一分の零

「ねえ、俺、どうしたらいい。」

「雄馬、ちゃんと、私の分まで生きてよ。下には来ないけど、ずっと、ずっと見てるから。」

「生きる、かぁ。生きてたら、なんか、あるかな。」

「それがわからないから生きるって楽しいんじゃないの?あ、もう頭の方がなくなってきちゃった。」

「そうだね。俺も頑張るから、はるも、頑張ってね。俺と出会ってくれて、ありがとう。」

 はるの中身のない手が雄馬の顔をしっかりと触りながら、大粒の涙をぎこちなく流していた。

「さよならは、言わなくていい?」

「うん、お前はずっと、俺の中にいるから。」

「事故には、気をつけてね。」

「うん。」

 24時になった。少しずつ、ピースが崩れるように消えていった。さっきまで、死んだはずのはるがいた。生きろ、と俺に言った。そういった事実を手に握りながら、空に舞っていったはるを見つめた。去りゆく顔は、微笑んでいたように見えた。

 この様子を見ていた看護師は、雄馬が涙をシーツに垂らしながら、ぶつぶつと話している姿に、気味を悪くしていた。

 夜が明けた後、雄馬は意識を取り戻した。母はハンカチを目元に当てながら、世話になった看護師さんたちにペコペコしていた。雄馬自身も、生きることに前向きになったように見えた。

『雄馬、明日は一緒に何しようか!』

『よし、明日は、映画見に行こう!一緒に見よう。』

『うん!一緒に!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二四時間の幽霊 市井さぎり @siseisagiri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