巫女×巫女バスターズ!

夕日ゆうや

第1話 序章

 私はVRヘッドセットをかぶり、神経接続ナーブ・コネクトを試みる。

 ワクワクドキドキが待っている完全没入型VRMMORPG。

 私は【巫女×巫女バスターズ】を起動させると、目の前に現れた画面に目を落とす。

 全十二種の武器を選び、それの熟練度に応じ、隠し武器が派生する。

 私は接近戦用の双剣、片手剣、ダガー、ショーテル。遠距離用のハンドガン、スナイパーライフル、アサルトライフル、バズーカ。特殊武器の大鎌、錫杖、体術、棒術。

 そして隠し武器が三つあると聴く。

 ふわりと浮遊感を味わうと、地に降り立つ。

 周りは家屋が建ち並ぶ中央広場と言ったところか。噴水のある大きめの広場。

 水面に映る自分の姿は巫女服を着た自分。

 この世界は巫女服で戦う世界なのだ。PVPはもちろん、運営に与えられたクエストをこなしていく――というもの。

 七神しちしん――七つの神を解放して世界に安定と秩序をもたらすというメインクエスト(ストーリークエストとも言う)。

「クエントへ! ようこそ!」

 受付嬢がそう叫び、武器の説明や受け渡し。さらにはストーリーへの導入を行う。

「今、受け付けているのは〝薬草の採取〟です」

 クエストを選択すると、受付嬢が嬉しそうに呟く。

「分かりました。お気をつけて!」

 そう言って手を振る受付嬢。

「まったく、できのいい人形ね」

 私は愚痴をこぼしながらも、広場から歩いて数分の冒険者ギルドを出ていく。

 街の外、それもモンスターがポップしない箇所での採取だ。怪我をすることもないだろう。

 歩いて数分。

 薬草が採れる原っぱに行くと、一人の男がいた。

 目の細い、優男といった印象だ。白いスーツに身を包み、紫のネクタイをしている。

 ハッキリって違和感バチバチだ。

「ここら辺の薬草は採り尽くしたよ。君が欲しているのは、あっち」

 優男は指を近くにある洞窟に向ける。

 これもチュートリアルなのだろうか。

 私は疑問に思いながらも、歩き出す。

 洞窟に入ると、目の前でゴブリンに捕まった少女がいる。

「いやぁぁあぁっぁぁぁぁぁぁ!」

 衣服がボロボロで見るも無惨な姿をしている。

「た、助けて!」

 少女はこちらを見て、泣きべそを掻いている。

「分かったわよ。やってやろうじゃない」

 私は先ほどギルドで選んだ武装・スナイパーライフルを構える。巫女服をたおやかにおり、狙いを定める。

「敵をよく見て」

 少女が静かにささやく。やはりチュートリアルか。

 ゴブリン二匹が少女の両脇を抱えている。その正面に一匹のゴブリンがいる。

 正面に一発の銃弾を放つ。

 次いで銃口をずらし、二匹のゴブリンの排除を行う。

「さあ、私の勝ちよ!」

【おめでとうございます】

【討伐に応じ報奨金を出します】

 テロップが流れ、バトル後の処理を行う。

「ありがとうございます。わたしはレイラ。よろしく」

 そう言って手を差し出してくるレイラ。その手をとると、テロップが流れくる。

【レイラをパーティに参加しました】

「ほほう。魔法術士なのね」

 私はレイラを見やるとコクコクと頷く。

「この先に薬草があります。一緒に向かいましょう」

 これもチュートリアルか。

 私はその言葉に従い、洞窟の奥へと進む。

 数十メートル進むと、警告音が鳴る。

「敵です。武器を構えてください」

 コウモリが二匹。

 これで逃げたらどうなるのだろう?

