時を斬る少年

小説を書く人

第1章

第1話 勘当


 「お前をこの時をもって、勘当することとなった」


 彼が15歳になって数カ月経ったある日のこと、書斎の窓の向こうの青い空からゆっくり振り向いたファルカス・ティアナッドは、そう重々しく口を開いた。だが、ついにその時が来てしまったというのに、ティグナット家三男スペルは、不思議と落ち着いていた。

 スペル本人は疑問に思っているわけでも、家族……元家族を恨んでいるわけではない。

 なぜなら、彼が周りと比べ、圧倒的に劣っていたからだ。

 能力主義のこの世界において、スペルは圧倒的に無能だった。それは逆に彼が無能だと発覚してから約3年もの間、育ててくれていたことに申し訳なくなるほどのことで、彼等を恨むようなことはないだろう。


 ティグナット家は、ここ【ミガドリア王国】ではかなり異例の【侯爵貴族】である。血筋による貴族社会の中にあって、努力によって築き上げられたのがこのティアナッド家だ。


 彼の父、ファルカスは元【探索者】、その中でも一握りだと言われる中級探索者で、同様に母、ミルナもまた、元中級探索者であり、ファルカスとは元パーティーメンバー。魔術師としての実力は中級の中でもかなり上位に位置し、その実力は最強と言われた王宮魔術師に匹敵するほどの実力だった。

 これらはもう20年ほど前の話だが、その時、剣士のファルカス、魔術師のミルナ…と後数人で構成されるそのパーティーを知らないものはいない、というほどの有名人であった。


 探索者を引退した後、3人の家宝に恵まれたが、その3人に期待の目が向けられるのは当然のことだった。

 長男であるユフテアは母譲りの美形の顔と魔法の素質を。

 次男であるラグアスは父譲りの頑丈な体と剣の素質を受け継いだ。


 スペルは、貴族の中でもかなりの注目を得て幼少期を過ごした、スペルのオーラ量は異質、と言えるほど多かったのだ。

 だからこそ、「どんな魔法を使うのか。」「どんな【能力】があるのか?」と期待されていた。


 12歳の誕生日。因みにこの国では教会で12歳の誕生日にそれぞれ固有の【能力】を得る。

 スペルに注目して数多の人が集まった。

 祝いの言葉を述べる者、彼を見込んで勧誘に来た探索者協会の者、両親の旧友、同世代の親達、そして野次馬。彼らが静かに注目する中、神からスペルへ能力が与えられた。


 スペルが与えられた能力、それは……。



「時空……」



 最初はその場にいた全員から歓喜され、皆が騒いだ。

 なぜなら、【時空】は数百万人に一人の最強能力であり、その所有者は探索者の頂点【特級探索者】まで昇り詰めたからだ。

 だが、その喜びは一言によって消えた。



「……封」


【封】がつく能力はたまに…本当にたまに、存在する。その意味は簡単、【能力が使えない】。正確には条件達成まで一才能力が使えない、のだが。

 その後、彼への評価、対応は激変した。


 貴族の中でも、劣りすぎていることから「無能」

 侯爵家に似合わない実力なのに、侯爵家に住み着いている「鼠」


 そんなレッテルを貼られた彼は、学園は不登校になり、山へと引き篭もるようになった。



 これは、そんな落ちこぼれ少年の巻き返しの物語。

 勘当されてからの数日、スペルの人生が変わる出来事が起きる。

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