大文字伝子が行く44

クライングフリーマン

大文字伝子が行く44

銭湯から出てくる女性達5人と合流する1人の女性。「今日も守備は上々だな。」と、リーダー格の女性が言った。

「女性の敵は女性、とはよく言ったものだな。」電動キックボードで現れた、着流しに狐面の女性が言った。

「誰だ、貴様は?」「見ての通りの『お狐さま』だ。面は被っていなくとも、世間をたばかる貴様らの化けの皮は剥がしてやる。何分欲しいか言ってみろ。」

「ざけんな。てめえら、畳んでしまえ!」「畳むっていうのは、こうやるんだ。ようく覚えておけ。」

遅いかかってきた女性グループのナイフ攻撃を交わしながら、狐面の女性は、ブラジャーを外した。「いやー。」女性達は、その場に蹲った。狐面はブラジャーをまとめて放り出した。

狐面の女性は去り、いつの間にか来た、女性警察官達に連行された。

3日前。伝子のマンション。「ウーマン銭湯?何それ?」と依田が声を上げた。栞が笑った。「依田君達は、興味ないだろうから知らないわよね。男湯がない銭湯よ。」

「なるほど。」と高遠は感心した。ある銭湯のオーナーが閉業する前に一か八かの賭けに出たのよ。」と栞が説明を加えると、横からみちるが「最初のアイディア出したのは、私なんだけどね。」と口を挟んだ。

「生活安全課に銭湯を閉業する前に、何かやりたい、って相談に来たんですよ、先輩。丁度、みちるが一時的に生活安全課にいた頃に。」と、愛宕が言った。

「男抜きにしたら、当たったのか?」と伝子が尋ねると、「それがちょっと違うのよ。男湯取っ払って、番台も取っ払って、暫くは前よりも客の人数も増えたけど、大したことは無かった。そこで、オーナーはネットで宣伝をした。ついでに銭湯のリフォーム案を募集したの。そしたら、『シネコン式』にしたら?という案が投稿されて、採用したら、大当たり。」

「シネコン式?階段導入ですか、逢坂先輩。」「違うわよ、福本君。普通の銭湯に行ってお湯に入る段取り、言ってみて。」「えと、まず番台で料金払って、あ、番台取っ払ってって言いましたよね。自販機でチケット買うとか?」

「ネットで予約するシステムを使ったってことですか?あと、シネコンって言うと、『総入れ替え制』。詰まり、入場時間を制限出来る。」と高遠が言った。

「流石、高遠君はいいとこついているわね。ネットで購入したら、アプリに登録され、入り口にあるチェッカーの機械にかざすと入場OK。つまり、番台を通る訳ね。」と、栞が説明を続けた。

「他にも色んな工夫をしたんだろうな。女子が嫌がるサウナ室撤廃。洗い場はシャワーコーナーにする。すると、浴槽を大きくゆったりとしたものに出来る。男湯女湯の壁がない訳だから、いくつもの大きさの浴槽にも変更出来る。」と伝子が言うと、「叶わないわね、この夫婦の想像力推理力には。」と栞が降参した。

「ここでまた、困ったことが起こった。」と愛宕が言うと、「置き引きだよね。」と、遊びに来ていた、ひかるが言った。「お母さんが言ってた。男は体裁悪いと指輪を外したりするもんだけど、女は滅多に外さない、って。特に結婚指輪は。」

「なるほど。銭湯に入るなら外すよな。ロッカーの話が出てこなかったな。銭湯のロッカーって言えば公然と脱いだ衣類や荷物を入れて・・・あ、番台が無いから監視していないか。脱衣場のセキュリティ強化が必要だな。」

「そうなんです、依田さん。」と愛宕が言うと、「セキュリティ強化だけでなく、犯人も捕まえて欲しい、と言われた愛宕さんは、先輩に相談に来た・・かな。」と南原が言った。

「よし。『女子部』で、その銭湯に行こう。あつこ。犯人は多分数名の女子だ。男性警察官が逮捕しようとすると、ごねるかも知れない。」

「わかりましたわ、おねえさま。ミニパト数台と女性警察官数名を配置します。」

以前置き引きにあったという曜日から、決行は翌々日に決まった。

4日後。まるまげ署。取調室。青山警部補が、置き引きグループのリーダーに対峙していた。「なんだよ、あの狐面は。あんたのところは女性警察官にあんなコスプレさせているのか?TVやネットで流すぞ。」「どうやって?仲間か。じゃ、捕まっていない仲間のことを先に聞こうか?」

