第5話 氷の世界

 地下5階は凍てつく寒さが体を切り裂く。

 一面、凍りついた白銀の世界が広がっている。

 輝く氷は光を乱反射し、一筋の光の道を作っている。


 洞穴兎は殆ど歩くことが出来ず、障害物にぶつかるまで真っ直ぐに滑ってしまう。

「ううぅぅ……、冷たい」

 ツルッと滑り転んでしまう。

 どこからともなくケラケラと笑い声が小声が響く。

「何処に居るんだ?」

「ここにいるよ」

 白い霧が集まり蝶の羽根が生えた小人の姿となった。

 氷精フロスフェアリだ。

「奥に行きたいんだ」

「ケラケラ……、だったら飛んでいけば良いのに」

 氷精は洞穴兎の頭の上を円を描くように飛んでみせた。

「君みたいに飛べないよ」

「それは残念ね。

上をよく見て」

 天井から氷柱が幾つも伸びていた。

 そこに巨大な蜘蛛が巣を張り巡らせている。

「あれは……」

「光を遮るとどうなるか試してみたら。

あの岩なら押せるんじゃない?」

 氷精が指差す先には、大きな石がある。

「あんな岩動かせない……」

「だったら諦めることね、ケラケラ……」

 洞穴兎の脳裏にギミックという言葉が浮かんでいた。

 自分と同じぐらいある岩は重くて動かせない。

 だがギミックなら見かけに反して動かせる。

「ええっい、物は試しだ」

 洞穴兎は、思い切って体当りしてみせた。

 ぶつかった衝撃でその場で止まり、反動で大きな石が動いた。

 そして光を遮った時、上から氷柱が直撃して大きな石は止まった。

 生身だったら串刺しになっていただろうと、洞穴兎は肝を冷やした。


 岩と蜘蛛を利用して、この滑る床をくぐり抜けるのがこのフロアのギミックなのだろう。

「もっと楽に先に進めないのかい?」

「ケラケラ……、一番簡単な方法がある。

教えて欲しい?」

「なんだ、あるなら勿体ぶらずに教えてくれよ」

「光に飛び込めば良いの」

「そんな事したら死ぬじゃないか」

「ケラケラ、正解」

 死に戻り、魔物は死ぬと元の場所で生まれ変わる。

 すべてのが何もなかったかのように消され別の個体して生きることになる。

「そんなは嫌だ」

「ケラケラ……、付いて来られたら。

奥の行けるかもしれない」

 氷精は、ゆっくりと飛んでいく。

 その後を追うように洞穴兎はついていく。



 案内を終えた氷精は元の場所に戻り訪れる者を待った。

 棺桶を引きずる女がやってくる。

「ケラケラ……、ようこそ」

 氷精は笑いながら光の道へと女を誘導した。

 何も疑う様子はなくついてくる。

 もうすぐ串刺しになると思うと笑いが止まらない。

「ケラケラ……、さあ私と一緒に踊りましょう」

 氷柱が降り注いだ。

 輝き光が散った。

 砕けた氷の破片が光を乱反射させたのだ。

 ギミックは彼女の前では無力だった。

 棒を振るうだけだ。

「ありがとう、次の階にたどり着けたわ」

 女はすっと、何事もなかったかのように階段を降りていく。

「光の道こそが最短、けどそれは罠。

ケラケラ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る