第6話 覚醒


 地上で乱戦が繰り広げられている最中、スペルは歪みから抜け出していた。

 周辺の風景は異質そのもの。今まで見たこともないような赤い岩で構成された空間で、圧倒的な気配が漂っている。そして所々に魔獣や人の死体が散らばっている。


「何なんだ……ここは……」


 スペルは持参の鉄剣を構え、周囲を見渡す。


(取り敢えずオーラ探知。周りがどうなっているのか、確認する)

「え?」


 スペルが見た先には、今まで見たこともないようなオーラ量を持つナニカがいた。


『今回は遅かったなぁ〜。あの方々も迷宮を作ったのはいいけれど、もっと食事を与えて欲しいものだ……』

「迷宮を作った? 食事? どういうことだ?」


 そのナニカ……ツノの生えた人型の存在はスペルの方をじっと睨み付ける。


『まぁ、これから死ぬんだから。いいかなぁ…』

「?」


 その人型のナニカは一気にスペルの目の前に近づいてくる。


『俺はなぁ、【悪魔】なんだ。【中級悪魔】のゲルデス、お前が死ぬまでよろしくなぁ』

「あ、悪魔? 魔王とかの?」

『魔王? それとは別もんだぜ。お前らが【魔獣】と呼んでいるヤツ等と魔王を含めた【魔人】、俺ら【悪魔】と【魔神】様方をまとめて【魔族】とはいうが、魔人如きと俺達を同格だと思うな』

「魔族……」

『そもそも【迷宮】は【魔神】様方がこの人間世界を侵略するための拠点のようなもの。各迷宮に我ら【悪魔】を置いて、人間界の様子を見ているんだ』

「どういう……?」

『詳しいことはあの世で神共に聞くんだな』


 ゲルデスはスペルの腹部にグーパンチを入れる。


「ごほっ、」

『オーラを使えるのな、最近では珍しい』


 スペルはオーラで腹部を防御していたが、それでもかなりのダメージだった。


『オーラを体外で扱って膜を張れる者は多いが、体内で扱って身体能力を上げられる者は稀少だ』


 ゲルデスはさらに顔、胸とどんどんパンチを加える。


『後少しあればかなりの実力者になれただろうに。だがこれが運命だ』

「ぐはっ、」

『俺の糧となれ』


 ゲルアスが攻撃を加えようとしたその時だった。


『全く、情けないな。この程度で死にかけとは』

(何……誰……?)


 スペルの脳内に聞きなれない声が響いたのだ。


『俺はお前だ、いや正確には前世か?』

(前世……?)

『取り敢えず起死回生の一手を打たせてもらう。体の所有権を一部頂くぞ』

(え?)

「『能力解放ー』……ぐわぁぁ〜!!!」


 スペルの体に激痛が走る。


「【能力・時空】【時空・時間停止】」


 その瞬間、ゲルアスの動きが止まる。


「え? 何が起こって……」

『強制的に能力を解放したからな。激痛を伴う」

「先に言ってよ……」

『すまんすまん。それでコレの使い方はわかるか?』

「知らないけどわかる……気がするよ」

『うまく知識があったようでよかった。俺はそろそろ限界だから、あとは頑張れよ』

「え、ちょっと待って……」

『この能力とお前のオーラ技術があれば勝てるさ。コイツを倒せば元の場所に戻れるだろう』

「勝つしかないんだね……」

『サリアによろしく頼むぞ』

「師匠に?」

『そのうち会えるさ、その時でいい。取り敢えず今は集中しろ』

「はい」

『頑張れよ』


 そういうと前世のスペルを名乗る謎の声は消える。


(こっからは僕の勝負。多分相手も能力持ち、使われる前に瞬殺する!)


 スペルは鉄剣を手放すと能力を使用する。


「【時空・時空の支配者の剣(スパジオ・テンプロレイル・エスパーダ)】」


 スペルの目の前に青く透き通った剣が現れる。剣を持ったスペルはゲルアスの後ろに回り込み、首元に攻撃を入れる。そしてその寸前に……。


「【能力解除】」


 スペルの振った剣はゲルアスにそのまま直撃する。


『な!? いつの間に!』

「【神楽・瞬華の舞】」


 スペルは高速の攻撃を繰り出すが、ゲルアスもオーラでそれを防御する。


『面白い。そんな奥の手があったのか……! いいぜ、ぶっ殺してやる! 久々に楽しめそうだ!』

「絶対に勝つ!」


 ようやく始まりを迎えた2人の戦闘の勝敗が決まるのは、そう遠くないことだった。



「やぁ!!」

『効かん!』


 スペルの剣の突きをゲルデスはしっかりとガードする。

 そもそも2人の実力差は顕実だった。何人もの人間や魔獣を葬ってきた悪魔とただの十数歳の人間。ゲルデスの方が何倍もステータスが高い。だがスペルにはそれを同格まで持っていく力があった。


