狐の嫁入りに参列した時の話
水瓶と龍
お狐様
これは俺がまだ小学生の頃、だいたい二十年くらい前の話。
俺は小さい頃夏休みになると田舎のじいちゃんちに毎年遊びに行っていたんだ。
その田舎はその頃からもうすでに過疎化が進んでいて近所の子供は数えるくらいしかいなかったんだ。
その中でも同い年のKって奴と遊ぶのが毎年の楽しみになっていたんだ。
Kは絵に描いたような
それでそのKと川でザリガニを取りまくっていた時にそれは起こったんだ。
俺とKは夢中で川の中をガサガサしてたら、急にKが「あ……」とか言ってガサガサするのを止めて立ちすくんでいたんだ。
俺は「どうしたん?」って聞きながらKが見ている方を見ると黒い着物みたいなのを着て頭に白い被り物をした人たちが列を作って歩いてたんだよ。多分、三十人位いたと思う。
Kはそれを見て「うわぁぁ」って言いながら釣り竿も水槽も餌のスルメも放り投げて走って逃げて行っちゃったんだ。
でも俺はその列を見て、何だかお祭りみたいで楽しそうだな、って思ってその列の最後尾にこっそり参列してみたんだよ。
そしたら最後尾の人が少しギョッとした様子で俺の方を見てから口に指を当てて「シー」ってやって俺に喋らない様に促したから俺は「あ、これは静かに歩くものなんだな」って思ってその人の言う通り何も喋らないで他の人と同じ様に静かに歩いたんだ。
今こうやって「他の人」って書いてるけどよくよく思い出すとどう見ても人じゃなかったんだけどね。口は尖ってるし、目は吊り上がってるし、顔中に毛が生えてるし。
でも俺が何故かそれを「人」だと勝手に思い込んだのは、隣に居た人からものすごく甘い、いい匂いがして、表情は人のそれとは違うはずなのに凄い穏やかで優しい表情をしている様な気がして何だか心地よかったんだよ。
その列はもの凄くゆっくり進むんだ。
一歩ずつって言うのかな、右足を出したら両足を揃えて一回止まって、次は左足を出してまた両足を揃えて止まって、っていう感じで。
何するにしても落ち着きが無かった俺がそれに
そうやって暫く歩き続けてたら山の入り口に着いたんだ。
その山には入り口に鳥居があってそこを進んで行くと稲荷神社があったんだ。よくKと一緒にそこで虫取りしてたから良く知ってたんだ。
それで入口の鳥居をくぐる前に、先頭のひと際豪華な着物を着た人達が何かお辞儀?みたいな作法を始めたんだ。
そしたら俺の横に居た人が「もう行きなさい」って、雰囲気で俺を見てきて、それがどうにも抗えない程厳しい感じでさ、「あぁ、子供はここから先は行けないんだな」って思って俺はその列から離れて走って家路に着いたんだ。
そしたら途中で太陽の光がきつく照り付けてるのに急に強い雨が降って来て、俺はバカな子供だったから「すげー、天然のシャワーだ!!」なんて考えて両手広げてその雨を受けたり、雨に濡れた髪の毛をサッてかき上げてカッコつけてみたり、どうせ濡れたんだからって水たまりにわざと足突っ込んでみたりして遊びながらじいちゃんちに帰ったんだ。
それでじいちゃんちに帰ったら俺と同じ様に濡れたじいちゃんがタオルで体拭いてて、俺を見たばあちゃんが「あらあら、お前も狐の嫁入りに当たっちまったんだね」って言いながら俺の体をタオルで拭いてくれたんだ。
それで俺はばあちゃんに体拭かれながら今あった事を話したら和やかだった雰囲気が一気にピリついて、急にばあちゃんに服を脱がされて風呂場に連れていかれたんだ。
もう高学年だった俺は恥ずかしくて嫌だったけど、そんな事も言えないような雰囲気でさ。それで風呂場に着いたらばあちゃんがこれでもか、って位俺に塩を体中に擦り付けてきて、日焼けした肌に塩が滅茶苦茶染みて痛くて「止めてよ」って言っても「いいから」ってばあちゃんは塩を俺に擦り続けて来たんだよ。その時、砂掛けばばぁかよ、って思ったのは内緒だけど。
それでひとしきり塩を掛けたら次は冷たい水を頭から掛けられて飛び跳ねるかと思ったよ。
それでやっと終わって着替えたらじいちゃんに仏間に呼ばれて、どうしてこんな事をしたのかって理由を聞かされたんだ。
「お前が見たのは狐の嫁入り、って言うもんだ。この地域ではな、大昔から時々人が急に居なくなってしまう事があって、それがいつもこういう、晴れてるのに雨が降っている時に限ってそれが起こるんだよ。それでな、狐の嫁入りの列を見ているとその気が付かれたら、その参列者と同じ様にお狐様に取り込まれてしまうって言うのが、この地域では昔から言い伝えられてきたんだ。じいちゃんが若い時にも一人近所の女の子が居なくなってしまった事があって、それもやっぱりこんな晴れているのに雨が降っている時だったんだ。だからその子はきっとお狐様になってしまったんだろうって言われているんだ。それからもう何十年もそんな事は無かったんだが、言い伝えだけ残っていてな。だからKはそれを見た途端に逃げ出したんだろう。お前は本当に運が良かったんだ。そのまま鳥居をくぐってしまっていたらきっとお狐様の仲間にされてしまっていただろう。本当に良かった」
俺はその話を聞いてからも上手く実感が湧かなかったんだけど、夕飯食べて、布団に入ってから急に怖くなったんだ。
もし、俺もお狐様とやらにされていたらどうなっていたんだろう。
ずっと、ああやって歩き続けなくちゃならないのか。
もうKとも誰とも遊べないのか、とか考えて眠れなかった。
でもどうして俺はあそこまで行って帰ってこれたんだろう、って考えたら、やっぱり隣に居た人が、いやお狐様が俺を帰らすように強く促したからだろうなって思うんだ。
もしかしたらそのお狐様はじいちゃんが言ってた、最後に居なくなっちゃった女の人だったのかな、って考えてたらいつの間にか寝てた。
もうじいちゃんもばあちゃんも亡くなっちゃって、あの田舎には行く事は無いと思うけど、狐の嫁入りが降る時はこの記憶が鮮明に思い出されるんだ。
怖いけど、不思議で貴重な記憶。
昔話に付き合ってくれてありがとう。
狐の嫁入りに参列した時の話 水瓶と龍 @fumiya27
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