四
滴る
「姉上、お土産です」
弟宮は水の滴る手桶を王妃に渡した。
「まぁ金魚じゃない、可愛い」
「市場で見つけたのです」
姉弟が話しているところに王もやってきた。
「私も持ってきたぞ」
と言いながら金魚絵の扇を渡した。
「私の好きなもの、ご存知なのですね」
「当たり前ではないか」
王は照れながら答えた。
キラキラ
「あのキラキラしているのが織女星なの?」
王妃は隣にいる弟宮に訊ねた。
「はい、銀河を挟んで向かい側にあるのが牽牛星です」
「牽牛と織女は念に一回しか会えないなんて気の毒ね」
「いえ、そこがいいのですよ。たまに会うから互いに愛しさが増すのです」
「あなた自身のこと?」
「違いますよ」
すいか
「夏はこれが美味しいわね」
王妃は弟宮が持ってきた西瓜を頬張った。
「本当に」
弟宮が同意する。
「でも採りたてを井戸水で冷やしたのには及びませんね」
その時、王がやってきて西瓜を一つ摘んだ。
「採りたてを食したことがあるのか」
「はい、西瓜は畑から採って食べるものだと思っていました」
王妃は微笑みながら応えた。
筆
最後の書類に署名して王は筆を置いた。
この筆は冠礼の時父親から贈られたものだった。
書きやすいものなので、ずっと愛用している。
玉座に就いた後、筆を手にするたびに父王のことを思い出す。
常に民と国のことを考えよと言っていたが、果たして自分は父の思いに応えているのだろうか。
夏祭り
「昨夜の夏祭りは如何だったか?」
王は弟宮に訊いた。
「王宮の花火が好評でした。郊外でも見えたらしいです」
「それはよかった」
「あと王宮前広場の夜市も評判がよかったです」
「そうか、そうか」
主上は満足そうに微笑んだ。
弟宮は“義兄上の努力の結実ですよ”と言おうと思ったが止めてただ頷いた。
木槿国の物語・夏は楽しく 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます