おはぎ 🌾

上月くるを

おはぎ 🌾




 ――はい、きょうはお彼岸だから、これにしたの。🍵

   あら、ちょうど、いただきたかったところよ。🍊



 バツイチ同士、どちらかの家でお茶会を開くのが月一度の慣例になって久しい。

 その日、八つ上の友人が老舗和菓子店で求めてくれたのは餡子のおはぎだった。


 ふたりとも甘いもの、とりわけ小豆餡が大好物で、粒餡にもこし餡にも目がない。

 豆大福、鶯餅、草餅、桜餅、柏餅……ときどきの味をほんの一個か二個賞味する。


 さっそく上等な濃い(これもふたり共通の好み)緑茶を煎れ、ゆっくりと味わう。

 ほどよい甘さを楽しみながら、ふとだれにもしたことがない昔話をしたくなった。


 前回、友人から「墓場まで持って行くつもりだった」重い秘密を打ち明けられた。

 そのお返しというとヘンだが、そんな気持ちも多少は働いていたような気がする。




      🛌




 父は八人きょうだいの長男だったから、頻繁に叔父や叔母たちが泊まりに来たの。

 炊飯器も洗濯機もない時代だから、長男の嫁の母には相当な負担だったと思うわ。


 わたしが物心ついたころ、父の長姉がずいぶん長く里帰りしていたことがあって、いつもはわたしの場所と決まっている炬燵の席に、いつも布団を敷いて寝ていたの。


 子どもって残酷よね(あ、わたしだけかも知れないけど💦)、おさな心にそれがいやでいやで、邪魔で邪魔で、早く自分の家へ帰ってくれないかなとイライラして。


 で、あるとき来客があって、お重箱にいっぱいのおはぎを持って来てくれたのね。

 母の実家からの届け物だったと思うけど、四歳のわたし、それをイジワルしたの。


 ええ、まず寝ている叔母さんにおあげしなさいと言われたのに、あげなかったの。

 あとから思い返せば、その一件がわたしの人間としての罪の原点に当たるのよね。


 あれから何十年も経つのに、いまだに鮮明に覚えているの、サタンのような自分。

 赤錆びた画鋲で留められた自分への告発状がね、心の掲示板でガサガサ騒ぐのよ。


 


      👾




 それからも叔母さんは里帰りして来て、そのつど子どもの目にも病気が進み……。

 ある日、小学校から帰ったら、喪服の父がベロベロに酔って男泣きに泣いていた。



 ――ちくしょう! 子どもばかりボコボコ産ませやがって……。(´;ω;`)ウゥゥ



 父の怒りの本当の意味を理解できたのは、それからだいぶあとのことになるけど、わたし、叔母さんが亡くなったのは自分がイジワルだったせいだと、ひどく怯えた。




      😿




 黙って一部始終を聴いてくれていた友人は、勝手知ったる何とやらで(笑)自分で新しいお茶を入れ替えながら、苦労人の年長者らしい所感をさらっと語ってくれる。



 ――そういうこと、だれにもあるんじゃないのかしら。

   げんにわたしだって、この前お話したように……。



 すでに異界へ旅立った人や動物も、いまのところまだこの世に留まっているわたしたちもいつかは天空で一緒になるんだから、そのとき心からお詫びすればいいのよ。





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