第3話 審査


「それではっ! 今から、スペルとメフア・クリスターの試合を始めます」


 受付嬢のそのコールにつられて、観客全員が歓声をあげる。観客達の視線の先は、円形状の試合会場の中心にいる2人……スペルとメフアであった。

 貴族(本当は元・貴族だが)と、探索者でも強いとされる中級探索者の試合。その異例な試合にみな、興味を示していたのであった。


「試合開始!」


 試合開始を示すコングがなり、ついに試合が始まる。


「ガキからこいよ? ぶちのめしてやる」

「なら、遠慮せず」


 次の瞬間、スペルの気配が変わり、瞬間移動でもしたかのように消えてしまった。


「消えた?」

「メフアがやったのか?」

「いや、これは……」


 皆が戸惑いの声を挙げる中、メフアのみが状況を理解していた。


「……! 後ろか!」


 メフアは自身の大剣を持ち出し、スペルの真剣の突きを防御する。メフアは攻撃を出しながら後ろへと下がるが、スペルはその攻撃を捌き切る。


「その動き、波動……お前、【オーラ】が使えるのか!?」

「ご名答です」


「【オーラ】使いだと!?」

「っていうか【オーラ】ってなんだ?」

「それはな……」


(【オーラ】は生命誰しもが持つエネルギーそのもの。通常生きるためだけに使う【オーラ】を使うことで、身体技術が格段に上がる)


 オーラに関して、こんな逸話もある。オーラを使えない初級探索者100名をオーラ使いがほぼ無傷で僅か10分という時間で消したという話だ。それだけ、オーラを使えるか、使えないかの差は大きい。


(通常、一般人は勿論、普通の貴族、ましては多くの探索者が【オーラ】を使えない。【オーラ】を使える者は既に、【中級探索者クラスの素質・実力を持っている】!」

「伊達に探索者になりにきたわけではないってことか。だが、【オーラ】を使えるのはお前だけじゃない!」


 メフアはそういうと、オーラを纏い、大剣にオーラを収束した。


「俺は広範囲・超威力で敵を一気に薙ぎ払う大剣使い! その実力を見せてやる」


 メフアが大剣を一振りすると超広範囲の一撃が繰り出される。


「甘い」

(通常、攻撃の際、範囲と威力は反比例する。広範囲技は雑魚には向いているが、格上や同等には効かない。お前の場合、威力特化にして直接斬るのが正解だ)


 スペルは剣を一振りし、再びメフアの技を薙ぎ払う。


(故に僕の最高火力で切り伏せられる!)


 スペルはメフアに一気に近づく。


(どういうことだ!? 俺の最高火力を誇る剣技が切り伏せられた!?)


「お前が戦うのは【魔獣】、大剣使いの対魔獣戦では確かに攻撃範囲と威力の両立が求められる。だけど、これは対人戦。対人戦ではその技術は足手まといにしかならない」


 スペルは剣にオーラを込める。


(そんな! 俺がこんな餓鬼に、それも貴族の餓鬼に負けるのか!?)


「【初見で相手を判断するな、相手を見極め、全てがわかるまでは格上だと思って戦え】」

「何だそれは?」

「僕の尊敬する師匠の教えだ。お前にはピッタリだろう!?」


 スペルがメフアの胴の防具に一閃を加え、メフアは吹き飛ばされて気絶。受付嬢はその様を見て、戸惑いながら試合終了のコールをかけたのだった。



  ・・・・・



「遅い。いつまでそれをしているんですか?」


 僕の師匠は厳しい人だったわけではない。僕の為に、修行中は誰よりも厳しく接してくれていただけだ。

 実際、修行以外では誰よりも優しく、なぜか僕のことを「ご主人」と呼ぶ。メイドではなさそうなのに。


「ご主人、今日の動きは良かったですよ。これなら15歳までには達人クラスには持っていけそうです」


 師匠と出会ったのは3年前、12歳の【能力の儀式】の結果に落ち込んで、家の裏手にある山に来ていた時のことだ。


「こんにちは。こんなところでどうしたんですか?」


 そう声をかけてきた師匠は、まるで全てを知っているかのように、僕に技術を教えてくれた。


「【封】の能力で落ち込むことはありません。それは解除可能ですから。それよりも、あなたのこれまでの努力があれば、あなたを最強にすることも容易いかもしれないですね。3年ください、3年で強くしてみましょう」


 普段なら怪しいと一喝する内容だが、自暴自棄だった僕は乗ってしまった。だがこの判断は正しかった。

 修行こそ厳しいし、能力の開花もまだではあるが、格段に実力が上がってきている自覚はあった。

 彼女は何事にもおいても完璧であり、家事すらも教えてくれた。


 そんな僕の尊敬する師匠の名前は【サリア・ミガドリア】、正体不明で僕と同い年の女の子。

 3年という僅かな時間で、僕を中級探索者クラスまで仕立ててくれたんだから、その実力は本物だろう。


「師匠、僕はちゃんと教えを守れましたか?」


 僕は、そう心に刻んで剣をしまった。

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