフェクトが派手に散り、砕けていく。
力尽きたサタンはその場で倒れ込み、断末魔を上げる。
「よくやったな。てめーの行為は善意だ」
火月がサムズアップすると、エンドロールが流れ始める。
レイラが側にかしずき、魔王城を後にする。近くにあった馬車に乗り込み、王都へと凱旋を果たす。
魔王を討伐した者としてはやし立てられた。
が――。それで終わりじゃない。
私は魔王を討伐した化け物として扱われた。
脅威に感じる各国。一人の人間としては強すぎる力を持ってしまった。
だから迷いの森の奥にある洋館に軟禁されることになった。
軍事的な理由でこの国の王子は手放すのが惜しいと考えているから、裕福な暮らしを送ることはできている。
軍事的バランスを崩しかねないキーマン、それが私だ。
しかし、その暮らしは突如、終わりを告げる。
「巫女さま、俺と一緒に王都を出ませんか?」
王子がそんなことを言い、私を誘ってくるのだ。
「南に楽園があります。そこに行きましょう。千里!」
「ええ。分かったわ。このまま喪に服すつもりはないわ」
私は王子の手を取り、再び世界を巡る度に出る。
分岐点が多すぎて、このエンドはまだ見たことのない世界だ。
攻略サイトにも載っていない。
素敵な素敵な旅路の始まり。
メイドのレイラと、王子を連れていく。
南の楽園目指して。
暖かく南国のパラダイス。
それはきっと素敵な世界だろう。
巫女×巫女バスターズには終わりがないのだ。
巫女×巫女バスターズ! 夕日ゆうや @PT03wing
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます