第4話 再会


「本当にすまなかった!」


 スペルと戦い、無事に敗北(?)したメフアは気絶から目を覚ましてすぐに謝罪の意を述べた。


「いいんですよ、貴族の坊が探索者になるなんて名誉のためが殆どです」

「だが、勘当されていたとも知らずに!」

「普通なら、勘当された貴族が探索者になった場合、ほとんどが無駄死します。だから、死なないように教えて頂いた、という意味では貴方の行動も間違いではありません」

「だが……」


 2人が謝罪・謙遜合戦を永遠と続けていると、医務室の扉が音を立てて開かれた。


「もういいじゃないですか。当事者が許しているのですから」

「アルティアさん……」

「あなたは?」

「新人の方ははじめまして。当支部にて受付嬢長をしているアルティアと申します」


 金髪の少女に見えるその人、アルティアは笑顔で自己紹介をした。因みに彼女はナニがとは言わないが、小さい……。


「あぁ?」


 いえっ! ア、アルティアさんは決して小さくありませんッ! っていうか心を……いや、第三者の心を読むな!!


 っというのは置いておいて、彼女は耳こそエルフのように尖っているが、身体はドワーフのように小さいのだ!


「『小さいのだ!』じゃないですよね?」


 ……ごめんなさい大きいです、はい。


「……ごほん。本来、入会試練はスタッフと行うものであり、探索者が手を出すものではないです。それを偽ったメフアさんにはそれ相応の罪が課されます」

「えっ、」

「ですが、本人が示談をお求めなら、軽減されます」

「示談でお願いします」


 スペルは即答でそう答える。


「ここで争う意味はありませんし、メフアさんの優しさからの行為だとわかっているので」

「……ということですので、メフアさんは無罪放免です」

「あ、ありがとう! スペル!」

「いえ、本当に大丈夫ですので」


 スペルはそこから何時間も誤り倒しにあった。可哀想に。



  ・・・・・



 数時間後、スペルが医務室を出ると、そこにいた探索者の殆どが一気に目線をスペルに向けた。


「?」


「お、お、お……」


「お?」


「お前すげぇな! あのメフアに無傷で一撃を入れるなんて!」

「あれは強ぇ! ヤベェ! 救世主だ!」


 スペルの脳内が「?」でいっぱいになっている間も、周囲の探索者達は騒ぎまくっている。


「救世主って……」


「「「仕事が減るからな!!」」」


「あ〜……はい」


「あの実力なら今から中級だろ? 仕事が減るぞ! お前ら!」

「やった〜!! 早く帰れる!」

「酒飲むだけだろが!」

「「「はは!」」」


「あの……すいません、僕まだ初級ですよ?」


「「「「え?」」」」

「あの実力なのに?」


「試練あのときでも言ったように、対人戦の技術が対魔獣戦に活かせるとは限らないので…」


「「「「いやいやいやいや、あれならいけるだろうが」」」」


「無能力者なので……」


「「「「オーラ使えたら関係ないだろが」」」」


「まぁまぁ、こんなに謙虚なら探索者としては満点だ。自分の実力を過信することない者が1番強い」

「そういうわけでは……」


「「「「つまりゃ、坊ちゃんは強い!!」」」」


「勘当されてるので【坊ちゃん】呼びは〜」


 そんなスペルの嘆きも意味をなさずに探索者達はさらに盛り上がっていったのだった。因みに探索者達は酒を飲んで謎の宴会を始めたが、当人のスペルはサラッと抜け出している。



  ・・・・・



 スペルが暑苦しい宴会を抜け出すと、協会の前には見慣れた顔がいた。


「あれ、ラクト?」

「スペル?」


 彼はスペルの親友のラクト・クリファル。

 儀式の日から顔を合わすことは減ったが、それまでは親達の隙を伺って遊んでいた仲間だ。


「スペル、こんなところで何をしてるんだ?」

「今は探索者をしてるんだ。といっても成り立てほやほやだけどね」

「おま、まさか中級を倒した貴族坊ってお前か?」

「もう噂が広まってるのか」

「マジか……」

「他の奴らが謎の宴会を始めたからな、サラッと抜け出してきたんだ。そういえば、ラクトは何でここに?」


 スペルがそう聞くと、ラクトは目線を少し逸らしながら話した。


「……ちょっと、用事でな」

「そうか……」


 ラクトは苗字こそあるものの、農民の家の子。父親が死んで、現在は母子家庭。それで探索者協会のあるこのあたりに用事というのはそうそうない。

 何か事情があるのだろうと推測して、スペルはそれ以上質問するのをやめた。


「確かスペルは誰かに師匠についてもらっていたんだったか?」

「あぁ、師匠に教えてもらってたから探索者でもやっていけそうだ」

「探索者でも?」

「あ、そうなんだ。俺、勘当されたんだ」

「え?」

「うん?」


 ラクトは一瞬思考停止した後、目をまん丸にして見開いた。


「ええぇ〜〜〜〜〜!!?」


 どうやら、ラクトがスペルの勘当について聞いたのは初めてなのだそうだった。

 その後、2人は街を歩きながら、近況報告をかねた雑談をしたらしい。



  ・・・・・



 翌日、朝早くに目覚めたスペルは身支度をして、宿を出た。

 今夜借りた……今後も借りる予定のこの宿は女将さんがとても親切で少し古いながらも美味しい料理を提供してくれるいい宿だった。


 ある程度の荷物を揃えて、都市・アパスタスの中央に位置する迷宮・アパスタス天空塔に向かった。


 迷宮・アパスタス天空塔は【天空塔】という迷宮の中でも特殊な構造であり、【階層ごとに難易度が決まっている】という構造をしている。因みに、他の迷宮は大抵が一層型で、奥に進むほど難易度が高くなるという構造をしている。

 何かが起きない限り、下の層には強い魔獣は登場しないため、初心者にはかなりオススメな迷宮である。

 そのため、下層は初級、上層は特急と認定されているのだ。


 スペルは初級探索者と登録されているので、今回行けるのは初級登録の部分と、その次の下級登録の部分のみとなる。

 中級探索者を瞬殺したスペルには余裕だろうが、それでも彼は身を引き締めて迷宮へと挑んでいくのだった。

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