第2話 探索者


 勘当された後、スペルは荷物を持って屋敷を出た。


「この屋敷ももう最後か……」


 ここ数年の環境からそこまで思い入れはないのだが、それでも生まれ育った場所だ。感慨深さは感じた。


「スペル!」


 屋敷を出ようとすると、屋敷の中から声が聞こえた。


「兄さん?」

「渡したいものがあるんだ」


 声の主はユフテア、ティグナッド家の長男であった。


「渡したいもの?」

「うん、これを」


 ユフテアがスペルに差し出したのはやけに重い袋だった。


「これ……お金!?」

「あぁ、生活費に充ててくれ」

「こんな、受け取れないよ」

「どうせ今は一文なしなんだろ? これは僕の貯金からだから気にしないでくれ」

「……ありがとう」


 スペルはこれ以上断るのが愚策だと感じ、素直に受け取った。


「行ってきます」

「あぁ、頑張れよ」


 スペルは家を出て、街の方へと進んでいく。

 どうやら、ユフテアが最後に呟いた「すまない」という謝罪の言葉は聞こえなかったらしい。



  ・・・・・



 スペルは街にある【探索者協会】に来ていた。ここの支部の名前は【アパスタス支部】、アパスタスはティグナッド家が領家を勤める【エピルシア州】の中枢都市。都市といっても、基本的には住宅が立ち並ぶ街に過ぎない。

 だが、このアパスタスは隣国、帝国との境界に位置するために重要都市として扱われている。

 何が言いたいかというと、ここの協会はかなりの規模だということ。隣国の【帝国】やこの国の【王都】までの護衛依頼はもちろん、討伐依頼、採取依頼とさまざまな依頼が存在する。


 スペル自体も何度かここに来たことはある。

 領家が領兵だけで対処できない事態が起こった時、領家は協会に緊急依頼として依頼を出す。

 そんなことは滅多にないが、緊急依頼時に積極的に参加してもらえるように、協会を支援したり、顔を出したりする。将来が期待されていたスペルも何度か訪れたのだ。


 スペルは協会の扉を開いた。教会の内部の人々の視線が一気に集まる。


「あれって、ティグナッド家の三男だよな?」

「ああ、確か能力が無能だったとか」

「冷やかしにきたとか?」

「ないだろ、あいつの方が格下だぜ?」


 探索者達の間でそんな嘲笑じみた会話が行き交う。もちろん、スペルにはしっかりと聞こえているが、スペルはそれを無視して奥の机……登録のカウンターへと進む。


「登録をお願いします」

「は、はい。わかりました。では、まず登録料を……」


 スペルはその受付嬢が言い終わる前に指定される金額を出す。


「了承しました。それでは、試験を受けていただきます!」

「わかりました」

「それでですね、試験は相手と模擬戦をするというもので……」

「ちょっと待った」


 赤髪の大柄な男がスペルに近づいてきた。


「おい嬢ちゃん、ソイツの相手、俺がやってやる」

「え、えっと」

「いいだろ?」

「は、はい……」

「坊主、俺から一本を取れたら合格だ。今すぐ始めるぞ」

「わかりました」


「なぁ、あれ中級探索者のメフア・クリスターだろ?」

「あの貴族坊も可哀想にな、下級でも一本取れないのに」

「あの【蓬莱の戦士】の1人だぜ、無理に決まってんだろ」

「当たり前だな! さぁ、野次に行くぞ」

「お前もタチが悪いな」


 周囲ではそんな会話がなされて、ぞろぞろと探索者達が移動していく。


(貴族の三男がどうかは知らんが、貴族やらが探索者になるなんて非道、こっちからぶっ潰してやるぜ)


 そのように意気込むメフアとスペルの対決の結末は、観戦者には意外なものであった。

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