第6話 熱い

 壁からマグマが垂れ赤く輝いていた。

 マグマの湖を割くように、稲妻のようなジグザグの細い道が続く。

 洞穴兎は毛がべったり引っ付き痩せて見えるほどに汗をかいている。

「暑苦しい、毛を全部刈り取ってほしいぐらいだ」

 すぐに通り抜けたいが細い道を踏み外せばマグマへ落ちることになる。


 マグマから巨大な蝸牛かたつむりが現れ道を横断し始めた。

 体は赤くほんのり光っている。

 殻は黒くツルツルそうな光沢を放っている。

 溶蝸牛マグカルゴだ。

「通してほしい」

 洞穴兎の声にも無反応にゆっくりと溶蝸牛は動いている。

 とても遅く、しびれを切らした洞穴兎は軽く溶蝸牛を叩いた。

 ボアッと手に火が灯った。

「アッチチチ……」

 洞穴兎は涙目になりながら地面にこすりつけて火を消す。

 もう待つしかないように思えた。

 あの引きずる音が聞こえてくる。

「そんな大分、引き離していたはずなのに……」

 もう待っている余裕はない。

 死神が迫ってるのだ。

 洞穴兎は覚悟を決めて、溶蝸牛の殻に飛び乗った。

 そこは冷たく乗っても平気がだが掴みどころがなく滑り落ちそうだった。

 重さを感じて嫌がったのか溶蝸牛が体を揺らした。


 洞穴兎は滑り落ち、危うく道から飛び出しマグマに落ちそうになった。

「ひいぃぃっ、危な!」

 まだ先は長い、マグマから火の柱が飛び上がる。

 それは龍のようにうねり道を飛び越えマグマへと潜る。

「炎のギミックまであるのか……」

 洞穴兎の後ろで衝撃音がしたかと思うと溶蝸牛の殻が砕かれていた。

 溶蝸牛は魔石へと姿を変え、棺桶を引く女の姿が見える。

 遮るものもない。

 洞穴兎は死にものぐるいで走る。

 炎で焼かれ死ぬのも、叩き殺されるのも嫌だからだ。


 阻む溶蝸牛を飛び越え、火の柱を掻い潜る。

 洞穴兎の体はいつの間にか乾き毛がふさふさになっていた。

 それほどに暑く汗すら一瞬で蒸発した。

「焼け死ぬ……」

 生きたまま丸焼きにされるようにされるようだ。

 そんな道を突破した。


 広い空間が広がっている。

 そこには一匹の赤い竜ブラッドドラコが寝ていた。

「ダンジョンの主様ですか?」

 赤い竜は片目を開けると直ぐに閉じた。

「持ち場に戻るが良い……」

「化け物が来ています。

助けてください」

 赤い竜は再び目を開くと、驚いて立ち上がった。

 洞穴兎は退いてくれたのだと思い、その下を通り地下へと進んだ。

 赤い竜は問う。

「どうしてこの地へやって来た。

貴様が来るような場所ではない」

 棺桶を引きずる女は言う。

「解らない。

ただ、ここに行かないといけない気がしたから」

「どうしても行きたいと言うなら我を倒していけ」

「はい」

 赤い竜には役目があった。

 それは、ここに来る新参者に助言を与え勇気を授けると言うものだ。

 彼女には、それは必要はない。

 何故なら、もう赤い竜を超えているからだ。

 たった一撃の拳が赤い竜の肉体を貫く。

 悲鳴を上げ崩れ落ち、赤い竜は魔石へと変貌した。


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