「狐面はよ。」「狐面ってさっきから言っているが、ウチの女性警察官達は見ていない、と言っている。ははあ。狐にたぶらかされたか。それとも、夢かな?」と青山警部補は揶揄った。

伝子のマンション。「伝子さん、また青山警部補からの依頼です。」「今度は何?」「痴漢です。個人の痴漢では無く、痴漢を強要された男が痴漢しているらしい。半グレかも知れませんね。

「目撃者からの通報があるまで、発覚しませんでした。ご存じの通り痴漢は親告罪ですから。」「しかし、痴漢させられたってなると、確か強要罪とか脅迫罪とかじゃないのか?愛宕。」

「先輩のおっしゃる通りです。数日後で結構です。奴らを一網打尽にする知恵を貸して下さい。」「お前、貸した分、返さないからなあ。」

「えええ?」「冗談だよ。うまく囮作戦出来るといいがなあ。」と伝子は腕を組んだ。

翌日。午前10時。国会重議院会議場。

総理の代行を務める副総理の麻生島は少し、苛立っていた。「元寇さん。今回は緊急なので、各党代表が質疑をする、という形を取っている。さっきから聞いていれば、総理不在の理由が不明瞭だとか、阿倍野元総理の所謂『アンカケ事案』が未解決なままだとか、『平時』の時のような質疑をされている。議長。立国賢民党の質疑は無しで進めて貰いたい。」そういう麻生島に大下議長は、立国賢民党の泉田代表に尋ねた。

「泉田代表。それで構いませんか?」「副総理のおっしゃる通り、今は有事です。のんびり構えることは出来ません。我が党は情報収集に遅れを取りました。どうぞ、他の党の質疑に時間を割り当てて下さい。また、元寇議員の発言は不適切でした。本人に代りましてお詫び申し上げます。」「了解しました。では、疑心の会。代表の大前田誠君。」

「憲法の改正、自衛隊法の改正、破防法の適用範囲の修正、スパイ防止法の成立は大変意味ある決議だったと思います。『重要土地取引規制法』の厳格化の修正強化案には、我が党は賛成です。」

その時、元寇議員は会議場を出て行った。出ていく時に、会議前に強制的に預けさせられたスマホを取り戻し、フンと鼻を鳴らし、ロビーで電話しようとしたが、繋がらないので、外に出た。

100メートル程歩くと出アンテナマークが点滅した。やはり、スクランブルをかけられていたか。「私です。国会はスピーディに法改正をしています。異常な早さ、否、異常な警戒心です。私は強制的に質疑から外され、日本人である代表のみ発言権をあたえられています。巨産党も慎重に構えるしかないでしょう。また、連絡します。」

スマホの通話を切ると、屈強な男達が取り囲んだ。SPではないようだ。

「ご同行願おう。話はそこで聞かせて貰ったが、そのスマホも調べさせて貰うよ。『外患誘致罪』は、一般にはあまり聞き慣れない罪名かもしれないが、国家反逆罪であり、日本に存在する犯罪の中でもっとも重いとされている犯罪です。法定刑は死刑のみしか規定がない。覚悟してくれたまえ。もうコピー終わった?早いね。文明の利器は。」

「あなたは誰だ?私は重議院議員の元寇だ。逮捕権はあるのかね?」

「失礼。私は警視総監の次に位置する渡辺副総監です。君、手錠を。」

部下の警察官が副総監に手錠を渡し、副総監は「通称元寇こと黒田和夫。外患誘致罪の容疑で逮捕する。先のスパイ防止法に基づく、緊急逮捕だ。」

「わ、私は日本人じゃない。」「了解した。では、違う犯罪での検挙だな。尤も、スパイ防止法には出自の国は関係無い、とあるがね。君がさっきまでいた議会は立法機関。我々は司法機関の一端を担っている。さあ、連行してくれ。録画も止めていいぞ。」

