友達の元カノと

アオムラリコ

第1話.違和感


「おはようございまーす!」


GWも終えた5月の末、中小企業に勤める普通のサラリーマンの俺、新垣拓真はいつものように会社に出社していた。


タイムカードを押しデスクに座り、パソコンの電源をつける。

そしていつも通り、朝から仕事の書類に目を通す。


「新垣くん、A社の見積もり決まりそう?」


「はい!決まりそうです。あとは日程調整だけです!」


「そうか!A社はうちの常客だから頼むぞ!」


「はい!」


上司と仕事のやり取りをして、客先からの依頼相談、見積対応などをしていると気がつけばお昼の時間になる。



「行ってきまーす!」


午後から客先と打ち合わせがあるため、会社を出て車に乗り込む。



「ピコン!」


車を走らせて間もなくに俺のスマホが鳴る。

メッセージ通知だ。



『木下優衣:今日の夜空いてるー?』


木下優衣、俺と同い年の25歳。高校生からの友人で、今でもよく飲みに行く仲だ。


コンビニに車を停めて、メッセージを返す。


『空いてる!』


きっと飲みの誘いだろう。


『飲みいこ!』


明日は休みで特に予定もないしな。


『いいよ!19時に新橋でどう?』


『了解!じゃああとでねー!』


さて、飯でも食うか。

俺はスマホを閉じ、コンビニへと入る。


---------


「お疲れ様でーす!」


時刻は18時、定時は17時だが一度帰宅するのも面倒なので、少し残業をしてから俺は退社した。


電車を乗り継ぎ新橋まで向かう。


改札を出て優衣にメッセージを送る。


『着いたよ!』


『私ももう着く!』


優衣からすぐ返信があり、優衣の到着を待つ。



「拓ちゃん!おつかれー!!」


OL風のスーツを着こなし、肩にかかるくらいの茶髪、片手に黒い鞄を持っている優衣が手を上げて俺を呼ぶ。


ちなみに俺は短髪の黒髪をワックスで軽く整えている。



「おー!おつかれー!」


俺も同じく手を上げて反応する。


「あれ?てか雄介は来ないんだ。てっきり一緒かと思ったわ。」


「声はかけたけど行かないって!」


「へーー」


雄介とは赤松雄介(アカマツユウスケ)

