滴る

「姉上、お土産です」

 弟宮は水の滴る手桶を王妃に渡した。

「まぁ金魚じゃない、可愛い」

「市場で見つけたのです」

 姉弟が話しているところに王もやってきた。

「私も持ってきたぞ」

と言いながら金魚絵の扇を渡した。

「私の好きなもの、ご存知なのですね」

「当たり前ではないか」

 王は照れながら答えた。


 キラキラ

「あのキラキラしているのが織女星なの?」

 王妃は隣にいる弟宮に訊ねた。

「はい、銀河を挟んで向かい側にあるのが牽牛星です」

「牽牛と織女は念に一回しか会えないなんて気の毒ね」

「いえ、そこがいいのですよ。たまに会うから互いに愛しさが増すのです」

「あなた自身のこと?」

「違いますよ」


 すいか

「夏はこれが美味しいわね」

 王妃は弟宮が持ってきた西瓜を頬張った。

「本当に」

 弟宮が同意する。

「でも採りたてを井戸水で冷やしたのには及びませんね」

 その時、王がやってきて西瓜を一つ摘んだ。

「採りたてを食したことがあるのか」

「はい、西瓜は畑から採って食べるものだと思っていました」

王妃は微笑みながら応えた。


 筆

 最後の書類に署名して王は筆を置いた。

 この筆は冠礼の時父親から贈られたものだった。

 書きやすいものなので、ずっと愛用している。

 玉座に就いた後、筆を手にするたびに父王のことを思い出す。

 常に民と国のことを考えよと言っていたが、果たして自分は父の思いに応えているのだろうか。


 夏祭り

「昨夜の夏祭りは如何だったか?」

 王は弟宮に訊いた。

「王宮の花火が好評でした。郊外でも見えたらしいです」

「それはよかった」

「あと王宮前広場の夜市も評判がよかったです」

「そうか、そうか」

 主上は満足そうに微笑んだ。

 弟宮は“義兄上の努力の結実ですよ”と言おうと思ったが止めてただ頷いた。




 




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木槿国の物語・夏は楽しく 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

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