第8話 反撃



「まずい……」


 スペルの身体は限界が近づいていた。

 当たり前なのだ。ただでさえ身体に負荷が大きく掛かる【時空】を連発したのだから。


(少しずつ魔獣が強くなってきた。今はどれくらいなんだ? 最上級魔獣なのか?)



「疲れてきている……」


 スペルの様子は遠くから眺めるメフア達にもわかった。だが……。


(もう加勢できる強さじゃない。足手まといになるのは確実だ。なのにまだ……)

「最上級魔獣の弱い奴らが少しずつ出始めた程度なのに」


 スペルの限界が来るのはそう早いことではなかった。

 相手、最上級魔獣の巨人種の攻撃をモロに受けてしまったのだ。だが、攻撃を受けたスペルは抵抗できていない。


「酸欠か!」

「よりによってこのタイミングでか……」


 酸欠。スペルは過酷な戦闘を繰り返していたため、体力が切れて、酸素が脳に回らなくなっていた。


「確か最近の論文だったな。酸素が脳に回らないと意識不明状態になる」

「もうアイツはもたない。見捨てるしかないんだ、そもそも初級にこれを収めれるわけがなかったんだ」

「俺はいくぞ……」

「なんだと?」

「お前だけでも逃げとけ!」


 そう吐き捨てたメフアは剣を持ってスペルの元へと走る。


「メフア! 待て!」

(くそ、これ以上は耐えられん!)


 エストは苦渋の決断で撤退を選んだ。


「スペルー!!!!!」


 メフアは大剣にオーラを集中させ、スペルを殴り殺そうとする巨人に一撃を入れる。


(馬鹿な…)


 メフアの大剣は簡単に折れてしまったのだ。相手の耐久がメフアの剣の攻撃・耐久を上回っていたのだ。


「無理……だったのか……」


 巨人種の拳がメフアに直撃する寸前、急に巨人種の身体が崩壊しだしたのだった。


(何が起きて……?)



  ・・・・・



 結局、勝てなかった。

 能力を解放したのに、師匠からあんなに教わったのに、手も足も出なかった。

 街を守れなかった。家からは見放されたけど、友人達の大事な街を守りたかったのに。


『お困りのようだね』


 お前は……前世とかいう……。


『あの忌々しき魔獣共を倒せる力を望むか?』


 あぁ、望む。絶対に倒したいんだ。


『そうか。お前も【帝国(インペルア)】を護りたいと願うのか』


 インペルア?


『いいだろう。お前の身体の所有権を一時的に俺のモノにする。今からの俺の動きを本能で覚えるんだな』


 所有権? 本能?


『すぐわかるだろう。まぁいい、見せてやるんだ』



 ーー【龍王(ドラゴニアス)】の演舞を。



  ・・・・・



「ここは……どこだ……?」


 スペルはベットの上で目を覚ました。

 周りは白い壁で覆われていて勿論所々に窓も付いていて、他にも幾つか寝具が並べてある。


「協会の医務室?」


 そう、そこは世界探索者協会アパスタス支部の医務室、昨日メフアと謝り合戦を繰り広げた場所だった。


「迷宮は……街はどうなって」

「安心しな、坊主。全て終わった」

「メフアさん?」


 体を起こすと、メフアが寝具の側の椅子に座っているのを見つけた。


「終わったってどういうことですか? あの場にはあのクラスの魔獣を倒せる人はいなかったはずじゃ」

「覚えてないのか? 坊主がやったんだぞ」

「僕が?」




  ・・・・・




「くそっ、このままだと!」


 俺の愛剣が巨人種の化け物におられた後のことだ。

 化け物の拳が俺を潰そうとしたとき、拳・が・落・ち・た・んだ。


「えっ? 坊主?」

「【龍王の演舞】」


 お前が剣を持って俺の前に立っていたんだ。そして次の瞬間には目の前の巨人種の首が落ちた。


「何が……?」


 瞬きをする間に、坊主は消えていた。

 すると次々と魔獣の首が落ちていったんだ。

 よくよく見てみたら、姿が消えて、現れたと思ったら首を切って消える……っていうのを繰り返してたように思う。


 お前はそれを特級探索者が来る数十分後までし続けた上で気絶したんだ。




  ・・・・・




「……ということだ」


(話を聞いて、何をやったのかは体が思い出せる。【龍王の演舞】という体術を使ったんだろう。それを【時空】とオーラで身体を保護しつつ戦ったんだろう。無茶しすぎたのか、身体はボロボロだけどね)

