世界猫の日
川谷パルテノン
8/8
私は猫アレルギーである。猫自体は嫌いではないし、なんなら抱きしめてやりたいくらいでいるが抱きついたらえらいことになる私だ。大人になるにつれて和らぐからねきっと治るからと言った医者の言葉を信じてたまに接近してみたりするが鼻の中のダムは毎度決壊する。当時の主治医が亡くなった後、息子先生に和らがんのですけどと尋ねてみたが完治はしない、症状に耐えれる基礎体力が備わるだけと無慈悲な診断をいただいた。親父先生は私のいつだかの夢を壊さないようにそう言ったのだと思うと優しさに泣けてきて線香をあげさせてもらった。
遠くから野良猫がつぶらな瞳でこちらを見つめる。目と目があった瞬間から落ちる恋がここにある。しかし恋はかけひきである。恋をする時は絶対焦っちゃダメ。どこまで近づける私なんだ。ゆっくり近づいたがすぐ逃げられてしまう。仮に逃げられなかったとしても私は猫アレルギーなのだから実らぬソレなのだけれど。
もう一生猫と共にある生活ってのはないのだと思うと落ち込む。幼少期、私がまだ猫アレルギーだとわかる前に祖母の家にいた猫。デブで犬みたいにデカかった不健康な猫。私はそれを可愛いと思った。今では考えられないがデカ尻に顔をうずめて精一杯それを吸った。おかげで救急車。私は一度生死を彷徨っただけに想いは一入である。
八月八日。今日は世界猫の日らしい。なんだそりゃ。すげーデカい猫でしょうか。世界猫はドタドタと大地を揺らす。慌てふためく民衆。私はそれでも動かない。吸わさせてくれ。頼む。私を包み込んでくれ。世界猫はどんどんと近づいてくる。おい! 死ぬ気か! 誰かが私に向かって言う。
「知るか! 私はもう一回しんでる!」
声の主は呆れ顔で黙り込み逃げ去った。さあ来い世界猫!
ミャーーーー
世界猫は私の前で急ブレーキを踏んだ。ごめんね嘘ついて。親父先生の声だった。気にしてますけど気にしてないですと言う私の声は泣いていた。世界猫は優しく私を抱きしめた。私はそれを精一杯吸った。鼻水、出ないじゃない。
目が覚めると部屋だった。猫アレルギーはきっと治っていない。とはいえ。
「吸ったどーーっ」
私はカレンダーの八月八日に丸をつけた。
世界猫の日 川谷パルテノン @pefnk
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