幼き日の憧れ
菊理
空を飛びたい
──空を飛びたい。
子供の頃、そう思っていた人は多いはずだ。綺麗な、澄んだ、晴天の青空。それにただ漠然とした憧れを抱いて。空を飛ぶ魔法、某ネコ型ロボットが所持している、空を飛び回れる秘密道具などなど、それらが本当にあったら良いなと希望を抱いて、空を旅したい、とそう思ったことはないだろうか?
ただ時の流れというのは残酷なもので、いつの間にかその憧れは、その希望は、失われていった。
生身で空を飛ぶ?
あり得ない。できるはずがない。
魔法?秘密道具?
そんな幻想、空想などあるはずも無い。
時間が経つにつれ、現実を見るようになった。そんなものこの世界でできるはずがないと憧れを捨て、あるはずがないと切り捨てて、そんなことを考えている暇があったらと、記憶の底へ忘却して、いつの間にか幼き日に想い描いた夢は消えていた。
わかっている……わかっているとも。
所詮、空を飛ぶなんていうのは子供の頃に想い描いてたもので、夢のような、朝のひばりが鳴いた頃には終わるような、ほんのひと時の間だけ抱いたもので、けれど無理だと半ばわかっていながらも憧れずにはいられなかった。僕にとってはそんな存在、そんな憧れだった。
けれど大人になった僕は久しく忘れていた。いや、忘れていたというよりは、否定していたの方が正しいのかもしれない。そんな甘い夢など叶うはずないと否定し記憶の中から消していた。
現実を知った。
甘い理想など叶うはずがないことを知った。
抗えない理不尽を知った。
知識が増えてくに連れ、過去に描いていた幻想など叶うはずがないことが是が非にも理解してしまった。
だからだろうか?今の今まで、その存在を忘れていたのは。何度も憧れて、何度も夢に見て、無邪気に、何度も想い描いていたはずなのに、時が経つに忘れてしまっていた。
僕が、この瞬間思い出しているのも、ただの偶然で、たまたま過去を見直す機会があったまでのこと。
今はこうして想い描いているが、少しすれば忘れてしまうのだろう。日々を過ごすにつれ、何かを失わなければ何かを取り入れることはできなくて、そうしなければ生きられない。だから、過去に囚われるなんてことはあってはならない。
ふと、窓の外を見る。
合理的な理由はない、ただ僕がそうしたいと思ったからに過ぎない。
──雲一つない晴天の青空だった。
空を意識することは久しぶりだった。
見ることはある、でもそれは風景の一部で、気にすることなんてなかった。ただ背景にしか過ぎない存在だった。
幼き日に想い描いていたほどではないけれど、たまには意識するのもいいかもしれない。
だって、
雲一つとない晴天の青空は、
幼き日に憧れた青空は、
──清々しいほど綺麗だったのだから。
幼き日の憧れ 菊理 @kukurihime
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