「特級の方が来てくれたんですね」

「あぁ、探索者の中の頂点である【特級探索者】であり、協会の第二隊長の四季しき洸哉こうやがな」

「協会の隊長?」


 協会の隊長という聞いたことのない言葉の組み合わせにスペルは疑問を持った。


「お前、知らないのか?」

「協会って探索者に依頼を提供する組織じゃないんですか?」

「簡単にはその通りだが、それをサポートする仕組みがあるんだよ」


 そういうとメフアは【協会】について説明を始めた。




  ・・・・・


 協会、正式名称【世界探索者協会】

 世界中の国々間で結んだ【対魔獣専門部隊条約】のもとで結成された組織で、いろんな国の支援のうえに成り立っている。


 そう、つまり【世界組織】だ。それをならず者でも簡単になれる【探索者】の集まりで終わらせるわけにはいかないと思わないか?

 答えはNo. 協会が【探索者】にそのレベルにあった依頼を提供するというのは間違いないが、その管理をする奴らがいるんだ。 

 それが協会の部隊。部隊は全部で6つ。


 【世界組織】ゆえにあらゆる国との支援やら関係やらに特化した第一部隊、国家管理部隊。



 教会という大規模な組織の人材、資源、施設を管理する第二部隊、組織管理部隊。


 探索者に対して規格外のレベルの依頼を表に出すことなく終わらせる、攻略特化の第三部隊、特殊専攻部隊。


 探索者協会支部同士の依頼や支援などの情報面に特化している第四部隊、情報管理部隊。


 魔獣や迷宮が引き起こす環境変化・環境破壊や街破壊の被害をサポートしたり、その元凶を討伐したりする、支援特化の第五部隊、環境保全部隊。


 国レベルでは扱えないような極悪犯罪者や、規則違反を犯した探索者などを扱ったり、超重要な裁判を行なったりする第六部隊、治安維持部隊。



 この6部隊によって探索者と世界の平和が保たれている。




  ・・・・・




「今回支援に来た、第ニ組織管理部隊隊長の四季洸哉は、隊長の中で2番目に強く、その実力は探索者はもちろん、公式ランキングでも現在2位。紛れもない【世界三強】の1人だ」

「三強……それは聞いたことがあります」

「流石にそうだろうな」


 スペルは能力を授かってからの数年間、情報を閉ざして修行をしていた。そんな彼でも知っているほどの大物、それが【世界三強】である。


「第一隊長の九重修造(ここのえしゅうぞう)、第二隊長の四季洸哉、第三隊長の神崎天音(かんざきあまね)はここ3年間変わることなく三強の地位を保ち続けている。他にも、第四隊長のサグラスや第五隊長のリディレスも三強には及ばないがそれでも他の探索者・能力者とは別格。他の副隊長も他の探索者とは比にならないレベルだと聞く」

「第六隊長はどうなんですか?」

「第六部隊は協会の影の組織、その隊長である彼は名前すら明かされていない。だが、噂によると三強クラスの実力者だと聞く。今回はその隊長のひとりが出てくる程の大事件だったってことだ。四季洸哉もお前に礼を伝えておけと言っていたぞ」

「あの四季洸哉が……」


 スペルが唖然としている中、メフアが突拍子もないことを口にした。


「そして伝言だそうだ。体調が回復次第、【ミガドリア王国】の王城へと向かうことだそうだ」

「王城!?」

「あぁ、頑張れよ。もしかしたら二つ名の授与もあるかもだしな」

「ふ、二つ名!?」


 二つ名は王国が名誉あることをした者に与える最高峰の称号だ。王国の探索者は勿論、誰もがそれに憧れている。


「体調回復までにはあと数日かかるだろうが、安静にしてから行けよ。無理は禁物だ」

「はぇ〜」


 そういうとメフアは椅子から立ち上がった。


「坊主が起きたこと、報告してくるぜ。そのうち使者が来ると思うから、準備しておけよ!」

「は、はい!」

(大変なことになったな。まさかここまで大事になるとは……、だけど)


 スペルは窓から街を眺める。


(この街を守れた。みんなの笑顔を、いや、親しい人の笑顔だけでも守れたならそれでいいのかもしれないな)


 そんなことを思いながらスペルは空を眺めていたのだった。

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時を斬る少年 小説を書く人 @kakuhito814

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