第23話 賞与
「一人目か……」
俺はゲオルクの死体を横目に感慨深い気持ちになっていた。
確かに復讐を遂げた達成感はあるが、それはこんな程度のものだろうか。
不確かな感情に引っ掛かりを覚えながらも焦げた死体に近付く。
ともかく、こいつからスキルを奪っておかないといけないな。
側で屈み、その表面に触れる。
途端、眼前に奪取したスキル名が表示された。
[獲得スキル]
斧術・超級(武芸スキル)
身体能力強化・上級(付与スキル)
間違い無い。これらは以前から把握していた通りのスキルだ。
魔王を倒すほどの実力、どれもレベルが高い。
中でも
これで物理攻撃に関しては、ほぼ無敵に近くなったのだから。
上質なスキルに気を良くしていると、再び通知が。
[ランクアップ]
斧術・
身体能力強化・超級(付与スキル)
な……極級だって??
おそらく、俺の持っている斧術・上級とゲオルクの斧術・超級が合わさってランクアップしたのだと思われるが……極級なんていうランクは初めて見る。
なぜなら、この世の中にはスキルランクは超級までしかないと言われているからだ。
それに上級までは多くのスキルを集めなければランクアップしなかったが、この場合は簡単にランクアップしてしまった。
本来最高ランクである超級の上限を融合によって超えてしまったから……ということだろうか?
一緒に得ていた身体能力強化も超級にランクアップしているので、似たような感じなのかもしれない。
予想外の展開に思考を巡らせていると、更なる通知が表示される。
[ボーナススキル]
ボーナス……って、どういうことだ?
これはさすがに判断が付かないので、すぐさまスキルの
すると、どうやらスキルが極級に到達すると、ボーナスとして元のスキルに関係した
これは嬉しい誤算だ。
この調子で残りの三人からもスキルを奪ってやる。
そんなふうに意気込んでいると、辺りがやけに静かなことに気付く。
周囲に目を向ければ、リゼルと町娘の彼女が俺のことを唖然とした顔で見ていた。
もしかして、引かれてる?
少し派手にやり過ぎてしまったしな……。
やや不安に駆られていると突然、
「ジルクぅぅぅぅぅっ!」
「!?」
天井の隅っこ辺りに浮遊していたリゼルが、叫びながら俺に向かって物凄い勢いで突っ込んできた。
そのまま両手を広げて抱きついてくる。
しかし、そこは霊の体。見事に俺の体を擦り抜けてしまう。
「わわっ……っと」
そこでようやく自分の体が生身でないことを思い出したのか、恥ずかしそうに振り返る。
「へへ……やったね、ジルク」
「ああ」
リゼルが向けてきた笑顔にほっとする。
引かれていたら、どうしようかと思ったが……って、どうして俺はそんな事を心配してるんだ?
そもそも相手は
「そういえばさっき、〝低級霊のまま永遠に縛り付けられる〟って言ってたけど、それってどういうことなの? 見た感じ、あいつの霊はいないみたいだけど?」
彼女は部屋の中を見渡しながらそう尋ねてきた。
自身も霊の身だからこそ興味があるのだろう。
「死亡してから魂が霊に変わるまでには時間差があるからな。それと〝低級霊のまま永遠に縛り付けられる〟っていうのは、リゼルが以前そうだったように地縛霊を人工的に作るってことだ」
「え……そんな事が出来るの?」
「お前の時は土地に繋がっていた霊糸を俺が切ったわけだけど、その逆をやるだけの事だからな。そんなに難しいわけじゃない」
「そうなんだ……」
「ただ、お前と違うのは低級霊だってことさ」
「普通の霊と違うの?」
「いや、寧ろそれが普通の霊なんだ」
「えっ」
リゼルは初めて知ったとばかりに目を丸くする。
「普通は死ぬと誰もが低級霊になる。それは、ほぼ魂だけの状態で単純な思考しか出来ない存在だ。その低級霊も数日もすれば自然と浄化されて天に召される。だが、そいつを敢えて霊糸で土地に繋いでやったらどうなると思う?」
「それが人工的に地縛霊を作るってこと?」
「ああ、本来、地縛霊っていうのは未練の強さで輪郭や意識をはっきりと保っている存在。でも、その未練が解消されればいつかは浄化される。だが、そうでもない低級霊を無理に地縛霊に仕立て上げるということは、無意味にその場に存在し続けるということ。永遠に浄化されず、無限牢獄の中で漂い続けることになる。それほど苦痛なことはないだろ」
「う、うん……それは絶対に嫌だね……」
彼女は無限の牢獄を想像したのか、恐怖に身を震わせた。
浄化され、昇天すれば、生まれ変われる可能性だってある。
それすらも奪われた霊は悲惨なものだ。
「あれ? でも、このゲオルクって人が強い未練を抱いていた……ってこともあるんじゃない?」
「それは無いな」
「どうして?」
「死ぬ直前に未練を強く感じた場合のみ地縛霊になる。だが奴の場合は恐怖しかなかったはずだ」
「な、なるほど……」
とどめを刺す直前、恐怖こそ感じるが、未練を持つ余裕などなかっただろう。
それぐらい俺は徹底的な絶望感を与えたはずだ。
ゲオルクの死体を一瞥しながら、少し前の過去を振り返っていると、
「あ、あの……」
ふと、俺に投げかけてくる声がする。
それはリゼルのものではない。
部屋に連れ込まれていた、あの町娘のものだった。
彼女は俺のことを不思議そうに見ながら訴えかけてくる。
「だ……誰と話しているんですか?」
それは、これまでの人生で幾度となく尋ねられてきた、いつもの言葉だった。
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