第5話 迷宮崩壊
アパスタス天空塔前の広場はかなり広く、賑わっていた。
そして迷宮の入り口に協会のスタッフがいて、通行を確認しているのだ。
スペルがそのスタッフのところへと向かうと、スタッフが話しかけてきた。どうやら、昨日の一件を知っているスタッフらしい。
「スペルさんは【初級探索者】で、今回初の迷宮入りということですが、先日の件もありますので【銀カード】です」
「銀カード?」
「入場証みたいなものです。二層以降の入場には【銅カード】、五層以降は【銀カード】、十一層以降は【金カード】、二十五層以降は【プラチナカード】、四十層以降は【ミスリルカード】です」
「ということは、銀カードなら十層まで行けるってことですね?」
「そういうことです。滅多に起こりませんが、【迷宮崩壊】時には、各層ごとの難易度が跳ね上がり、カードなしで上の層に行くことが可能になりますが、絶対に行かないでくださいね」
「わかりました、ありがとうございます」
受付嬢の忠告を受け、受け取った銀色のカードをゲートにかざす。これで入る事ができるようになった。
はじめての迷宮、決して油断や慢心はせずに少しずつ進んでいこう……っと思っていた頃もあった。
実際には全く苦労することなく十層まで来れてしまった。残りは階層主のみだ。
階層主とは各層ごとに登場する攻略難易度が高い魔獣のことだ。各迷宮毎に【迷宮主】が存在し、それらは1番奥にいる。だが、【塔型】のみはそれに加えて各層毎に階層主が存在し、それを討伐しないと次の層には行けないのだ。
一〜九層の階層主はそこまで大したことのない。少し強い上位種がいる程度だ。だが、十層の階層主、これは【初心者の最初の壁】とも呼ばれているほどの実力だと聞く。
今まではオーラを使用せずにきたが、オーラが必要かもしれない。そう考えると、少し緊張するのだ。
十層の最奥、広大なフィールドには似合わない大きな扉を開けると、ある巨大な魔獣がいた。
【巨人(オーク)】……体長は3メートルを優に超える巨大な魔獣。豚のような顔をしている緑色の化物。
今回の巨人は金棒を持ち、鉄の防具を着ている。
「【神楽・瞬華の舞】」
【神楽】は師匠に教わったオーラ技術だ。その中でも瞬華の舞はスピードと足捌きによって相手を翻弄し、攻撃を加えるというスピード特化の舞である。
「巨人オーク、行くぞ!」
スペルは一気に巨人(オーク)に接近し、愛剣(ただの鉄剣)で攻撃を入れる。
それに対して巨人は金棒を振り上げて攻撃を入れてくる。
「遅い!」
スペルは瞬華の舞で金棒を避ける。だが、金棒が地面に当たると地震でも起きたかのような衝撃が響いた。
衝撃に足が動かなくなったスペルを巨人が攻撃を入れる。
「オーラを防御に!!」
咄嗟にスペルはオーラの膜を張り、防御を取る。これにより本来のダメージを半分に抑えた。
「能力か……。恐らくは【剛腕】と【衝撃】ってところか」
【剛腕】はその名の通り馬鹿力を出す能力である。巨人(オーク)といえど、鉄100%でできた巨大金棒をあの速度で振り回すのは不可能なのである。
【衝撃】も攻撃に衝撃波攻撃を加える能力。
個々は大した事がないが、同時使用、それも巨人が使うと厄介になる。
「なら次はお前の防御を試そう。【神楽・炎の舞】」
炎の舞は攻撃特化。一撃一撃が圧倒的な攻撃力を持つ技である。
スペルは巨人の攻撃を掻い潜りつつ何度も攻撃を入れる。膝、腹、胸、肩……。そして、
「【神楽・円舞】」
円のように攻撃を入れる神楽の中でも汎用性の高い技の一つ。
スペルはこれを巨人の首に入れる。何度も攻撃を入れられた巨人は体をふらつかせて倒れ込む。
「終わりだ! 【神楽・蜂の舞】」
まるで蜂のように突きを入れる技。スペルはこれで巨人の心臓を突く。巨人の防御が疎かになっていたからこそ入った一撃である。
「よ、よっしゃ! 倒したぞ!」
