第2話 スノー・ゴーレム

 雷吼と同じく、草むらに出る。

 私はスナイパーライフルを構えるが、速攻で仕掛けてくる雷吼。

 ライフルを横にし、斬撃をいなし、ライフルを鈍器として扱う。

「接近戦は無理だと思った? 初心者狩りさん」

「ち。マジかよ……」

 レベル12か。

 PVPで得られるレベルバーは大きいと聞く。それを狙っての初心者狩りか。ナンパ師ではないことを知ってホッとしたけど、これはこれでヤバいかも。

 何度か、斬撃をかわし、銃弾を撃ち込む。

 接射での攻撃では三倍のダメージを与えられる事を知った。

 それを繰り返すこと、数十分。

 息切れをした雷吼が負けを認める。

 デスポーンとリタイアではデメリットが違うのかもしれない。

「おいおい。あの女、初心者狩りの雷吼を倒したぞ!」

 驚きの声を上げる観衆。

 その声を尻目に、私はその場を後にする。

 PVPで得られたアイテムや経験値は大きい。

 レベルが一気に上がり、8レベルまで上がった。それにより、RPラッキーポイントがもらえた。

 RPは好きなスキルや各種パラメータの上昇にも使われるのだ。

 お陰で私は好きなスキルを手にすることができた。

 ちなみにもらった金貨でレイラの武器も買った。

 余談だが、巫女服以外の服は課金しないと買えない。基本は巫女服の方がいいらしい。巫女服にもミニスカやビキニなど、色々とあるみたいだが、一般的レギュラーを選んだ。

 その後も、幾つかメインクエストをこなし、スキルやアイテム、経験値をもらった。

「いよいよ、オークの討伐ですね! 気をつけてください!」

 受付嬢がそう言い、私は隣町まで馬車に乗ることにした。

 馬車では二時間ほど。

 ゆったりと揺られながら、オークが占拠されたクーツ村に向かう。

 途中、商人と一緒した馬車では装備や武器、アイテムなどを購入できるシステムがあったが、まあいいや。

 村にたどり着くとそこには見覚えのある優男がいた。

「あなたは……」

 私が話しかけると、優男は目を見開いて驚いた表情を浮かべる。

「これはこれは。いつぞやの少女ではありませんか」

 たおやかな笑みを貼り付けて、本を閉じる。

「その本……禁忌黙示録タブー・レコード

 この世界では逆さ十字――神への反逆を意味する。

 私たちの目的は神を呼び覚まし、世に安定を取り戻す……という設定だ。

「は。見抜いたか。俺様のオークよ、行け!」

 村に住み着いたオークが一斉にこちらに向かって駆け出してくる。

 オークの手には棍棒が握られており、レベルも高い。

 だが、

「私の敵じゃないわ」

 スナイパーライフルを構え、レイラはバズーカを放つ。

 発射された銃弾がオークの頭を捕らえる。

「は。貴様らで倒せるわけがない!」

 優男はマントを翻し、去っていく。

「ま、待て!」

 私が呼び止めようとするが、オークに遮られてその姿を見失う。

「今は前の敵です! 千里さま!」

「……分かったわよ!」

 私は狙いを変えて、オークを撃ち落とす。

「はん! 生ぬるいことやってんじゃねー!」

 後ろからライフルを撃つ男が一人。

「お前は?」

 私が誰何すいかの声を上げると、アサルトライフルを撃ち放つ男。

 赤毛の短髪。オレンジ色の瞳に、端正な顔立ち。

 その顔には大きな傷こそあれど、染み一つない。だからこそ、傷が目立つのだが。

「俺の名は火月かげつだ! テメーが他のもんにやられるのは吐き気がするぜ!」

 ここに来てライバルキャラなのね。

 まあいいわ。

「このぼんくらどもめ――っ!」

 火月が吐き捨てるようにライフルを撃ち放つ。

 これは勝ちイベントか?