元寇何かわめきながら、連行されて行った。

午前11時。重議院会議場。15分の休憩が始まった時、係員から議長にメモが渡された。メモは議長から麻生島に、麻生島から小梅党の地井代表、地井代表から立国賢民党の泉田代表に渡され、疑心の会の大前田へ、と順繰りに回覧された。

正午。全ての法案は決議された。

同じく正午。伝子のマンション。「全ての法案審議が通った。後は歓喜院だな。ところで、痴漢撃退作戦は練れたかね?」と画面から久保田管理官が尋ねた。「明日でしたね。今日中にはまとめます。男性警察官も応援に入れて貰えますか?」「勿論だよ、大文字君。じゃあ、楽しみにしているよ。」

画面が消えると、「元寇議員が国家反逆罪で捕まったそうですよ。捕まえたのは、というか手錠かけたのは、何と副総監。」と高遠が嬉しそうに言ったのを聞いて、「どこからの情報だ、学。」「あつこ警視です。」

「ふうん。」

翌日。事件が起りやすい、横横線通勤列車に伝子達は乗り込んだ。

伝子は前日間に下調べをしていた。現場となりやすい車両は連結部から隣の車両に渡れない。『端っこ』の車両で、隣の車両も同様だ。座席が途切れた部分から車両の車掌室部まで約2.5メートルある。出入り口は座席部が途切れた部分からの為、ここを塞ぐと密室空間が作りやすい。男達はバリケードを作り、犯行を行っていた。囮は、新人の金森和子一曹が担当し、女子高生に化けていた。

乗車した駅から次の駅までは1分位の運行時間だが、その後は準急の為15分は停車しない。男達は、撮影の準備までして、サラリーマンらしき男をけしかけ、レイプさせにかかった。サラリーマンらしき男が『1枚目』のパンティーに手を掛けたとき、その女子高生は低い声で言った。「そこまでだ!」座席側の方から大きな人並みが押し寄せ、犯行エリアは圧縮された。

最寄りの駅に着いた。場内アナウンスが流れた。「この列車は車両故障の為、ここからは乗車出来ません。皆さん、お降り下さい。3番線の列車にお乗り換え下さい。」

乗客は皆降りて、乗り継ぎ用の列車に移動した。ある乗降出入り口だけ、飛行機の乗降口のように連結され、ホームでない部分に強制的に乗客は吐き出された。

ある乗客が文句を言った。「会社に遅れるじゃないか。」「他の客にレイプさせるように指示した、半グレの会社に遅刻か?連絡していいぞ。」車両の他の出入り口から鑑識班が乗り込んだ。

井関が青山警部補に言った。「犯行のライブ画像はバッチリだ。隣の車両からも撮っているしな。」

「ず、ずるい。」会社に遅れると文句を言った男がまた文句を言った。

金森がいきなり平手打ちをした。「痴漢野郎。」

「お、俺じゃ無い、こいつが・・・。」

言い終わるまでに、みちるがヒールで男の足を踏みつけた。「教唆も立派な痴漢だよ、豚野郎。」

「さ、会社に電話したらどうだ?こう言えばいい。痴漢させた男と近くにいたから、鉄道警察隊に捕まってしまった。身元引き取りに来てくれ、と。」伝子が凄んで言っ効果があったか、男は素直に従った。辺りに覆っていたフードは取り払われ、一同は鉄道警察隊控え室に移動した。

