5頁

 授業の開始のチャイムが鳴った。

 どうやら転校生の二人はそれぞれのペットの奪還に失敗したらしい。

 喰々流くぐりゅうさんは兎も角、浮絵うきえさんは相当落ち込んでいるように見える。

 

「うぅ……とーかぁ」


「とーかくんって言うの?あの狐」


「貴方は……」


「あ、僕疾石臣做とういしおみな。なんか落ち込んでそうだったから。」


 何となく声を掛けてみたらしい。

 あ、ここからは天才名探偵の喰々流惡トくぐりゅうあくとがお送りします。


浮絵鞘架うきえさやかよ。よろしく」


「よろしく!」


「ところで、早乙女零無さおとめれいなさんって……」


「ああ、行方不明みたいなんだ……。」


 そう言いながら顔を伏せる臣做おみなくん。大好きな子が行方不明になって悲しいのかな?


「……私知ってるの。零無れいなさんがどこに行ったのか」


「ほ、本当に!?」


 へぇ、さやちゃんもやっぱり名探偵なんじゃないの。僕には敵わないけどね。

 ん?でも……。


「それ先生には――――」


「まだ話してない。先に貴方に話した方がいいと思ったから」


 ふーん。そんなにそいつが大事なんだ。臣做おみなくん、”焼き”殺そうかな。


「でもここじゃあ他の人に聞かれちゃうわね」


「あ、だったらさ。放課後家においでよ!独り暮らしだし何も面白いものはないけど――――」


 ん?


「あら。ありがたいわね――――じゃあ放課後にまた」


「うん、またあとで!」


 おい鞘架さやか。他の男の家にそう簡単に行くなんて無防備すぎるだろ?

 『俺』は許さないぞ。


 ――――――――――


浮絵うきえさん!」


疾石とういしくん」


 放課後、臣做おみな鞘架さやかと一緒に帰る準備をしていた。


「さぁ、行こう!」


「あ、待ってとーか……」


「この学校の先生厳しいから一週間くらいしないと返してくれないよ。大丈夫、動物とかならちゃんと面倒見てくれると思うよ」


 鞘架さやかの手を取り走る臣做おみな。そんなに零無れいなの行方が気になるのだろうか。


「……」


 怪訝そうな顔でその後ろ姿を見つめる鞘架さやか


「家、学校から割と近いからもうすぐ着くよ!」


「そう……」


 そして5分くらい経った頃、一軒家が見えてきた。

 その家は大きすぎず小さすぎない一般的な造りをしていた。


「さあ入って!」


「お邪魔します」


 玄関には家族写真が置いてあり、親らしき人物と臣做おみなが仲睦まじい様子で写っている。だが独り暮らしということもあって靴の数はそう多くなかった。


「この奥の部屋がリビングだよ。お茶出すから待ってて!」


「……ありがと」


 リビングは綺麗に片付けられているが、本人の言う通り物は少なく殺風景だ。


「はい、お茶。麦茶でいいよね?暑いし」


「……臣做おみなくん」


 一息。これを言うともう後には戻れなくなる事を彼女は知っていた。そして今回は”何かが違う”という事も。


「今は夏じゃない。冬よ」


「――――え」


 リビングに置いてあるカレンダーは2月になっていた。そう、学校の掲示板の数字も確かに2月だったのを確認した。写真も撮ってある。


「今は2月。普通に考えて冬よね?なのに夏なのは貴方の仕業ね……『主人公』」


 続ける。


「そして零無れいなさんを誘拐したのも貴方でしょう。恐らく監禁して――――」


「殺したよ」


 何でもないようかのように答える。罪悪感など全く感じられなかった。まるで『主人公』なんだから当たり前だとのように。


「だって僕主人公なんだよ?ヒロインがいて当たり前。零無れいな……あの豚はヒロインの成り損ないだったんだ。だから僕にはいらなくなった」


「……殺した?」


 やっぱりおかしい。過去に出会った疾石臣做とういしおみな零無れいなの事を監禁していたのだ。この家の隠し部屋に。


「父さんと母さんもだよ。僕には必要なかった。むしろああしろこうしろうるさかったから殺した」


「貴方……」


「僕冬嫌いなんだ。寒いの苦手だし病気流行るし、汚いだろ?不衛生だ。咳してるやつ見るとイライラするんだよ」


 何か嫌な予感がする。まず刀架とうかを没収されたことなんて今までで一度もなかったのだ。だから疾石臣做とういしおみなの家へ無防備に来ても大丈夫だった。

 今回は守ってくれる人が居ない。自分の身は自分で――――。


「っ……」


「ああ、そのお茶ね。薬入れといたんだ。大丈夫睡眠薬だからちょっと眠くなるだけだよ」


 薄れゆく意識の中で何とか抵抗しようとするが、上手く体が動いてくれない。


「ねぇ君かわいいし頭もキレるみたいだからさ、新しい『ヒロイン』になってよ」


 駄目だ、これはいけない。刀架、早く――――。


 「残念、その子僕のヒロインなんだ」


 不意に聞こえる声。よく聞き慣れた声。

 ――――私はその声が好きだった。もう聞けないと思ってたのに。


「……何でいるのかなぁ喰々流くぐりゅうサン?」


「さやちゃん、相当焦ってるだろ。君の才能ギフトでその睡眠薬の解毒が出来るはずだ」


 そうだ、イレギュラー続きなのと眠気で全く頭が回っていなかった。

 鞘架さやか才能ギフト、”作者権限”は様々な才能ギフトを他人から数分だけ借りることが出来るという便利なものだ。

 ――――教えたつもりないのに。そう思いながら鍵を握り締める。


疾石臣做とういしおみな


「なに?邪魔なんだけど」


「邪魔なのはお前だよ」


 顔が見えない、彼は今鞘架さやかを守るように前に立ち塞がっている。

 だが声の圧が凄い。こんな彼の声を聴くのは”2回目”だ。


「いいか疾石とういし。俺は今からお前を殺して主人公になる。」


 ……あの人も自分の事を”俺”って言ってたっけ。

 何気なく鏡に映った姿は別人のように見えた。


「無理だろ。何故かって?僕がこの物語の『主人公』だからだ!」


「はいはい、そう言ってられるのも今のうちだよザコキャラクン」


 双方構えた。


「待ってアンタ戦えるの!?」


「安心しなさい、僕を誰だと思ってる?」


 ――――『僕の夢は』


救世主ヒーローだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る