二
団扇
「御存知ですか、世間ではお二人は左団扇で生活しているって言ってますよ」
少年は店の奥で昼酒を飲んでいる生員と画員に言った。
「そう見えるのか」
二人は苦笑した。そこに画員の妻がやって来て
「何が左団扇よ、ただのヒモ生活じゃない」
と冷たく言い放った。
少年は大笑いし、画員は頭を掻いた。
くらげ
店に入った画員の妻は夫の横に座り、少年に酒を持って来させた。
画員と生員は驚いた。
「何かあったのですか」
生員が聞くと妻は上司の悪口を言い始めた。
「あの人はくらげの骨を持って来いとか無茶なこという人ですからね」
生員は慰め口調で応じた。
妻の杯に酒を注ぎながら、画員は妻の好物を注文した。
その名前
「お前の上司、何て言ったけ、ええと」
画員が酒を注ぎながら妻に言った。
「やめてよ、その名前聞いただけで気分が悪くなる」
こう応えると妻は一気に酒を飲み干した。
「夫人は酒が強いんだね」
こう言いながら生員も再度、空杯に酒を注ぐ。
妻の顔が少しづつ和らぐのを見て二人はほっとした。
なみなみ
杯になみなみと注がれた酒を一気に飲んだ画員の妻は生員と夫の杯に酒を注いでやった。
少年が持ってきた料理を食べて、すっかり気分がよくなった妻を中心にして三人は酒盛りを始めた。
暫くすると、妻が「後はよろしく」と少年に勘定を払って店を出た。
残された男二人は酔い潰れて卓上に伏していた。
金魚
手水鉢の中の金魚を眺めながら、少年は笑ってしまった。
昨日の画員夫人はまさに「手水鉢の金魚」、杓に触る〜癪に触る状況だったのだろう。
扶桑国には面白い諺があるなぁと思っていたところ、生員がやって来て金魚を買って行った。「あら、金魚売れちゃったの」
直後に来た画員の妻ががっかりした。
水鉄砲
王宮前広場の夜市に店を出した少年のもとに生員がやってきた。
「売れ行きはどうだい」
「はい、お陰様で」
こう応えながら少年は扶桑国の水鉄砲を見せた。
「一番売れています」
「子供の頃よく作ったなぁ」
手に取りながら生員は都は何でも売り物になるんだなぁと感心した。
「生員どの、今度ウチで売りましょう」
貼紙
「このところ姿を見ませんでしたが」
久しぶりに店に来た生員に少年が言った。
「城門に白日場開催の貼紙が張り出されてから、書堂に受験生が押し寄せて大変だった」
「今回は誰でも受けられますからね」
「そして我が書堂は授業料は無しだ」
「それはいい」
「だけど私はタダ働きだ」
生員は苦笑した。
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