第7話 簡単な未来は見つからない。可能性は無限大。


 7話目


「ふあ~疲れたぁ」


 私は思わず床に寝っ転がってしまった。髪型とか、床が汚いとかそういう事はどうでもよくなるくらいには疲れてしまったから何も考えずに体の本能にしたがって、ゴローンと音が鳴るように倒れる。


 それに、流石に慎吾さんも疲れてしまったようで座っていた。3時間のレッスン講師を頑張ったの後に、私とダンスをするなんてそりゃぁ疲れるよな~


「有んなダンスをやられると俺も流石に疲れるよ。」


 すると慎吾さんは愚痴を漏らすようにさっきの最高のダンスの事を言ってきたので私もいうことにした。


「そうはいっても、慎吾さんのダンスも出鱈目でしたよ?あんな爆弾は先に言っておいてくださいよ。」


 少し回りくどく言っているが私が言っているのは、慎吾さんがサビの時にやったあの色気溢れるダンスの事だ。

 まあ、技を改変していると言う訳では無いからあまり言う事ではないのかも知れないけど、それを加味しても流石に目をそむけることは出来ない!


「ははは。海さんのダンスが凄かったからね。俺も負けないように……ね?」

「……ね? じゃないんですよ!私あの瞬間凄い焦ったんですからね。」


 あの爆弾を投下した瞬間に、慎吾さんの姿がいきなり変わったように見えて私が技を間違えているのかと思ったんだ。だから、集中していたのも溶けてしまいそのままなあなあでダンスを終わってしまった。


 だからやるんだったら先に言ってほしかった。言ってくれたら私も合わせる事が出来たし。


「でも凄かったでしょ?」

「それは……そうですけど。」


 確かに凄かった。普通に踊っているはずなのに、次の瞬間には別人のように見えたんだから。いきなり骨格が変わった感じ。


 私にはあんなのは出来ないし、練習したとしても出来るビジョンが見えない。


 あれがプロの技なのかと思わず惚れてしまうくらいには凄かった。。でも、それとこれとはべつ!

 やるんだったら先に言っておいて欲しいよね!それが踊っている最中に思いついたとしても!


「まあまあ、海さんのダンスも凄かったから。俺も思わずびっくりしたよ。」

「え! ほんとですか!」


 ちょっと異議申し立てしたいと思っていたが、そんな風に褒められたら……どうでも良くなってしまうじゃぁないか。


「で? どんな所が良かったですか! 私的にはサビの4x8で一気に詰めて踊ったんですが、そこで全体的に頑張ってみたいんですよね。」

「確かにそこは凄かったね。俺のそこは置いてかれそうになったしね。」

「やったぁ!!」


 頑張ったところで評価されるのは嬉しいものだ。まあ、反対に褒められもしなかったらやる気を無くしてしまうけど……ね。


「ただ、個人的には雰囲気の変わり方が凄かったかな。あれは一級品だよ。」

「あ~ありがとうございます?」

「あれ、分かっていないかんじ?」

「いまいちです……友達にはよく言われてたんですけど、私には分からなくて。」


 前のチームであるAKARIのメンバーによく言われてたんだけど、舞台とかでいつもとは雰囲気が変わるね。とか、集中すると威圧感があるね。とか言われていたんだけど。良く分かっていないんだよね。


 まあ、メンバーに手伝ってもらって、なんとなくだけど雰囲気のかえ方の練習を手伝ってもらったけど……それでもいまいち良く分かってない。


「まあ、結構感覚的な物だしね。」

「へ~。慎吾さんも出来るんですか?その、雰囲気を変えるの。」

「俺?一応できるよ。やるダンスによっては雰囲気を徹底的に変えなきゃいけない時もあるしね。」


 それなら私も出来るようにならなきゃいけなのかな?

 まあ、もう出来るんだけどちゃんと自分で自覚してどんな風になっているか分かっているのか分かる用になった方が良いのか的なニュアンスでね?


 でもな~私出来る気がしないんだよね。その雰囲気が変わったとか分からないし。


「……それなら教えてくれませんか? その雰囲気の事。」

「あ~」


 すると、慎吾さんは無茶ぶりをされたように顔をしかめた。だけど、私は教えてもらいたいがために何も言わずにジッと慎吾さんの顔を見る。適当に流されないように威圧を与える気持ちで。


「いや~俺そういうの教えるの得意じゃないか…」

「それなら、教えれそうな人は居ませんか?」

「ん゛~」


 するとまたもや顔をしかめる。しかし今回は私の顔を見ないようになのか上を向いているよう。まあ、私もこれ以上は困らせたくないから、次断られたら流石に諦めようかな……清美に頼めば教えてくれるかな?


 でも、出来れば詳しいと思われるプロに教えてもらいたいよね。


「分かった!」


 お!


「誘ったレッスンに来てくれた時に紹介するよ。流石に俺は教えれるほど得意ではないから。」

「ありがとうございます!!いや~お願いしてみる物ですね!」

「はぁ……まあ良いけどね。俺も若い子が成長するのは嬉しいし。」


 少しため息をついているが、若い子にお願いされるのはまんざらでもない感じで少しにやにやしている。(私からはそうみえた。)


 まあ、本当にお願いしてよかったな。AKARIのメンバーには武器になるから鍛えておいた方が良いよ! って言われていたけど全くわかってなかったし。


「そうだ、清美! 少しいいかい。」

「なんですか?」


 慎吾さんが呼ぶと近くにいたのか直ぐにきた。


「次回からもこのレッスンにも海さんを連れて来な。」

「え!」

「ふふ、私に言わないで直接言えばいいのに。海も来るよね?」

「行きます!」


 このレッスンは今回限りだと思っていたから予想外だった。だけど、レッスンは凄く楽しかったし、それに成長できた実感が有るからまた来たいなって思っていた。だから、誘ってくれるのは嬉しい!


