第4話 監獄

 そこは牢獄だった。

 通路の左右には等間隔でサビつき崩れかけた鉄格子が並んでいる。

 点々と転がる人の骨が不気味さを醸し出している。

 洞穴兎は恐る恐る進んでいく。

 カタカタと音を立て骨が立ち上がる。

「ぎゃあっ!」

「コッココ……、驚くでない」

 呪骨スケルトン、死者の怨念が魔物となったと言われているアンデットだ。

 陽光を浴びれば消滅すると言われており、こんな日の届かない場所にしか存在しない。

 洞穴兎は、彼らを見るのは初めてのことだった。

「まさか魔物だとは思っても見なかった」

「お主のような、臆病者がどうしてこのような闇の世界へと来た?」

「恐ろしい化け物から逃げてきたんだ」

「コッココ……、それは見てみたい。

ワシも生前は化け物を撃退した」

「弱いから死んだ……」

 呪骨は言葉を遮るように、床のタイルを踏んだ。

 壁から幾つもの槍が飛び出し体を貫く。

 骨だけになっていなければ串刺しだっただろう。

「ギミックに殺られた。

できれば戦って勇ましく散りたかった」

「……その願いが叶うかも」

「コッココ……、まあ何かの縁だ。

安全な道筋を教えてやろう」

 

 その通路は罠が多く仕掛けてある。

 振り子の鎌が時折、顔を出す。

 ふわふわと浮かぶ透き通った人影が手招きする。

「なんだろう……」

 洞穴兎が近づこうとした時、呪骨が洞穴兎の長い耳を掴んで止めた。

「コッココ……、足元をよく見ろ」

 タイルが敷き詰めてある普通の床に見えた。

 呪骨が石を蹴飛ばすと、石が床を跳ねていく。

 その途中で石が消えた。


 床は幻で、そこには深い穴があり落ちれば棘に串刺しにされただろう。

「ひっ……、こんなギミックが」

「コッココ……、ワシを信じれるなら付いて来い」

 洞穴兎は死者達の招きに恐怖した。

 皆、命を奪い取ろうと動いたいるのだ。

 呪骨の事も信じて良いのか洞穴兎は解らない。

 希望を見せて後で裏切り絶望を与える者もいる。

 もしそうだとしても、この道を助言なしに切り抜けられないだろう。

「信じれるのは自分だけ、だから行く」

 呪骨の後に付いていくことにしたのだった。


 そして奥の部屋にたどり着いた。

 門があり、その前に骨が転がっている。

 洞穴兎は、それに声をかけた。

「どうも、奥に行きたんですけど」

「コッココ……、それはただの屍」

「紛らわしい……、では扉を開けますね」

「待て、ワシが開いてやろう」


 扉が開かれ、階段が姿を表す。

「ありがとう」

 洞穴兎が奥へと去った後、呪骨は門を閉ざしその場で待った。

 


 さほど待たずに引きずる音が響いてくる。

「コッココ……、さて化け物とのご対面か」

 呪骨には目がなく、生命が放つ気を感じるのだ。

 火龍ルビードラゴンを超えるほどの化け物が迫っている。

 それは言う。

「呪縛に囚われた魂に救済を!」

 呪骨は剣を構え駆けた。

 渾身の鋭い突きが空を切る。

 そのまま駆け抜け右足を支点に回転し背後を取った。

 激しく剣を振り回し激戦を繰り広げていた。

 最も気の集中する場所、心臓を貫ける。

 それが呪骨の最後に思った事だった。


 女の頭上を呪骨の古びた剣が何度も通り抜けた。

 呪骨の攻撃は全くの空振りだった。

 呪骨が満足げに笑い動きを止めた。

 女が呪骨に軽く触れると操っていた糸が切れたかのように骨が床に転がった。

「彼に祝福と安らぎを……」

 祈りを捧げると床に転がった骨が砂のように粉々になり風と共に舞い散った

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