父視点

第1話 二度目の魔王討伐隊の帰還

 二度目の魔王討伐隊からの知らせに、私達は愕然とした。


「お止めする間も、ありませんでした」

彼らは口を揃えた。


 テオドールは、崖から身を投げ、命を絶った。あの、快活な若者が、死を選んだのか。


「魔王の復活はない。僕にはわかる。これは僕を始末するための狂言だ。それくらいわかるよ。孤児院育ちだからって、見くびってもらったら困るね。君たちの望み通り、消えてあげる。さようなら」

テオドールの最期の言葉に、私は後悔した。何故、もっと早くに、魔王の復活が狂言であることに気づかなかったのか。


 陰謀を企てた者たちを、全て処分したが、あの若者、テオドールはかえってこない。子供の頃、夏を過ごしたあの懐かしい町、消え去ったあの町の、たった一人の生き残りも、消えてしまった。


 テオドール、気づいていたならば。何故、あれが茶番だと、私に言ってくれなかった。最早どこにもいないテオドールに問いかけても、答えはない。答えはないが、わかってはいる。私達は、テオドールを傷つけた。


 娘、シュザンヌとの面会を断る私達に、テオドールは礼儀正しく頭を下げて、帰っていった。立ち去る悲しげな背を、私達はただ黙って見送った。何か声をかけてやれば、かわったのだろうか。


 魔王を倒した勇者、テオドール。長く苦しい旅と、激戦を生き抜いた彼は、穏やかな優しい性格の若者だった。


 私達は、彼の優しい穏やかな性格に甘えていたのかもしれない。正直に、シュザンヌに会わせてやれない理由を、打ち明ければよかった。私達は、テオドールを信頼していたはずだった。いずれ家族となるはずだったテオドールを信頼していたのなら、打ち明けることが出来たはずだ。


 テオドールを信頼できなかった私達を、テオドールが信頼しなかったのは当然だ。


 国王からの、復活した魔王を討伐せよとの命令だ。テオドールは、何の後ろ盾もない孤児だ。国王と、並み居る貴族を前に、魔王が復活していないなど、言えただろうか。


 私達が、テオドールの後ろ盾となるはずだったのに。私達の、二人目の息子となるはずだったのに。私達は彼を信頼しなかった。自分を信頼していない者を、信頼する者などいるわけがない。


「すまなかった」

私は届かない言葉を、つぶやくしかなかった。


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