三
切手
「これから南方に行くんです」
片付けを終えたパティシエ船員が少年に言った。
「何しに?」
「小切手の換金に、この辺りの両替所じゃ出来ないので」
「そうか、賭場には行くなよ」
「はい、最近、賭場から出入り禁止になったんです、俺が一人勝ちするんで」
船員の言葉に少年は返事に窮してしまった。
群青
群青色の波を見ながらパティシエ船員は胸を弾ませる。
久しぶりの南方の旅だった。彼の地の市場には、木槿国や扶桑国には見られない食材や料理がいろいろある。それらを見たり食したりしながら、新しい料理を考える、実に楽しいことだ。
さて、今回はどんな食材に出会えるだろうか、早く着かないかなぁ
しゅわしゅわ
渡されたガラス杯からしゅわしゅわと音が聞こえた。
「炭酸水じゃないか、どうしたんだ」
少年の問いにパティシエ船員は
「この間南方に行った時、貰ったんです」
と答えた。
「ひと勝負してだろう」
少年の言葉に船員は応えず、ただ苦笑するのみだった。
少年は‘やはりそうか’と確信するのだった。
メッセージ
「お前宛に届いてるぜ」
少年が小包をパティシエ船員に渡した。
さっそく開けてみると賽子が2つあった。
船員はニヤリとした。
扶桑国の長者からのメッセージだった。
また勝負しようってことか。
「近いうちに扶桑国に行きます」
船員が言うと少年は「あっ、そう」と関心なさそうに応じた。
錆び
厨房で鼻歌混じりで働いているパティシエ船員に
「ご機嫌だね、何かいいことあったのか」
と少年が声を掛けた。
「扶桑国の研ぎ師に研いで貰った包丁の具合がとても良いんです、他にも鋏や鉄鍋も全て錆びがきれいに取れて新品のようになったんです」
「凄い研ぎ師だなぁ」
「王室お抱えの刀匠ですから」
絶叫
卓上に置かれた山盛りのプリンを見て少年は絶叫した。
「どうしたんだ、これ」
「玉子と砂糖が大量に手に入ったんで作ったんです」
パティシエ船員の答えに少年は事情を察した。
‘あいつに賭け事を止めさせるのは無理だろう。今のところ問題はないので、まぁ、いいだろう’
と少年は思うのだった。
氷
「暑い時はこれが美味いな」
大盛りのかき氷をかき込みながら少年は言うと
「今日のかき氷はドライフルーツ入りです」
とパティシエ船員が応じた。先日、帰郷した際に持って帰ってきたものだった。
「うん、果物も美味い。これ、この地域で売れそうだな」
「さっそく仕入れましょう」
船員は故郷に手紙を書いた。
標本
「こんなもんでいいですか」
少年を始め、船員たちは甲板に、それぞれ採って来た植物を並べた。
「これ、どうするんですか?」
「標本にして本国に送るんだ、研究者がこの辺りの植物が欲しいって言うんで」
少年の問いに船長が答えた。そして
「さぁ、標本作り始めるぞ」
と言うと、皆、げんなりした。
揃える
「この間の標本に対して本社から感謝状が届いたぞ」
船長の言葉に少年たちは“わぉ!”と歓声を上げた。
「依頼した研究者が、よくこれだけ揃えたものだと感心したそうだ」
船長は一区切りして言葉を続ける。
「そこで、つきましては再度依頼したい、とのことだ」
一同、うんざりした表情になった。
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