「奴が持っていた禁忌黙示録。あれはすべての人間を滅ぼす」

 戦いが落ち着くと、そう切り出した火月。

「テメーは知らないだろうが、あれは人のアニマを吸い取る悪の蔵書だ」

「そう。なら倒さないとね」

「はっ。それは俺の役目だ。テメーは指をくわえて待っているがいい」

「分かったわよ。任せるわ」

 そう言って私はその場を立ち去る。

 システムロックされているわけでもなく、火月は遠のいていく。

「テメーの行為は偽善だ!」

 そう後ろで叫ぶ火月。

 だったら何よ。

 私は好きで、このゲームを楽しんでいるというのに。

 セーフティポイントでゲームを終えて、現実世界に戻る。

 そして「巫女×巫女バスターズ」の攻略サイトを見る。

「え。進行具合やその人の価値観によって出てくるサブキャラやライバルキャラが変わるの? すっごい」

 感心していると、私はゆっくりと休む。

 ぶっ続けで十一時間はやり過ぎた。

 食欲と水、それから睡眠をとって次の日に備えた。


 ▽▼▽


 いつもの広場にリスポーンすると、隣に駆け寄ってくるレイラ。

「千里さま、おはようございます」

「おはよう。じゃあ、さっそくギルドに向かおうか?」

「はいっ!」

 華やいだ顔を見せるレイラ。

「今日は食事でもする?」

「滅相もない」

「む。私がそうしたいの。付き合ってよ」

 私はそう言ってレイラを近くの飲食店に誘う。

 このVR空間では食事の味も再現されている。一方で満腹中枢を刺激しないので、普通にお腹は空く。これはリアルでの食事を摂って欲しいために、あえてオミットされた機能なのだ。

 ケーキをいくつか頼み、そのまえにはたくさんの肉料理が並ぶ。

「さあ、食べて食べて!」

 満腹中枢を刺激しない、ということは無限に食べられるのと同義。

 私は好きなだけ、飲食をし、好きなだけデザートを食べた。

 リアルなら数十キロは増えていてもおかしくない量だ。


 しばらくして、私はギルドに向かう。

「よう。また会ったなァ!」

 チンピラのようなぶっきら棒な物言いにむすっとする私。

 なんで私のライバルキャラは火月になったのだろう?

 そう思い、クエストを探す。

 今日はメインクエストではなく、サブクエストに行くか。

 サブクエストでは経験値はもちろん、お金や武器強化などの素材がもらえるのだ。

 慎重な私はじっくり育て上げてから次のクエストに挑む。少なくとも、推奨レベルまでは達していないと遊べない体質である。

【雪山でのスノー・ゴーレム討伐】

 それを見て、ふふんと鼻を鳴らす私。

「これ受けます!」

「ありがとうございます。お気をつけて」

 私は古着屋で毛布を購入すると、雪山行きの馬車に乗り込む。

 トンネルを抜けると、そこは雪国でした。

 馬車に乗り合わせた商人から、徹甲榴弾だんやくやミサイル、ダガーを購入する。

 雪山にたどり着くと、私とレイラは一緒に歩き出す。

 寒い。が、それは視覚情報のみ。実際に寒いなんてことはありえないのだ。

 まっすぐに駆け上がると、《雪の神殿》が見えてくる。

 そこの番人、スノー・ゴーレムが立ち上がる。

「いきなり仕掛けてくるのね。まあいいわ」

 私は超長距離からの狙撃を行う。その距離三キロ。

 当たったゴーレムは身じろぎするが、まだおちない。

 レイラが距離をつめ、バズーカを放つ。

 紅い双眸を持つ氷のゴーレムは、ゆっくりとこちらに向かってくる。背中から氷柱のような氷塊を浮かべ、こちらに向かって放つ。

 距離が遠いのか、私には届かないが、レイラには効く。

 私は全ての氷塊を撃ち落とし、援護する。

「しまったな。奴の攻略法が分からない」

 ぶつくさと言っていると、再び飛翔する氷柱の攻撃を撃ち落とす。

 その氷柱ミサイルがたまたまスノー・ゴーレムの身体に触れ、爆発する。

「これだ!」

 私はスノー・ゴーレムの放つ氷柱ミサイルを片っ端から撃ち落とす。

 その爆煙を受けたゴーレムは息絶える。

 断末魔を上げると、クエスト終了の文字が浮かぶ。

「ぃやったぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあああぁぁ!」

 私は渾身の喜びダンスを踊った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る