月城さんは同じ場所で勉強ができない

佐藤夜明

第1話僕は人と関わる事が出来ない。

今日はテスト成績開示の日。

50位からそれ以上が廊下の掲示板に張り出される。


旧時代的とも思うが学校の伝統という形になって学生たちの中では一つのイベントとして楽しむ生徒が大半だ。


だから当然、廊下には人だかりが多く、ついでにガヤガヤと賑わった声もあり賑わっている。


「ねぇユキ、順位どうだった?」


「わたしギリ三十だった」


「えぇ!まじ!?めっちゃ勉強してんじゃん!!」


「へへっまあね」


隣から互いの成績順位の確認し合って褒め合ったり喜んだりする声が聞こえる。


呑気なもので、少し羨ましいなと思う。

僕はこの時が一番お腹が痛くなる瞬間だというのに。

自分の手で腹を擦りながら恐る恐る自分があってほしいと思う位置に目線を向ける。



二位 花泉 紳志  四百八十七



よしッ!

腰のあたりで控え気味に拳をぐっと握る。


現在通っているこの学校は五位以内に入れば学費を免除、二十位以内であれば半額してくれる制度がある。

だから学生の生徒の中で生活があまり豊かではない者にとっては、その制度の恩恵を是非とも受けたいと思い、勉強を熱心にする者もいる。


花泉紳志はないずみ しんじもその学生の内の一人だった。


桃ッ!兄ちゃんやったぞ!


現在中学二年生の妹、花泉 桃奈に対して心の中で自らの偉業を報告する。


この瞬間だけはテンション上げずにはいられない。


両親は中学の頃に天国に行ってしまったので、今はおじいちゃんの下で妹と暮らしている。

が、あまりそれでも余裕という感じの生活ではないので、こうした学費の負担を学校側が負担してくれるのは大変ありがたいのである。


自分の順位を確認して目的を達成した紳志はそそくさとその場を後にしようと足を動かす。


これ以上人が多くなれば、体力に自信があるとは言えない紳志は、人込みに揉まれたら絶対に気分が悪くなると思ったからである。


「おい来たぞ、月城さんだ」


少し歩いた所で一人の男子生徒が何かを指すように誰かに声を掛けたのが聞こえた。

僕はその男子の指す人物に注意を向けてみる。


その人物とはこの学園の有名人、同じ学年で双子の美人姉妹の姉、月城 冬つきしろ ふゆだった。



文武両道で成績優秀、そしてなにより、人を惹きつけて止まない容姿が、彼女が特別な存在であることを示していた。

その全てを総合して一言で表せば完璧超人という言葉が出てくるだろう。


生徒達がこぞって一人の人物の存在感に圧倒されて道を開ける。

人だかりができていたのに、彼女の近くだけ空いたスペースができる。


彼女は今回のテストで当然のように一位を取った。


という意味のわからない事を成し遂げて。


立ちどまってすぐに彼女は嬉しいとも何とも言えない、感情の見えない表情をして順位表を眺めていた。

その後すぐに辺りを見渡して、何かを確認した後に残念そうな顔をしてその場を後にした。


「やっぱ可愛いなぁ、月城さん。彼女にしてぇ…」


「ば、俺ら如きじゃ相手になんねーよ、彼女にしたいんならやっぱ妹の方だろ」


「確かに瓜二つで妹の方も可愛いけどよ、おどおどしてるし、なんか陰キャっぽくね?」


「ばっかおまえ、それがいいんだろ!」


「うわお前そういうのがタイプなの?」


隣で彼女にしたいしたくないの話をしている。

横腹をこづきあって冗談を交えながらの会話は楽しそうだと横目で見ながら思う。


ああ、僕も第一印象をもう少しマシな形で済ませれたら一人くらい友達できたのかなぁ。

そんな事を思いながら一緒に廊下の角を曲がる。



授業まで少し時間がまだあるので飲み物を買おうと体育館の裏の奥にある自販機に向かう。


人が少ない場所が好きな僕にとってはお気に入りの場所だ。


夏が近づくこのタイミングで、静かに程よく肌をなでるほどの向かい風が気持ちいい。

だがいつもとは違い、この日のむかい風はすすり泣きの声を僕の耳に運んできた。


「……ぐすっ……う…………」


彼女はさっき男子たちが話していた、完璧超人の姉と瓜二つの容姿を持つ、妹の月城冷夏だった。

背中を丸め、すんすんと鼻を鳴らして手に持った紙をくしゃくしゃにしながら女の子は泣いていた。
























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