 私は試しに退く道を選ぶ。

 踵を返し、走り出す。

 だが、背景は動かない。

「この戦闘からは逃げられません」

 とレイラが言い、武器を構えるように指示を出す。

「分かったわよ。たくっ」

 私はスナイパーライフルを構える。

 するとコウモリが鋭い爪を立てて体当たりしてくる。

 ダメージを受ける。視界の端に浮かぶHPバーが少し減る。今のヒットポイントは10。ダメージは1。さすがチュートリアル。

「放つ!」

 銃弾を放つと、コウモリに直撃し、砕ける。

 そして魔石を落とし、霧散していく。

 もう一匹のコウモリが残っている。

 きぃぃんと甲高い音を立ててコウモリが攻撃をしてくる。

「サイレント・ボイスです! 気をつけて」

 HPバーが半分持っていかれる。

 残り5になると、黄色くなるヒットポイント。

「今は回復のときです。はい。これを使ってください」

 道具箱と一緒に渡されたポーション。

 いやいや。これを持ち帰れば、クエスト達成でしょ!?

 わざと使わずに残しておこう。

 そう思っても、

「ポーションを使いましょう!」

 そう呼びかけてくるレイラ。コウモリも一次停止したように羽ばたいたまま。

 これがないと進まないのね。


 ポーション。

 HPを50回復する。


 解説を見て驚くが、私はポーションを使い、HPバーを回復させる。

 回復すると、コウモリが体当たり攻撃をしかけてくる。

 1のダメージ。

 スナイパーライフルを構え直し、再びコウモリを撃つ。

 弾丸は吸い込まれるようにして、コウモリを討ち滅ぼす。

「すごいです! さすがです!」

 手を合わせて嬉しそうに駆け寄ってくるレイラ。

「そう言えばお名前がまだでしたね。お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 私の目の前にキーボード入力が浮かび上がる。

「私は千里ちさと

 音声で入力したあと、キーボードで打ち込む。どうやら読み仮名や英語などに対応するための措置らしい。

「千里、分かりました。これからはよろしくお願いします!」

 そう言って高らかに笑うレイラ。

 洞窟の奥に行くと、そこにはたくさんの薬草が生えている。

 私はその薬草を手にすると、アイテムボックスにしまう。


 薬草。

 HPを5回復させる。


 やっぱりポーションの方がいいじゃないか!

 そう思いながらも、薬草を採取する。

「採取、終わりましたか? これでギルドに帰れますね!」

 嬉しそうに手を合わせるレイラ。

 洞窟を出ると、私はギルドに向かう。

「よぉ。君ぃ。初心者かぃ?」

 やたらと苛立つような物言いをしてくるプレイヤーに絡まれた。

 ナンパ師か、詐欺師のどちらかだろう。

 無視をして、ギルドに入る。

「つれないねぇ。でも、すぐに泣きをみるぅ」

 私はギルドで換金すると、レイラと一緒にギルドを出る。

「わ、わたし、衣服が欲しいです」

 そう言って、近くにあるアパレルショップに入る。

 正直、サポーターの衣服などどうでもいいのだが、これもチュートリアルらしい。

「へぇ。その子の衣服みてんのぉ」

 先ほどのナンパ師がついてきているのは誤算だった。これはチュートリアルじゃないだろう。

 衣服を見ていると、巫女服はただ。その他はまだ買えないお値段だ。

 巫女服を買ってやると、その場で着替える。と言ってもシステム的に処理されるので、着替えシーンはカットされている。

「新しい衣服、ありがとうございます! 千里さま!」

「それで? あんたはなに?」

「俺ぇかぁ!! 俺ぇはなぁ、雷吼らいこうってんだ。よろしく」

【全てのチュートリアルが終わりました。お困りのことは、こちらから↓】

 ポップアップしてきたモニターがヘルプ文字を指さす。

「まあ、君みたいなちゃらんぽらんな奴は一度、泣きを見るべきだと思うわ」

 私はそう言い、雷吼に真っ直ぐ見据える。

「ほぅ。おもしれぇーこと言う奴だなぁ~」

 双剣を構える雷吼。

 ここはセーフティエリア。PVPができない。

 だから私と雷吼はお互いに牽制しながら、近くにある戦闘エリアに行く。

 スナイパーライフルを構えた時点で嘲笑を浮かべる雷吼。

 接近戦にもつれ込めば、雷吼が圧倒的に有利なのは知っている。

 PVPに向いていないのだ、スナイパーライフルは。

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