第14話 実戦
「なんだ? お前は」
兵士達は突然の訪問者である俺を睨み付けてきた。
予想通りの反応といえばそうだが、面白味に欠ける。
「一つ尋ねたいことがあってな」
「あ? こっちは取り込み中なんだ。あっちへ行ってろ」
茶髪の兵士はこちらを煙たそうに見ながら、手で追い払う仕草をする。
「そんなに手間の掛かることじゃないんだ」
「ああん? しつこい奴だな。失せろって言ってんだろ。聞こえねえのか?」
「この町に古の勇者と共に戦った魔導師の墓があると聞いて来たんだが、知らないか?」
「んなもん知るか! わざとやってんなら侮辱罪で牢にぶち込むぞ?」
無視して続けると茶髪の兵士は苛立ちを濃くし、腰の剣に手を伸ばそうとする。
すると、頬傷の兵士が割って入るように前へ出てくる。
「お前、他所から来たのか?」
「ああ、そうだが」
俺がそう答えると、彼らは顔を見合わせ不敵な笑みを浮かべる。
「なら丁度いい。このネルキア領では外からやって来る者には税を課す決まりになっている。その代わり我らネルキア騎士団が旅人の安全を守るというわけだ。なので、それをここで払ってもらおうか?」
頬傷の兵士が手を伸ばし、金を要求してくる。
「税金か。それは初耳だな」
「今度の領主様が始めた新しい取り組みだからな」
「ほう、そうなのか。だが、変だな」
「何がだ?」
「もし、本当にそういう制度が設けられているのなら、ネルキアの領内、若しくは町に入る直前、関所で請求されるものなんじゃないのか? そうでなければ徴収漏れが起こるからな」
そう言ってやると、兵士達はあからさまに面倒臭そうな表情を見せた。
「これは忠告だ。素直に払っておいた方がいいぜ? 他と違ってネルキア領内独自の法はかなり厳しめだからな」
彼らはニヤニヤしながら俺を見ていた。
これは完全にカモだと思われているな。
自分よりも弱そうで何も知らない外者をそうやって脅し、小銭を稼いでいるのだろう。
だが、墓の場所を知らないとなれば、もう彼らには用は無い。
「んじゃあ、俺はこれで」
「おい、コラ! 待て! どこへ行く気だ!」
踵を返そうとした俺を茶髪の兵士が止める。
「こっちの用件は済んだからな」
そう伝えると、頬傷の兵士は革袋を懐にしまい込み、おもむろに携えていた剣を抜く。
「それは悪質な税金逃れと捉えていいか?」
「あーあ、こいつは少しばかり乱暴な徴収になっちまうな」
仲間に合わせ、茶髪の兵士も薄ら笑いながら剣を抜き放つ。
まあ、ここまでは予想通りの流れ。
人間との対峙はヴァニタスの力を手に入れてから初めてのことだし、これまでのスキル収集の成果を試すには丁度良い機会だと踏んだのだ。
「最後にもう一度聞いておく。金を払う気はないんだな?」
「ああ、そうなるかな」
「なら、痛い目に遭ってもらうしかねえな!」
告げたと同時に頬傷の兵士が斬りかかってきた。
動きは直線的だが、構えに安定感がある。
おそらく、剣術・中級程度のスキルを有しているのだろう。
さすがにそこは騎士団を名乗るだけのことはあるのか?
なら、こちらは――。
――スキル、見切り。
正面から斬りかかってくる彼の太刀筋を体を僅かに傾け、寸前の所で避ける。
「なっ……!?」
確実に捉えたと思っていた剣が空振り、頬傷の兵士は虚を突かれたような顔をしていた。
だが、彼はすぐに我に返ると、手首を返して追撃に転じる。
「ふざけやがって……これなら、まぐれも起きまい!」
振り下ろされた一太刀目が、すぐさま鋭角を描いて斬り返される。
それは通常の人の手では不可能な軌道を描く。
これは……連撃スキルか。
これまで冒険者の死体から多くのスキルを奪ってきたが、大抵、剣使いはこのスキルを持っていた。それだけメジャーなスキルでもある。
俺もこのスキルをかなりの数を集め、上級にまで達している。
このスキルの特徴は一撃目の後に素早く追撃が行えることだが……。
それなら、こちらもそいつを避けられるだけの敏捷性を手に入れるだけ。
――スキル、
それは魔物から奪取した素早さを向上させるスキル。
発動した途端、体が風のように軽くなる。
そのまま、向かってくる二撃目を身を反らしてかわす。
「なんだ……と!?」
頬傷の兵士は有り得ない光景を目の当たりにしたといった感じで呆然としていた。
「クソがっ!」
現実を受け入れられなかったのか、彼は猛追を開始する。
やけくそのように連撃を乱発してきたのだ。
しかし、俺はその全てを指一本分の間隔でかわす。
見切りと
「このっ! このっ! このっ……」
全く攻撃が当たらず、頬傷の兵士の顔に疲労の色が窺え始める。
そんな時だ。
「あんま調子に乗ってんじゃねえぞ!」
声を張り上げながら茶髪の兵士が加勢してきたのだ。
左右から剣が繰り出され、一気に回避が忙しくなる。
「ははは、さすがに二人同時なら避け切れねえだろ!」
茶髪の兵士は勢いに乗って手数を増やす。
おそらく、こいつも剣術・中級程度のスキル。
そしてもちろん、当然のように連撃スキルを持っている。
ただ、この太刀筋の鋭さ……他にもスキルが重なっているようだ。
多分、それは身体能力強化スキル。
部位別に指定して、身体能力を向上させることができるスキルだ。
それが腕に付与されているように感じる。
「ほら、ほら、ほらっ! 上手く避けねえと刺さっちまうぞ?」
茶髪の兵士は楽しむように剣を振るってくる。
さすがにこれを避け続けるのはしんどいな……。
ならば――。
攻撃を避けながら自分の右腕を意識する。
こっちの腕は元から頑丈だから、このままでいいとして……左だけやってみるか。
――スキル、身体能力強化・左腕。
そして――、
――スキル、強靱化・左腕。
二つのスキルを同時に発動した俺は、両腕を横に広げ、左右から迫ってきた彼らの剣を――素手で受け止めた。
「なっ……!?」
「うそだろ……」
彼らは口を半開きにしたまま唖然としていた。
それもそのはず。力の限り斬り付けた剣が、まるで木の枝のように軽々と受け止められてしまったのだから。
「くっ……動かねえ」
「離せ……こら!」
彼らは必死に剣を取り戻そうと俺の腕を振り払おうとするが、全く動く気配が無い。
多分、奴の身体能力強化は初級程度。同スキルの上級を所持している俺は奴の何十倍もの向上効果と持続時間を有している。力比べで勝てないのは当然だろう。
加えて強靱化によって俺の手は鋼のような硬度を保っている。
素手で剣を掴んでも怪我しないのはそのせいだ。
「くっ……」
「ぬぬ……」
兵士達は未だ剣を取り戻そうとグリップに力を込め、必死に頑張っていた。
このまま……という訳にもいかないだろうな。
となると、アレを使ってみるか。
鼓膜を劈くほどの咆哮を上げる魔物、ローアライガーを倒した時に得たスキル。
――
それを使用すると、掴んでいた剣がキィィンという音を立て、小刻みに震え始める。
「な、なんだ……??」
兵士達が自分の剣に異変を感じた直後だった。
バッシャァァァァン
「うわっ!?」
破裂するような音と共に、二本の剣が粉々に砕け散っていた。
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