俺たちと同い年で、結衣の彼氏だ。雄介も昔から仲が良く今でも連んでいる。


いくら仲が良いとはいえ、友達の彼女と2人で飲みに行くのは気になったが、雄介が把握してるならいいか。


「じゃあ適当に店探そうかー」


「うん!」


俺と優衣は2人で並んで歩き、店を探した。

俺は168cmで男では小さいほうだ。

それでも優衣と並ぶとそれなりに差はでる、多分150後半くらいだろう。



「お!ここいいじゃん!」


しばらく歩いていると、優衣が居酒屋の看板を指す。


「じゃあここにするか!腹減ったー」


「ね!早く入ろ!」


店内に入ると賑やかな雰囲気だ。

店員さんに案内され、席に通される。


「とりあえずビール2つとだし巻き卵ください」


俺は席に着くなり注文を頼む。


「やっぱだし巻きは安定だよねー、私このもつ煮食べたい!」


「お!いいねー」


そんなやり取りをしているとビールが届く。


「「おつかれー!」」


2人で軽くガラスを合わせビールを飲む。


そこからしばらくはお互いの仕事の話で盛り上がり、酒も進み始めた頃だった。


「てかさー、この前はごめんねー、私たちの喧嘩に巻き込んじゃって」


「いいって!もう2ヶ月前とかの話じゃんか、気にするなって」


「ありがとう」


「優衣の取り乱し方にはびっくりしたけどなー」


「やめてよ!」


笑いながらそんな話を始めた優衣だが、どこか悲しそうな表情にも見えた。


ちなみに喧嘩とは優衣が雄介と喧嘩した話だ。

2人は同棲していて、些細な事から口論になり雄介が物に当たってしまったようだ。


そして優衣が取り乱し、収まりがつかず近くに住んでいる俺を雄介が呼んだわけだ。


正直困惑したが、放っておけないので直ぐに行き何とかその場は落ち着いた。


「まあ理由はなんであれ、男が物に当たったらだめだわなー」


「、、、そうだよね、、」


「なんかあったの?」


明らかに優衣の様子がおかしい。


「実はさ、あれから雄介の事好きなのかわからないんだよね」


「え、、」


「それ以前から会話も少ないし、なんか一緒に居て意味あるのかなって、、雄介ゲームばかりして休日とか出かけるとかもないし」


「そんな感じだったのか、俺が見てる時は普通だったから分からなかったわ」


「そりゃあ拓ちゃん達がいる時はね、みんなが盛り上がるから自然とね、だからみんなといる時の方が楽しくてさ、余計に考えちゃって」


確かに最近は優衣から誘われて、俺や他にも数人集まる事が多かった。

気にしてなかったけど、そういう事だったのか。


「ちゃんとその気持ちは伝えてるの?」


「伝えてるけど、雄介は気をつけるって言うだけで何も変わらなくてさ」


「そうなのか、、」


困ったな、雄介の事もあるしあまり俺が言い過ぎるのは良くないよな。


「まあいつでも呼んでよ!俺は暇だしいつでも遊び行くからさ!」


「ははっ、ほんと拓ちゃんいつも来るよねー、いい加減彼女作りなよー」


「うるせーー」


「ふふっ」


よかった、とりあえず笑顔にはなった。

話すことが出来て少しは落ち着いたのだろう。

2人の問題だ。俺があれこれと口出すことではない。



「「ごちそうさまでしたー!」」


あれから3時間後、昔話などで盛り上がり帰りの電車もあるので店を出た。


「ふーー、飲んだ飲んだー」


優衣は少し足取りがふらつきながら鞄を揺らしながら歩き始める。


「おい危ないって、荷物持つからちゃんと歩けって」


「ありがとーー、じゃあ手繋ぎましょー!連れてってーーい」


俺が優衣から鞄を取ると、優衣は俺の手を握り歩き始める。


「おい、酔いすぎだろ」


「酔ってませーーん」


「全く、本当優衣は酔うとだめだよな、気をつけないと男なんて何するかわからないぞ」


「ふーん、拓ちゃんは何かしたいって思うんだ?」


「あほ、気をつけろって話、誰かに見られてたら雄介にも怒られたりするだろ」


「ふふ、冗談だよ!それにこれくらい雄介も気にしないってー、今日拓ちゃんと飲んでるのは知ってるんだしー」


「、、はあ」


少し雄介には申し訳なかったが、放っておく訳にもいかず、そのまま駅へと向かった。


その後電車が混んでいた事もあり、特に会話はなく最寄駅で降りる。


くだらない話をしながら歩き、優衣の家の近くに着いた。


「じゃあまたなー」


「拓ちゃん!」


「ん?うおっ!」


優衣がいきなり抱きついてきた。


「おいおい、ふざけすぎだぞ、早く帰れ」


俺は優衣を引き剥がし、家の方へ体を向けさせる。


「ごめんごめん!久々に楽しくて!ありがとね!また行こ!」


満面の笑みで優衣は手を前にだしてきた。


「おう、じゃあ」


その手に軽くタッチをし俺は優衣を見送った。そのまま俺は自宅へと歩き始めた。



そう言えば優衣と2人で飲むのはいつぶりだったかな。


俺は10分ほどで帰宅し、シャワーを浴びて寝床に着いた。


「ごくごく、、ふぅ」


「ピコン!」


水を飲んでいると俺のスマホが鳴る。

優衣からのメッセージだ。


『本当に今日は楽しかった!ありがとね!』


全く律儀な奴だな。


『俺も楽しかった!また行こうな!』


そう返信し、寝床についた。


眠りにつく前、帰り際の優衣の顔が浮かぶ。


何意識してるんだ、ちょっと俺も酔ったようだ。早く寝よう。


そんな事を考えながら俺は眠りについた。





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