第2話僕は人助けができない。

こういう場面、中学の頃の僕だったら迷いなく声を掛けていただろう。

あるいは彼女に好意をもっている男子なら。

でも、


『余計なお世話なんだけど』


中学時代に言われたその言葉が、僕のトラウマになって今になっても引きずっている。


見なかったふりをして、通り過ぎてしまおうか。

そんな薄情なことを考える。

いや、逆に声を掛けられた方が迷惑なことだってある。というか、そっちのほうが多いのではないのだろうか。


が、その女の子と目があった。

彼女の目は間違いなく誰かに助けを求めているものだ。


……


それを見た瞬間、もう自分は見て見ぬふりが出来ないんだと確信した。

たとえそれが余計なお世話だとしても。


「大丈夫?」


なんともベタで、イケメンがいうようなセリフを僕は言う。


「え?…あ、うん……あ、いや…………」


彼女は恥ずかしいと思ってか、少しはにかんで表情をごまかしながら袖で涙をぐしぐしと拭く。

それでも涙は一向に止まらない様子だったので、使ってないハンカチを貸した


「これ、まだ使ってないからよかったら使って?」

男のハンカチって大丈夫かな?

もしかしたらキモイかもと内心思いながら渡す。


「……ありがとう……」


彼女は素直にハンカチを受け取ってから涙を拭きとる。


ようやく彼女が落ち着いた頃に、買ったばかりの水を彼女に渡す。


一口飲んで一息ついたあと、彼女は落ち着いた様子を見せた。


「恥ずかしい所……見られちゃった………」


「ごめんね、でもどうしても見過ごせなくて」


さっきまで素通りしようとして、なにを言うか。

僕はうそつきだ。


「でも、ありがとう」


ありがとう。

その言葉を家族以外の誰かからもらったのは二年ぶりくらいな気がする。


「それならよかった」


ほっと自分が余計な事をしていなかったと思い安堵する。


「………また花泉くんに助けられちゃった……」


「ん?」


「ううん、何でもないの」


「そ、そうか」


「うん」


それにしても、さっき男子たちが話してた印象とずいぶん違う気がする。

おどおどなんてしていないし、ちゃんと言葉を返してお礼もくれた。

まぁ傍から見た印象とこうして対面で話してみるとで違うこともあるか。


「じゃあ、そろそろ授業だから行くけど…もし気分が悪いんだったら保健室に行くんだよ?」


間違っても一緒に教室に戻るところなんて見られたくないだろうから。


「うん、ありがとう」


そういって月城さんははにかんだ笑顔を見せた。



昼食を食べながら自分が朝にした行為を思い返し後悔する。


なんだよハンカチって……

行くんだよ?じゃねぇよ陰キャが……ああ、しにたい………。


花泉は自分の行動が大変はずかしいと思い穴があったら入りたいくらい一人教室の隅で悶えていた。


ああ、取り合えずさっさと食べて次の授業の予習でもしとこう……。


なんて思いながら花泉は無理やり自分の気持ちを勉強で切り替えようとする。


『えー二年Bクラスの花泉君、至急校長室まで来てください』


唐突に教室のスピーカーからそんな声がした。


え?なに?僕なんかした?


普段学校で誰とも会話をしないので、特に変わった事もないまま日々の日常を過ごしていた。

ので、こうしたイレギュラーが起こるとさすがに不安になる。


教室のみんなの視線が僕に集まる。

やめて、そんなお前なにしたのみたいな視線やめて!


視線から逃げるように僕は教室を出て校長室に向かった。

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