ミットモナイ自分 😮💨
上月くるを
ミットモナイ自分 😮💨
「テイクアウト/お持ち帰り」白抜きの赤い旗が36度の熱風にはためいている。
約束の時間をすでに15分過ぎているが、待ち合わせの友はまだ姿を見せない。
少し離れたボックスで耳の遠い老人たちがここだけの話を大声で話している。💦
そのとなりでは初老の夫婦がひと言も交わさず、互いに新聞や雑誌を読んでいる。
斜め向かいのボックスでは、腰の曲がった老女ふたりをスマホで呼び寄せたシニアのカップルが、なにやら怪しげな勧誘だか販売だかの活動を熱心に繰り広げている。
待ち人が来るまでの中途半端な時間、読みさしの本を開く気にもなれず、ぼんやりカフェの窓を眺めていると、例によって例の(笑)自問自答スイッチがオンになる。
🪟
わたしも相当なアレだよね~。
胃の底から苦汁が湧いて来る。
人の気持ちは複雑怪奇、口と肚は往々にして異なるものだとはいうけれど、それにしてもなんだろうね、われながら、このいやらしい気持ちの
たとえば、事業を閉じたあと「やめてよ、もうCEOじゃないんだから~」と言いながらも、正直な元スタッフからさっそく「〇〇さん」と呼ばれるとムッとした。
反対に、その辺の機微を承知している苦労人スタッフから「CEO、CEO」と繰り返されると「だからぁ、やめてってば~」手を振りつつわるい気はしなかった。💦
「女性CEOは舐められたよ」感傷的に回顧したら「〇〇さんに限って、ないない」まさかの全面否定に衝撃を受けた……ったくミットモナイったらありゃあしない。
⏲️
ところで、さっき読んだ小説に、身体の接触に病的な嫌悪を感じる青年が出て来たけど、うちの息子たちも愛犬も撫でられたり抱っこされたりをいやがったっけ……。
そういえば、長男はよく爪を噛んでいたし、次男はシャツのボタンを触っていたし、愛犬はといえば「かあさんが帰って来るまで玄関にお座りしているよ、姫子」。
仕事最優先の歳月で、よその家のように落ち着いた生活を保障してやれなかった。
節目の年中行事も端折ることが多かったし、一家団欒の思い出も数えるほど……。
自分ではどうしようもできない理不尽への幼い抵抗が、本来ならとっぷり甘えたい母親に、撫でられたり抱っこされたりを忌避する感覚へと転化したのかも知れない。
無条件の蜜月であるべき18年の歳月、ずっとさびしい思いをさせて来たんだね。
ごめんね、ごめんね……いまさら取り返しがつかないけど、ほんとうにごめんね。
あるとき、ある友は慰めてくれた「シングルマザーだったんだから仕方ないよ」。
でも、わたしにはそう思えない、思っていいわけがない、唯一無二の母親として。
――逢はざればこころ離れて秋の蝶 三森鉄治
さっき、歳時記の例句に見つけてドキッとしたが、男女の仲ならいざ知らず、親子の間では、少なくとも母から子への想いに限って、絶対に永遠にあり得ないわ。💧
🚗
あ、友人の4WDが入って来た。
わ、レジ袋に夏野菜がいっぱい。
この猛暑に、出がけに畑から採って来てくれたんだね~。
キュウリ、ナス、プチトマト&ブルーベリー。🥒🍆🍅🫐
ありがとうね、こんなわたしなんかのために、全身汗だくになって丹精の野菜を。
いいよいいよ、少しぐらいの遅刻なんて全然だよ、さあ、アイス珈琲で涼んでね。
ミットモナイ自分 😮💨 上月くるを @kurutan
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