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「弱い。」


「君が強すぎるんだよ……」


「お前は戦闘のセンスが全くないな」


 ――――マシなのはその『頭』だけじゃねぇか?


 ――――――――


 バキッ。


 それは金属バッドの当たる音ではなかった。


「なっ、うわぁああ!」


 家を支えている一本の柱がいきなり倒れてきて、臣做おみなを下敷きにした。


「何で!くそっ動け!」


 勿論柱はかなり重い。下敷きになっている人間に動かせる代物ではない。

 たとえそれが臣做主人公であってもだ。


「……君言ったよね。ガラスの破片で怪我をしたくないって」


「お前!まだ動けるのか!?」


 散らばった鏡の破片を1つ拾い上げながら呟く。


「普通無敵なら破片の1つくらい踏んでも無傷なはずなんだよ。君……」


 ――――『事故』には弱いんじゃないか?


「まさか……」


「うん。そのまさか」


 惡トあくとは真相を知っていたのだ。『主人公』の弱点、事故には抗えないことを。


「どんなスーパーヒーローでも災害の前では無力だ。例えば火事、とか」


 だからあえて攻撃を避けなかった。あえて追い詰められた。あえて壁に叩きつけられた。

 全ては計算済みだったのだ。全ては、『主人公』を慢心させるために。


「最初から攻撃が読めていたのか!?」


「あんな馬鹿みたいな攻撃普通当たんないよ」


 そう、臣做おみなの強みは『主人公』という強力な才能ギフト。他者からの攻撃を受けないというその特性のお蔭で今まで難なく勝ててきた。

 だから彼もまた喧嘩慣れしていなかったのだ。


「君の攻撃が柱に当たるように誘導させてもらった。僕も痛い思いしたんだからさっさとくたばってよ」


 恐ろしい男だ。

 ここには鞘架さやかもいるんだぞ?下手したら彼女も巻き込むことになるとは考えなかったのか?


「考えてない。彼女は僕の事をよーく理解してる」


「……そうね。解ってたわ」


「形勢逆転だね」


「っ!!まだだ!お前にはトドメを刺せない!何故なら攻撃は――――」


 そう、動きを封じたとして。

 刃物で刺そうにも落ちている金属バッドで殴ろうとするにも彼には攻撃が通らない。


「無理だよ……僕にはね」


 そう言うと惡トあくとは手から炎を出した。その炎は一般的な赤いものではなく、青い炎だ。


「馬鹿だな、炎であっても僕には――」


「あ。手が滑った」


「っ!?!?うわあああぁああ!!??」


 燃え盛る炎。それはすぐに臣做おみなに引火した。

 

「何で!?僕に攻撃は!!熱い!助け」


「あの麦茶さやちゃんに頼んで『物質変換』してもらったんだよねぇ。油!よく燃えるだろ!助ける?助けないよだってお前さやちゃんに何しようとした?てか手引っ張って走ってたよね!?あの時殺してもよかったんですよー???」


「ごめんなさい!お願いします助けて」


「苦しんで死ね」


 ――――――――


 暑い。溶けそうだ。

 少女はそう感じていた。

 理由は明白だ。周囲を見渡すと四方八方青い炎が立ち上っている。

 

 そこは一軒の民家。一般的な、ごく普通の少年の住んでいる民家だ。

 そこには不相応な光景が広がっている。


 粉々になったテレビ、焼け焦げたテーブルや柱、窓ガラスの破片が散乱した床。

 その床にはその民家の住人である少年が転がっている。

 そしてその頭を踏みつける足。

 踏みつけている青年の腕から血が滴り落ちているのが見える。

 ぼうっとそれを眺めていると、青年が少女に気付いたようでゆっくりと振り返る。


『その時、鏡に映った姿はどこか懐かしさを感じた』

 

 振り返ると青年は頭部からも出血しているのが分かる。結構酷い怪我をしているようだ。

 大丈夫か、と声を掛けようとして躊躇する。

 ……この青年こそが『不相応』な原因ではないのか?逃げて警察にでも通報するか?

 考えを巡らせていると青年は言った。


「これで分かっただろう。これが『答え』さ」





「僕が『救世主』だ」


 ――――――――――


「……さやちゃんさぁ、警察に通報しようとか考えてない?」


「……だってアンタ怖いんだもん」


「コワクナイヨー」


 全てが終わった後、二人は燃え盛る家を出て夜道を歩いていた。

 ここらへんは住宅街。夜に出歩いている人はそういない。


「大体なんでコート着てるのよ……学校帰りだったのに」


「何となくこうなる事は予測出来てたから。まあいざとなったら『空』から逃げようと……」


「空?」


「制服の背中に穴開けとくの忘れてたからわざわざ着替えてきたんだ」


「アンタそれ!?」


 鞘架さやかは心底驚いていた。

 翼、惡トあくとの背に翼が生えている。まるでドラゴンだ。


「ちょっと某科学者に改造してもらったんだよ。だから普通の人間よりも僕はしぶとい」


 だから普通の人間では無理な事が出来ていたのだ。

 手から炎を出したり、あの怪我で走り回ったり――――。


「ねぇ、そういえば怪我――きゃっ!」


 いきなり背中に重さを感じた。

 非力な彼女では支えることができず、そのまま地面に倒れ込む。


「あは、ごめん。無理……しすぎたかも」


「!ちょっとまさか死なないわよね!?きゅーきゅうしゃ!きゅーきゅうしゃよばなきゃ」


「死なないから!救急車はやめて病院嫌いなんだ僕は!|い゛っ!?」


「叫ばないの!叫んだら痛いでしょ!?馬鹿なの!?」


 彼がどこに住んでるのか鞘架さやかは知らない。どうやら救急車も嫌らしい。多分ただ嫌なだけではなく、普通の人間ではないから行きにくいのかもしれない。

 彼に家の場所を聞こうにもどうやら意識を保っているだけで限界らしく聞けない。

 となると……。


「仕方ない、私の家に行くわ。歩ける?」


「……鬼?」


「……きゅうきゅうしゃ」


「ガンバリマス」


 早く家に帰らねば。多分その内寒くなってくるだろう。

『主人公』の効果が切れればこの世界のバグも直ってしまう。

 寒ければ彼の体力が持たないかもしれない。


「……言っとくけどアンタは救世主主人公じゃないから。私は認めない」


「……何で。」


「何でもいいでしょ」


 救世主主人公なんて危険な立ち位置、世界が許しても私は許さない。


「……さやちゃん」


「何」


「主人公を倒した今、君は世界にとって『悪』だ」


「そうね」


 慣れている。

 毎度世界を敵に回してきたのだ。今更なんだって言うのだ。

 確かにこの世界を敵にするのは少々危険である。それは世界にとって”異分子”とされるからだ。


「僕は許さない、君一人が戦うなんて」


「何が言いたいの。いきなり現れといてアンタ私の何?」


「解らない」


「アンタでも解らないことあるのね」


「それでも。」


 ――――僕も、悪と共に戦おう。


 これから先長い闘いと別離が待っているとしても。





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