第×話エターナル

ある男性。恋人とずっと一緒にいたい。恋人も男性とずっと一緒にいたい。

そこで互いにレンタル・ドールを利用した。


記憶は定期的に更新した。

これでどちらかが亡くなっても側に帰ってくることができる。

二人は勘違いをしていた。


二人の願いは「ずっと」一緒にいること。

レンタル・ドールを利用したとしても永遠はありえないのだ。レンタルはあくまで貸し出しである。借りたものは返さなければいけない。

「ドール」はいつか「ドール本人」のものへと返さなければいけないのだ。


男性は気づいてしまった。

この恋にもレンタル・ドールのように期限があるということに。


そんなとき、恋人が亡くなった。


かつて決めていたように自我を抜き取り、ドールへ複製記憶と共に移植しよう。男性は決めた。

そして、最期の期限付きの時間は始まった。


見知らぬ女性の顔をした、見知った恋人。

男性は不思議と受け入れることが容易にできた。

そして、男性は考えた。この恋を永遠のものにするためにはどうすればいいか。

男性は恋人と相談し、計画した。そして、実行した。




ドールをレンタルしている間に、彼らは複製記憶を更に複製し保存した。レンタル・ドールを利用中に更に次のレンタルを予約しようというのだ。

そして、レンタル期間中にドールと繋がっているだけの自我を次のドールへ移植した。もちろん、二代目の複製記憶も一緒にである。

そんなことは誰もしたことがなかった。




結果はどうなったか。







今年、男性だった人と恋人だった人は付き合い始めて百年目を迎えようとしている。

生きていた時の名前を互いに呼び合い、懐かしい思い出を語り合う。明日も明後日も、来年も十年後も百年後も一緒にいようと記憶を複製し続ける。

見た目が女性の「男性」と、見た目が男性の「恋人」は側で笑い合う。




「永遠の恋ってこういうものなのかもしれない」


二人を見た人はそう思うらしい。




男性と恋人は誰にも聞かれないくらい小さな声でこう囁いていた。













「そろそろ、赤ちゃんをつくってもいいかもね」













レンタル・ドールの使い方は人それぞれである。これは、それを証明した一つの例である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

レンタル・ドール 犬屋小烏本部 @inuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画