幼馴染が報われないラブコメなんて、どうかしてる!!

杜田夕都

幼馴染に告白されたが、雲行きが怪しい

「私たち、もうすぐ高校を卒業しちゃうから手遅れになる前に、どうしても思いを伝えておきたくて。本多壮馬ほんだ そうまくん、ずっと前から好きでした。私と付き合ってください!」


 俺は、高校の体育館裏で生まれて初めて告白を受けた。


 彼女の名前は、七海ななみ

 清楚な黒髪ロングの美少女で生徒会長も務めている学校一の有名人だ。

 七海とは小学校からの幼馴染。


 俺は小学校に上がるまでは親の転勤が多かった影響で、集団生活が苦手だったのだが、当時、学級委員長だった七海が優しく接してくれたおかげでクラスに馴染むことができた。

 七海のおかげで今の俺がいる。


 中学、高校と、隣にはいつも七海がいた。

 漠然とだが、いつかは七海と付き合ってそのまま結婚する日が来るだろうと思っていたので、返事は決まりきっていた。


「ありがとう七海。俺も同じ気持ちだった! 幼馴染と付き合えるなんて夢みたいだ。ぜひ、よろしくお」


「ちょっと待ったぁぁ!!」


 俺と七海の間に立ち塞がったのは、隣のクラスの金髪ギャルの美奈三みなみさん。


「あたしも好きです! 付き合って!」


「え?」


 最近やたらと俺に絡んでくるとは思っていたけど、まさか告白されるなんて。

 すかさず、反撃したのは七海だった。


「ちょっと何よ。今は私が告白してるんだけど。私と壮馬は7歳の時からの幼馴染なのよ。邪魔しないでくれるかしら?」


 美奈三さんはへへん、と得意げに鼻をさする。


「残念。あたしたちは、5歳の時に出会ったんよ。生徒会長あなたの負け」


「そんな、嘘よ……」


 七海の顔が真っ青になった。

 一体何を争っているんだ……。


「申し訳ないけど、俺の記憶にないんだけど……」


 美奈三さんが固まった。


「そんな……あたしだよ? 大きくなったら結婚しようって約束したのに」


 美奈三さんの目には涙が滲んでいた。


「ごめん。泣かすつもりはなかったんだけど……でもやっぱり覚えて…………。あっ!! もしかして、ここに引っ越す前の保育園で一緒だったみっちゃん!!!?」


「そうだよ! そーくん!! 思い出してくれたの!?」

「ごめん、髪色とかメイクとかで全然気づかなかった」


 本当に幼馴染だった。驚いた。


 正確には『大人になるまでお互いに良い相手がいなかったら、結婚しよう』だったはずだが、記憶違いといえどこれほどまでの間、俺のことを思ってくれていた人を無下にするのは心が痛む。どうしたものか。


「あのね、せっかく高校で再会できたけど、会長といい感じだったから我慢してたの。けど、幼馴染と付き合えるなんて夢見たいって言ってたから私も! って」


「なるほど。一旦、落ち着いてみんなで話し合」

「美奈三さん分かったわ。私の負けね」


 七海は、目を伏せて俯いてる。

 随分と潔いな......。


「じゃあ、そーくん、これからよろし……」


 どこからともなくヘリコプターの飛行音が鳴り響いた。


「ちょっと待ったあぁぁぁぁ!!」


 俺たちの頭上を掠めて飛行し、校庭のど真ん中に着陸したヘリから誰かが降りてきた。


 今度はなんだよ!


「あなたたち、残念だったわね。私こそが真の幼馴染よ」


 ツインテールをなびかせながら現れたのは、今、一斉を風靡している美少女アイドルのレイカだった。

 女優や声優として活躍する傍ら、趣味でVTuber業も行っている超有名人である。

 

「はぁ!? あんたみたいな有名人とそーくんが幼馴染なわけがないっしょ!」

「そうよ! そうよ!」


 確かに心当たりはないけれど、二人とも酷くない?


 レイカさんはえっへんと胸をはって、ある物を取り出した。


「壮馬くんは産後すぐのナースステーションで私の隣に並べられていたわ! これが母子手帳とその証拠写真よ! これぞ運命!」


「なん……だと……!!」


 膝から崩れ落ちる二人。


 令花れいかさんの本名が晒されたのはさておき、令花さんの母子手帳に記載された出生日は俺の誕生日の前日だった。

 証拠写真は、ナースステーションで生まれてすぐの赤ちゃんを並べて展示(?)してるときの物だった。 

 生まれたてなので、顔での判別はしづらかったが、確かに俺と令花さんは隣同士だった。


「そんな……0歳のときから幼馴染だなんて、敵うわけないじゃない。CF値(childhood friend値)が桁違いよ......」


 七海は涙を流しながら呟いた。

 二人は圧倒的な力を前に打ちひしがれている。


 CF値? 何だそれ。絶対今作ったろ。


「いや、今更言うのもなんだけど、こういうのって出会った時期とかの勝ち負けじゃないと思うんだけど……」


 七海とみっちゃんと令花さんが恐ろしい形相で、同時に俺へと目を向けた。


「「じゃあ! 誰と付き合うの!?」」


「そ、そんなこと急に言われても選べない……。神様助けて……」


 すると、俺の嘆きに応じて空から大きな光が舞い降りた。


「どうも、神です」


 嘘だろ。本当にきた。その間僅か二行。


「では、神からのお告げ、もといアドバイスです。数百年も生きている神からしたら、10年ちょっとなんて全員同レベルの幼馴染です。一つのことに固執するなんて、人間はとても愚かです。全員と付き合っちゃえばー、いいじゃない。以上です」


「えっ…………」


 後を振り返ると、三人が目を輝かせていた。


「そうね」

「それがいいっしょ」

「そうしましょう!」


「ちょっと待って……ついていけてないの俺だけ?」


「ちなみにですが、神になる前の前世で、本多壮馬様と幼馴染だった私もエントリーしてよろしいですか?」


 ちょっと待て。さらっと新情報を出すな。


「ここまできたら、多いに越したことはないわ」

「それがいいっしょ」

「そうしましょう!」


 それからは早かった。


 令花さんは芸能界を電撃引退し、業界を震撼させた。

 引退報道に対しファンの間で、


「相手が一般人の幼馴染で、生まれた病院も同じならそれは純愛なのでは(錯乱)」

「馴れ初めが生後1日とか勝てるわけがない」


 といった様々な意見が飛び交ったが、最終的には引退を受け入れられたらしい。


 また、令花さんはVTuberとしての配信活動の中で、よく運命の相手の話をしていたそうで、何故か後方で腕組みしていたリスナー層の理解を既に得ていた。怖い。


 そして俺はというと、なんと一夫多妻制が認められているイスラム教に入信させられた。

 しかし、日本の法律では一夫多妻は認められていないため、宗教ごとに適応される家族法が異なるマレーシアに国籍を変更させられた。


 そんなこんなで高校卒業後にマレーシアへ移住して全員と結婚し、幼馴染はみな報われたのであった。


〜Happy End〜




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