第7話 終焉

 最下層、黒い石の壁で覆われた異質な空間だ。

 壁の隙間から青い光が漏れ、辺りを明るく照らしている。


 通路に等間隔に並べられた屈強な戦士の石像は今に動き出しそうなほど生々しさがある。

 通路の突き当りに扉があり、その前に巨大な金属の鎧が立っている。

 洞穴兎が近づくと、それは動き大剣を振り上げた。

 鉄巨人タロスだ。

「何人たりとも、ここは通さぬ」

「待って、化け物が来ている」

「よく見れば人間ではないな。

この奥にいるのはダンジョンの主である」

「ええ、知っている。

主様に助けてもらいに来たんだ」

「良いか、この門を開けば石人形ロックゴーレムが目覚め動き出す。

奴らは熱を感じ襲う」

 洞穴兎は自分も標的にされることを理解した。

「解った、行く」

 鉄巨人は、扉を開く。

 同時に通路に立っていた石像が動き始めた。

 洞穴兎は一気に駆け抜けていく。



 石人形を砕きながら通路を気の塊が通り抜けて行く。

 鉄巨人はそれを全身で受け止めていた。

 両手を広げ壁を掴むが、削れ後ろへと押されていく。

 ズズズと削れ、そこに溝が出来ていた。

 避ければ、洞穴兎が昇天していただろう。

「はぁはぁ……、なんという気、これが化け物!」

 鉄巨人の鎧が砕け崩れ落ちていく。

 大剣を手に取り、迫り来る女に向けた。

「ここは通さぬ。

我が剣に誓って……」

 振り下ろした大剣は床を砕き、石を飛ばした。

 そんな小石は、女を包む気に弾かれ砕けて消える。

「魔物に祝福を……」

 女は棒を振り下ろす。

 鉄巨人はよろめいたが意地で踏ん張り耐えた。

 後一撃喰らえば死ぬ。

 生命を振り絞り最後の一撃を繰り出した。

 鋼鉄の鎧さえ切り裂く大剣だ。

 当たれば間違いなく真っ二つだろう。

 鉄巨人は目を疑った。

 大剣が木の棒に受け止められていた。

「なぬっ!」

 大剣に亀裂が入り砕ける。

 同時に、女の一撃が鉄巨人を貫いた。

 鉄巨人は呟く。

「貴様は勇者なのか……?」

「いいえ、彼は眠っています」

 勇者でもない、謎の女に倒された事に鉄巨人は驚いた。

 そして、笑いがこみ上げてくる。

「はっははは……」

 その笑い声と共に鉄巨人は消滅したのだった。



 ダンジョンの主の元にたどり着いた洞穴兎はひれ伏していた。

「どうかお助けください」

 ダンジョンの主は、ローブを着たトカゲ人間だった。

 竜人ドラコニと呼ばれている。

「ほっほほ、そう怯えずとも良い」

 竜人は洞穴兎の頭を撫でながら言う。

「やっと時が来たようじゃな」

「嬉しそうですね」

「この地がどうして"始まりの洞窟"と呼ばれているか知っておるか?」

「最初に作られたからですかね」

「不正解じゃ。

ここから伝説が始まると言い伝えがあるからじゃ」

 竜人は宝箱を開き、装飾を身に着け始めた。

 金銀で作られ宝石がはめ込まれている。

 派手で動くたびにジャラジャラと金属音が鳴り響く。

 そんな豪華さに反して、やせ細った杖を握りしめている。

 洞穴兎はその歪さが気になって聞く。

「その杖は?」

「これは先代から受け継いだ杖じゃ。

使う時が来るかと思い、毎日のように磨いておった」

 どれだけの年月を待ったのだろうか。

 その杖は、色あせない輝きと不気味な気配が漂っている。

「凄い……」

「解るか。

では頼まれてくれんか?」

 扉越しからでも聞こえて来る激しい戦いの音。

 それが徐々に迫っている。

 

「でも……」

「まだ時間はある。

それに最後の頼みになるかもしれぬな」

「解りました」

 竜人は宝箱から巻物を取り出すと読み始めた。

「勇者よ。

よくぞ、最下層まで辿りついた」

「えっ勇者?」

「練習じゃ。

ぶっつけ本番で噛んでは恥ずかしいじゃろう」

「なるほど、では聞きます」

「ああぁ、我は魔王の下僕である……」

 振動と共に、天井の一部が崩れ落ちた。

 鉄巨人の笑い声が響いてくる。


「そんなに可笑しかったかのぉ?

練習する時間は残されておらんようじゃ」

 竜人はメダルを洞穴兎に渡した。

「では預かっておいてくれ」

 洞穴兎はメダルを咥え話せない。

 頷くと、奥の部屋に隠れた。



 洞穴兎は小さな部屋にいた。

 そこには空の宝箱が一つ置いてあるだけだ。

 洞穴兎は、その宝箱に入り待つ。

 竜人の台詞が聞こえてくる。

 聞き逃さないように洞穴兎は耳を立てた。

 どうやら噛まずに最後まで言えたようだ。

 洞穴兎はホッとして気を抜いた。

 衝撃音がして、扉が開く。

 洞穴兎は驚き宝箱から顔を出した。

 棺桶を引きずり女が入ってくる。

 洞穴兎の口からメダルがこぼれ落ち、女の足元に転がった。

 女はメダルを拾うと微笑んだ。

「よろしく」

 女は手を伸ばした。

 洞穴兎は恐る恐る、同じように手を伸ばす。

 女は洞穴兎の手を握る。

 この時、洞穴兎は光に包まれた。


 体を縛っていた魔王の呪いが解けていく。

 永遠にダンジョンに縛られる不死の呪いだ。

「もしかして開放されたんだ」

 洞穴兎は喜び、跳ねた。


 メダルには始まりの洞窟クリアおめでとうと書かれていた。

「じゃあ、君はピョン太って名前で良いかな?」

「はい!」

 こうしてピョン太は、彼女との冒険へ出ることになった。



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冒険者が来る 唐傘人形 @mokomoko_wataame

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