「それじゃ、その事も後でラインに送るから見といてね?」

「うん、ありがとう!」




 ☆ 学校でダンスバトルをした男の子


「ノンノンノン。そうじゃないそうじゃない。もっと早くしなきゃ。」

「ッ……分かりました。」

「それじゃあ、私のナンバーには出せないわよ?あんたが自分でやるって決めたんだから何も言わずにやりなさいよ?」

「……大丈夫です。」


 とあるダンススタジオ。そこにはその場所の広さには見合わない、たった二人がレッスンをしている。1人は教え、1人は教わる。


「せっかくこの私が時間を削ってまで、教えているんだからもう少し頑張って欲しいわね。」

「……曲。お願いします。」

「あら、休憩はもういらないの?」

「大丈夫です。」


 そのレッスンがどの位続いているのか。それは近くに転がっているペットボトルの残骸が物語っている。出来るだけダンスをやっていたいから捨てに行く時間すらかけたくない。そんな意思が感じられる汚さだ。


 もしその様子を海が見たら直ぐにかたずけを始めてしまうだろう。


「それじゃあ行くわよ。リズムは崩さないようにしなさいよ?」

「はい。」


 男は曲の合図とともに邪魔な髪を持ち上げ体制に入る。

 さっき間違えた所はもう間違いない。僕がお願いしたとはいえ、あの人は厳しい。レッスンをお願いした事を思わず後悔してしまうほどだ。


 まあ、そのおかげで全ての動作に気が入るのだが。


「ふぅ~~~~」


 深呼吸とは名ばかりの呼吸をしダンスに集中する。もうこの先からはダンスの事しか考えない。目に入らない。

 ただ、自分のダンスを高めていくだけ。


 ♪~~


 曲が始まった。

 1,2,3,4、とリズムを取っていくが動かない。ただ、求めている時を待つだけ。だがその瞬間を逃さないように気を張っている。でも、そんな状態でも体は脱力状態だ。


 気を緩めないまま2x8を数え終わった。その時僕は間髪入れず動き出した。


 0からの100。

 その非人間的な動きは僕の体が爆発したかの様な印象を抱かせる。


 ヒットだ。


 筋肉に一瞬だけ力を入れる事でブレたように見える。ダンス的には筋肉が弾かれると言うらしいが、僕は良く分かっていない。爆発と言った方が分かりやすいと思っているくらいだ。

 そんなヒットを行う事を合図にムーブを繰り出し始める。


 体の一部分を動かすウェーブを曲に合わせながら繰り出し、少しずつ沈んでいく。


 その様子はまるで人間ではない……泥のよう。


 あの人にはまだまだと言われているが曲と合間ってそれなりの物ではあると思っている。が、まだ慢心は出来ないということは僕自身分かっている。


 沈んでいき沈んでいき。


 溶けていく


 すれば次の瞬間、ガンガンという音とともに体はブレていく。ヒットだ。


 ガンガンガンガン。


 それは今までよりも上手く出来ているような気がする。そもそもヒットは一日二日で出来る様な物ではない。それをこの短期間でそれなりに物に出来ているのは頑張ったからに他ならない。その頑張りが実った気がする。


 だが、今はダンス中だから感動している暇なんてない。


 さあ、行くぞ!


 この後のムーブは苦手な所が有るので意識して望んで行かなければいけない。なので全身に力を入れて意気込む。


 だがその瞬間俺の耳には知らない音が聞こえた。……いや正確には知っている。だけど、その音はこの曲中には出てこないはずなのだ。


「あら、もしもし?どうしたの、」


 電話だ。通知を切っていなかったのか凄いデカい音を鳴らした。


「へ~。あ~うん。分かったわ今行くわよ。……っと言う訳で、レッスンは終わりね!」

「え?」


 どういうことか意味が分からず、立ち上がる事もせずに放心してしまう。


「じゃね~。帰る時は店長に一声かけてね。明日もきなよ~」


 すると、電話を取ってから10秒もかからずにスタジオを出て行ってしまった。


「え……ちょっと!!」


 そんな声が聞こえなかったのか、聞かなかったのか。防音のドアを閉じて行ってしまった。


「はぁ……疲れた。」


 僕はあの人が出て言った瞬間に疲れが一気に出てきてしまい、体が動かないので追いかける事はせずに休むことにした。











________


 本作を見てくださりありがとうございます。

 これにて一時完結とさせていただきます。理由につきましてはこの物語が、何の伝手もない少女が大好きなダンスを通して東京と言う街になれていくと事を軸にしていたからです。

 なのでこの辺で終わらせるのが人生としていいのではないのかと思いました。


 様々な伏線を張り巡らせたりしておりますが、それにつきましては人生と言う事でかたずけてもらいたいです。もしかしたら今後海は波乱万丈な人生を送るかも知れませんが、それはお好きに考えてください。

 考える人の数だけ海の可能性は増えます。もちろん私が書いてもいいのですがそれは少々興が無いと思ってしまい筆が動きません。まあいつか「都会少女のダンスは人気者」なんて題名で投稿しているかも知れませんが。


ここまで読んでくださりありがとうございます。次回作にもご期待ください。






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田舎少女のダンスは都会慣れしてない 人形さん @midnightaaa

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