スペルは勢い殺さず巨人の解体を始める。心臓付近から【魔石】を掘り出し、討伐証明部位を取る。
「疲れた……」
スペルは遂に迷宮十層を攻略したのだ。だが、安堵するのは少し早かったのだった。
『迷宮崩壊が発生しました。すぐに脱出してください』
「な!?」
銀色のカードからそんな表示が繰り返される。
スペルもまさか、迷宮崩壊が起こるとは予想していなかった。なぜなら、この【アパスタス天空塔】はかなり古い迷宮でありながら、一度も迷宮崩壊を起こしていなかったからだ。
そして、塔型のような階層が分かれている迷宮は迷宮崩壊の効果が直に現れてしまう。
上の階層の魔獣が階層を突き破って迷宮の外に溢れ出してくるのだ。つまり危険度は【特級】、最上級ミッションである。
崩壊後すぐこそ大丈夫だが、少しずつ魔獣のレベルが上がっていき、最終的には街が魔獣に呑まれる可能性もある。
だが、真の恐怖はここからだった。
『【ERROR発生】すぐさま要素を取り除きます。対象は【十層階層主部屋】』
ERROR、つまりはバグだ。迷宮側も迷宮の存続が危うくなるバグが有ればそれを取り除こうと動く。
そして十層階層主部屋……そう、今スペルがいる辺りである。
(逃げないと!)
そう直感的に感じたスペルだが、全てが遅かった。
突然出現した歪みに全てが吸い込まれていった。
「うわぁぁぁぁ〜!!!!!」
・・・・・
その頃、迷宮の外でのこと。
昨日スペルに負けたメフアは怪我からの復帰のために肩慣らしをしていた。
中級探索者まで昇り詰めた実力は本物。すぐに【火力特化】と【範囲特化】のふたつの攻撃方法を編み出していた。そんな時のことだった。
『迷宮崩壊発生、迷宮・アパスタス天空塔内部にいる探索者はすぐに撤退し、外部にいる下級探索者以上、または銀カード所持者はすぐさま体制を整えること』
メフアの持つプラチナカードはそう告げた。
「くそっ、こんなときに迷宮崩壊かよ!」
メフアは自分の大剣を持ち、全速力で迷宮に向かう。
全力速度で走ったため、迷宮崩壊からまだ3分ほどしか経っていなかったが、既に最下級魔獣がウジャウジャと蔓延っていた。
「確か研究者の見解だと、層構造の迷宮の迷宮崩壊は徐々に討伐難易度が上がる、だったな。嫌な話だぜ全く!」
メフアは愛用している大剣で魔獣を斬り潰しながらそう呟く。次々と他の探索者達も集まってくるが、討伐量より溢れ出てくる量の方が多く、戦況は悪くなりつつあった。
「くそっ、どんどん増えてやがる!」
「メフア! 大丈夫か!?」
メフアに呼びかけたのは、メフアの所属するパーティー【蓬莱の戦士】のパーティーリーダー、エストだ。彼は優秀なバフ使いであり、パーティーの動きをまとめる良きリーダーである。
そしてその背後には3人のメンバーがいる。
1人目は如月傀儡(きさらぎかいら)。東方の国出身であり、東方の武器・刀を用いて戦う速度特化の実力者だ。
2人目はマナ。国でも有数の魔法使いであり、火属性魔法を得意とする彼女は高火力広範囲の魔法を使用する威力特化の実力者。
最後にミミ。彼女は聖女。そして【蓬莱の戦士】を【蓬莱】の名に仕立て上げた功労者。
メフアと傀儡とマナの超効率の攻撃をエストがサポートし、ミミの回復でそれを永続的なものにする。それが【蓬莱の戦士】の戦闘スタイルである。
「とりあえずいつも通りのスタイルで魔獣を倒そう。他のパーティーにも協力を仰ごう。各自のスタイルで倒すようにと」
「えぇ、【未知なる力】こそいないけど、【月光の輝き】はいる。全力で行くわよ!」
それぞれが各自のスタイルで魔獣に対応する。中級パーティーが2組も揃っていたので、下級魔獣までは対応できた。
だが、中級魔獣が溢れ出してくると、状況は一変する。
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