同日午後7時。都内某所。ビルからトラックに荷物を運び出す一団がいた。

「夜中に引っ越しですか?何ならお仲間が待っている場所にご案内しましょうか?」と青山警部補が言った。社員達は四方八方に・・・逃げられず、手錠をかけられて行った。

そこへ、他のテナントの会社の女性会社員達が下りて来て、通りかかった。社長らしき男は、彼女達の一人を捕まえ、ナイフを首にあてがい、逃走を図ろうとした。

「私は、髭伸びてないぞ。」言うが早いか彼女は社長の手首を捻ってナイフを落とし、肘鉄を食らわして、アッパーカットを見舞った。一団は全員逮捕された。

午後8時。伝子のマンション。「たこ焼きか、懐かしいな。」「せやろ。ウチのお手製やで。」と声がした。

「総子ちゃん。いつ来たの?」「さっき。朝見せてもろたで。伝子ねえちゃん、やっぱり強いな。」「聞いて無かったから、何も準備していないが。」

「かめへん、かめへん。すぐ帰るから、夜行バスで。今日はなあ、お忍びやねん。ほな。お婿さん、気張ってな。」

伝子の従妹の総子は、さっさと出ていった。

「変ってますね。」「うん。変ってる。」

「学。これ、どうだ。」と伝子は写真を見せた。「可愛いですね、この人は?」

「今日、囮捜査に入った、EITOの新人。空自からの出向。金森和子一曹だ。そそるだろ?やりたいか?」

「何けしかけてんですか。あ。今回の半グレの組織も那珂国のマフィアが黒幕ですかね?」

「今の所、何とも言えないな。あ。いちゃついている所を悪かったな。」と、理事官が言った。

「何か情報が?」「うむ。今回アンバサダーの君に出動をお願いするかどうかは分からないが、明後日、那珂国は軍事演習と称して台湾近郊海域で実弾を使うらしい。明後日は、何とかという将軍のお祝いの日らしい。それを口実に、羽目を外した奴が誤射、ってストーリーらしい。実は、もうそろそろニュースで流れるだろうが、先ほど、日本の排他的経済水域、所謂EEZにミサイルが撃ち込まれた。白々しく誤射だと言っている。五発撃ち込んで誤射だと。本土に狙い撃ちはいよいよあり得ない状態になった。一応、連絡しておく。」画面はすぐに消えた。

「たこ焼きじゃ足りないだろうから、オムライス作っておきました。」

翌々日。午前8時。台湾に向かう那珂国の艦船に、仙石諸島近くの排他的経済水域に向かって並ぶ、日本の護衛艦があった。甲板からマストにかけてプロジェクション・マッピングで映像が流されていた。所謂芸者の舞である。どの護衛艦も映像が流されていたが、映像は各艦をリレーする形で流れた。那珂国の艦船はしばし、動かなかった。那珂国の旗艦から、日本側の旗艦に通信が入った。

「何の真似だ?」「お前達が滅ぼそうとしている日本は、独自の文化がある。それを再認識して貰いたかった。」艦長に並んだ海将は応えた。

10数分後、那珂国の艦船は予定通りの運行を続けた。『予行演習』という名の『脅し』をする為に。

EITOベース。「陸将。海将から連絡が入っています。」と、鳩山二曹が陸将に言った。

「繋いでくれ。」「橘。言われた通りやったが、効果あるのかな?」「さあな。度肝を抜かれたことは確かだろう。ワンダーウーマンより効果的かも知れない。これは、大文字君の知り合いの高校生の発案だ。」「将来、自衛隊に欲しいな。」「全くだ。自衛隊法の修正を真っ先にやってくれたし、予算度外視で小さなことでも大きく出来るようになるさ。」

二人の会話に事務官が割り込んだ。「我々には、あの国の人間が用意出来ない、大きな武器があります。大文字伝子という、未知数の武器が。」

同時刻。伝子のマンション。伝子は「ハクション!」と大きなクシャミをした。

「風邪ですか?」高遠は自分のおでこと伝子のおでこに片方ずつ手を当てた。

「熱はないな。引き始めは・・・と。」高遠は薬と水の入ったコップを伝子に渡した。

「食後じゃないと、まずいだろ。」「今、食べれば一緒です。池上先生が言ってました。」

「今朝は何だ?」薬を飲みながら伝子は言った。「ピーナッツジャムの乗ったトーストです。先に着替えて下さいね。また理事官に見られちゃいますよ。」「はあい。」

伝子が寝室に引っ込むと、高遠はPCの電源スイッチを切った。

チャイムが鳴った。高遠が出ると、依田が立っていた。「はい。宅配便。これ、那珂国からみたいだけど・・・。」「ヨーダ、待って。」

高遠はスマホを取り出し、あつこに電話をかけた。「あ、警視。那珂国から荷物。爆発物かも。」

「処理班連れて向かう。なるばく離れて。乱暴に置いちゃだめよ。」

今朝も平穏に始まらない、大文字家の朝だった。

―完―



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大文字伝子が行く44 クライングフリーマン @dansan01

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