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 トウキョウ都立総合高等学校。疾石臣做とういしおみなが通う高等学校だ。

 名前の通り総合科であり、一般的な教養科目は勿論のこと超能力についてや才能ギフトについての勉強も学習できる都立校だ。

 今日は月曜日、登校日だ。大体毎日同じような生活で飽きている学生がほとんどで、休み時間にスマートフォンをいじったりしているような学生が多い。所謂緩めの高等学校なのである。×月×日某日、この日もいつも通りの一日が過ぎる事だろうと誰もが思っていた。だがこの日は違ったのだ。


「先日から早乙女零無さおとめれいなさんが行方不明になっています。事件性があると考えられており――――」


 ざわつく教室内。彼女はクラスの人気者だ。心配する友人も多いだろう。


「静かに。何か知ってる人が居たら早急に先生に伝えるように。それと――」


 教師が一息吐いたところで教室の扉が開き、人が入ってくる。


「今日からこの学校に通う事になった転校生二人だ。仲良くするように」


「どうもー喰々流惡トくぐりゅうあくと、名探偵です!さっそくですが事件の匂いがするね?」


 クラスの全員が一様に思った。

 

(何故ひよこを)


 彼の肩には相変わらずひよこが乗っていた。しかもサングラスまで室内で付けている。


「……喰々流くぐりゅうくん、室内ではサングラスを外すように。そしてひよこは没収です」


「なんと!?それは無理な話ですよ先生。何故なら僕の目は――見え過ぎる!」


 意味が分からないというようにサングラスを取り上げようとする教師。

 しかし一向に惡トあくとはサングラスを渡そうとしない。


「このひよこ、エクス=ハイ=ヒヨグースは別にいらないからサングラスは勘弁!」


「……後で職員室に来なさい。」


 教師はどうやら話が通じない事を察し、諦めたようだ。多分後でこっぴどく叱られるだろう。


「……浮絵鞘架うきえさやかです。よろしく」


 クラスの全員が一様にまた思った。


(何故狐を)


 鞘架さやかの頭の上には狐が乗っていた。凄くふわふわだ。


浮絵うきえさん、狐は没収です。そして制服を改造するのは……」


 彼女の制服は一般的には付いていないレースやフリル、リボン等が沢山付いていた。オマケに腕には桃色の年季の入ったリボンが巻いてある。


「今の時代、みんなが同じ制服だなんてアンタ遅れてるわね」


「さやちゃん!その制服かわいいね!」


「アンタは黙ろっか」


「……浮絵うきえさん。貴方も後で職員室です。そして狐連れていきますね」


「ちょっと!刀……その子はダメ!」


 どうやら狐は鞘架さやかにとってよほど大事な存在らしい。惡トあくとのひよこの扱いとは大違いだ。

 結局狐もひよこも教師が連れて行ってしまった。


 ――――


臣做おみなくん!」


 何で。何でまた会うんだこの人と。しかも前の人質の女性も一緒じゃないか。

 もうこれは腐れ縁というやつだな。


「何ですか喰々流くぐりゅうさん」


「あっくんでいいよ。」


喰々流くぐりゅうさん」


「コラム。臣做くんといいさやちゃんといい僕に冷たい……っと」


 謎の本に右手でメモを取る喰々流くぐりゅうさん。タイトルは……。


「SAVIORS?」


「お?この本に興味があるのかな?」


 SAVIORの意味は確か”救世主”だったはずだ。最近習ったので覚えていた。だが複数形?

 となると。


「救世主がたくさん出てくる本なんですか?」


「惜しい!救世主は一人だよ」


「一人なのに何で複数形……?」


「それは」


 ――――僕が他の救世主を認めないから、だよ?


 その時の喰々流くぐりゅうさんの顔はいつもの笑顔よりも非常に冷たく感じた。

 何か闇を抱えているような、そんな顔だ。いけない地雷を踏んだか?


「まあでもタイトルは残念ながらSAVIORSなんだよねぇ。」


 複数形の”S”を消してしまおうか。だなんてブツブツ言いながら本をペラペラめくる。


「ん?」


 僕はそれを見つめていたのだが、おかしなことに気付いた。


「その本、作者名が書かれていないんですね。執筆者は一体」


「それは教えられない」


 また冷たい顔。どうやらこの本について詮索するのは辞めたほうが良いらしい。僕の勘がそう告げている。


「あ、職員室行かないといけないんだった」


 そう言って逃げるように喰々流くぐりゅうさんは教室から出て行った。


 ――――


「はぁ、困るよこの本に感付かれちゃあ」


 そう呟いて職員室へと向かう惡トあくと。以外にもこういう指示には大人しく従う性格のようだ。その時。


「ちょっと」


 少女の声がした。鞘架さやかだ。彼女も職員室へ向かう途中だったようだ。


「アンタが転校してくるだなんて聞いてないんだけど」


「え?いいじゃない運命的で」


 きょとんとした顔で返す惡トあくとだが、鞘架さやかは続ける。


「今までこんなことなかったのよ」


「転校生は毎回私一人。強盗事件の時もアンタは居なかった。疾石臣做とういしおみなと会う事も無かったはずよ」


「……何が言いたいの?」


「アンタ一体誰?」


 冷たい空気が流れた。

 そこには誰も干渉する事の出来ない空間が生まれていた。


「――――救世主主人公だよ」


「僕が救世主主人公だ」


 惡トあくとはそう言い残し職員室前から去って行った。


「……。」


「貴方は救世主主人公じゃない」


「だって貴方は」




 ――――死んだじゃないの。

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