「【時空・時間停止】」


 スペルは再度ゲルデスの後ろに周り、能力解除と同時に攻撃する。

 スペルの【時空】はそもそも強大な能力。強大な力には強大な代償がつきもの。【時空】の代償も大きいはずだが、スペルが学んだ能力使用法は極限まで効果を薄めることで代償を減らしたものだった。

 【時空停止】、時間を止めるだけのその力の有無。それは確実に戦況に影響していた。

 今度の攻撃もゲルデスにクリーンヒット。彼は吹き飛ばされる。


(どういうことだ? 相手の能力は【瞬間移動】か? 後ろに移動して攻撃を加えてくる。だが攻撃は単調だ、後ろにしか来ない! それを逆手に取る!)

「【時空・時間停止】」


 スペルの3回目の時間停止。だがゲルデスに攻撃は防がれてしまった。


「もう対策された!?」

『お前は後ろにしか来ない。それに攻撃前にオーラが感じれるからな、防げるようにもなる』

「なら他の力を使うまで!」


 スペルは後ろに下がり剣をしっかりと構える。


(他の力? 【瞬間移動】ならそれを用いた高速攻撃か?)

「【時空の支配者の剣(スパジオ・テンプロレイル・エスパーダ)】【時空の太刀・空間断裂閃】」


 スペルが剣を振ると、その剣の軌道上から光線が放たれる。


『光線系!? ぐはっ!?』

「見た時点でもう遅いんだよ。この剣には【時空】が込められている、だから【距離なんてものは関係なく、攻撃範囲は斬撃の延伸線上全域】であり、【時をいじることで、着弾までの時間が0】になってる!」


 スペルはもう一度剣を振り、ゲルデスの腰にダメージを与える。


「【空間断裂閃】は空間を斬るほどの威力で斬る一撃。剣の効果と合わせたら化けるんだよ」

(回避不可、超高火力ってことか。厄介だ、アレを使うしかない!)

『【能力発動】』


 ゲルデスはそれを宣言すると後ろへと下がる。


(来たか能力。さぁどんな力なのか?)

『【感覚剥奪】』

「【感覚剥奪】? 何それ?」

『五感は勿論、能力の使用法を含めた記憶をも全て忘れさせることができる! これでお前は能力を使えない!』

(僕はどうやって能力を使っていたのか、わからないけどわかる。本能が覚えてるんだ)

「【時空・時間遅延】」

『何で能力を!?』


 スペルは動きが鈍くなったゲルデスに何度も何度も攻撃を入れる。


(【時空】による基本的なルールのひとつ。時が遅くなればなるほど抵抗力が大きく、つまり物質は固くなり、早ければ早いほど抵抗力が小さく、物質は柔らかくなる。つまり、対外的に見れば僕のスピードと攻撃力が反比例していることになる)


「【時空・時空加速】」


 スペルのゆっくりな一撃はゲルデスの腰を切り落とす。


「【感覚剥奪】なんて関係ないんだよ!」

『くそっ!!』


 ゲルデスはスペルと距離を取る。


「僕に距離は関係ないんだよ!」

(時空加速で威力が上がる代わりに速度が下がる。でも即着弾のこの斬撃ならその効果を中和できる!)

『こうなったら奥の手だ! 【魔弾球】」


 ゲルデスの前に黒くて大きな弾幕ができる。


(【魔弾球】は残りオーラ量の殆どを使って放つ最大級の技! 消耗も反動も激しいが、確実にこの一体を壊す!)

『炸裂しろ!!』


 だが、スペルもまだまだ冷静だった。


(恐らくあの技が相手の奥義。消費オーラ量から考えて明らかにラスト。ここで止めれば終わりなんだ!)

「【時空・空間掌握】」

(奥義とはいえ、隙はある! そこをつく!)

「見つけた! 【時空・時間加速】行くよ!」


 空間掌握で【魔弾球】の隙間を見つけ、時間を加速させた上で。


「【時神楽・瞬華の舞・改】」


 時の流れを早く、つまり自身のスピードを下げた状態での瞬華の舞。それはスピードは通常と変わらないものの攻撃力は異常となる一撃。能力の弱点をオーラで補うのが大事なのだとスペルは気づいた。


「【時神楽・炎円舞華】」


 【炎円舞華】はスペルの新たな技。空間操作によって位置エネルギーと運動エネルギーを弄り、遠心力を使って最高火力の攻撃を与える。

 その攻撃は炎の円を描き、ゲルデスの首を斬り落とした。

 スペルは自身の力で勝利をもぎ取ったのだった。

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