現実主義のオレなのに、魔王から幼馴染を助けるハメになった件!
木村 仁一
プロローグ
小さな丘のような高台に1人の少年が右手にミサンガを握りながら横たわっていた。勿論気絶しているだけで生きている。
彼は私立・
ノンフィクション作家の父親の影響で何事も現実的に考え、空想、主に今のライトノベルやアニメにあるような空想などを無駄に否定したがる……夢の無い男だ。
「もしもーし、生きてるだかー?」
「……んん」
ギンタは謎の声に目を覚まし、頭を抱えながら上半身を起こした。
「……生きてるよ奇跡的に……」
まだ意識がはっきりしない中、ギンタは周りを見回した。
「あれ?」
しかし声の主が全く見当たらない。
「ココですだ」
ギンタは声のする方へ向くとそこには……二本足で立つネズミ……。
ネズミは手――正確には右前足――を上げると「やーですだ」とギンタに挨拶し――
「わー、ネズミが喋った⁉」
「ネズミが喋っちゃ変ですだか?」
「普通に変だろ‼」
ツッコミを入れるギンタだが、確かにネズミが喋るのはおかしい、だが間違いなく会話をした。
「って言うかどうなってんだ。何で俺ネズミと話してんだ⁉」
改めて周りを見渡し、そして今、自分は純情じゃないことを知る。
日没のような赤い空に、辺りは枯れたような草木が所々あるだけの荒野。
見える建造物といえば、ギンタの正面に見える、どこまで広がるか分からない程の高いレンガの壁とその中の唯一の出入口である、重々しく閉ざされた鋼鉄の両開きのトビラが存在しているだけだ。
壁の向こうには広い迷路や霧に包まれた森だろうか、その先に佇む大きな城が見える。
そして近くに確認出来る生物と言えば、ギンタの側にいるネズミが一匹だけだ。
明らかにここは日本ではない。
その状況にギンタは大きく深呼吸し冷静になろうとするが……
「ココは何処なんだー!!?」
やはり無理だ。
ギンタは両手で自分の頭を抱え絶叫ともいえる程の大声を上げる。その後に続くのは虚しいこだまだけだ。
「……絶対ありえない、これは夢だ。あーギンタ、早く起きろー。これはシノブが……そうシノブが蛇で脅かされて気を失っているだけだ……」
そう言うとギンタは自分の頬を抓った。ちなみにシノブとはギンタの同級生で幼馴染の女の子だ。
しかし、いくら頬を抓ったところで全く風景が変わる気配がない。ただ頬が痛いだけだ。
それでも納得いかないギンタは、抓るのを止め、今度は頬を思いっきりグーで殴った。
さっきよりも痛みが大きく思いっきり自分の殴った頬を抑えた。
「痛だい! 夢でも殴ると痛いんだな」
それでもまだ現実を受け入れようとしない。
すると――
「夢ではなく現実だ」
突然男の声がギンタの背後から聞こえた。
「ウォー、どっから現れたんだオマエ!!?」
驚きながらギンタが背後を振り返ると一人の男が立っていた。
男は長身の美形で、長い金髪だが下半分は塗り忘れたのかと思わせるように黒くなっている。
黒い中世時代の公爵を思わせるデザインの服の上に、金の糸で何か模様が装飾されたドラキュラのようなマントを羽織っている。
一見すると人間にしか見えないが、この男は先ほど壁の向こうに存在する城の持ち主で、ギンタがこの世界に来てしまった元凶、魔王・ゼオス。
そう、ここは異世界。そしてこれは紛れもない現実なのだ。
現実主義のオレなのに、魔王から幼馴染を助けるハメになった件! 木村 仁一 @jin-ichi357
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