双星のクリエイティス:モカ

仲仁へび(旧:離久)

第1話





 神様は世界を作らなければいけないらしい。

 いくつも作って、何かを紡ぎあげようとしているみたい。

 でも私達人間にはそれが何なのか分からない。





 この世界には、百年周期で特別な時期が来る。

 その時期は星源節という。

 星源節がくると、私達人間の中から特別な存在……巫女という存在が選ばれるらしい。


 私はどうやらその巫女に選ばれたみたい。


「私が巫女なんだ。ふーん」


 私、モカはその日人間代表になっちゃった。


 選ばれた巫女は、世界中を旅して各地の様子をしっかりと見つめなければならない。

 なぜなら、巫女には何でも一つ願いを叶える権利が与えられるからだ。

 旅をするのは、その権利を無駄にしないためにという配慮だ。

 きちんと世界をよくみて、必要な願いを考えてくださいね、って事。


 巫女は旅の最後に、願いの祭壇で、「良い願い」を導きだして、人々の発展に貢献しなくてはならない。


「おかしな話」


 願いに良いも悪いもないはずなのに。


 私の手の甲には、巫女の証しである星の紋章が宿っている。

 星源節の訪れと、人の体に紋章が宿るのはまったく同時。


 神様に選ばれるなんて、普通なら光栄な事だと思うんだろうけど。


 私は巫女になったその日の夜、面倒な事になったなと思っていた。


「なんで顔も知らない誰かのために自分の権利を使ってあげなくちゃいけないのかな」


 誰かの思惑が透けて見える。


 親切にしてくださいねって言われてする親切って、意味があるのかな。


 人の為に自分の時間を使わなければならないとは、なんて煩わしいんだろう。


 でもせっかく得た権利なんだから、ものは考えよう。


 人を利用して、自分の願いを叶えてもらえばいい。


 そう思う事にした。







 巫女として選ばれた者は、守の聖樹という組織に顔を出さなければならない。


 そう決められている。


 これまでの巫女はみんな、守の聖樹……略して聖樹に向かったらしい。


 聖樹とは、巫女を色々な面から援助してくれる組織だ。


 旅の資金を提供してくれたり、必要な知識を授けてくれたりする。


 様々な人の募金と町々や村々の税金で成り立ってる組織。


 だから私は、言われた通りその守の聖女の本部へと向かった。


 のだけど……。


「巫女が二人?」


 そこで分かったのは、毎回一人だけ選びだされるはずの巫女が、今回はなぜか二人だったという事実だ。


 すでに訪れていたもう一人の巫女は、男の子のような少女だった。


 だって一人称が「俺」だもん。


「俺はルオン、ルオン・ランタノイレ。よろしくな! おまえの名前は?」

「モカだよ。私はモカ・テンペスト」

「あんたも巫女か。じゃあ、あんたが本物で良いよ。俺が選ばれたのは何かの間違いだろうし!」


 喋り方も男の子っぽかった。

 考え方も。

 さばさばした性格の人物のようだ。


 どうやらその子も、「巫女なんてまっぴらごめん」派らしい。


 親近感がわいてしまった。


 けれど、巫女が二人なんて本来はありえない。


 どういう事だろう。


 神様はどういうつもりで私やルオンちゃんを巫女にしたのかな。


 もしかして、どちらかは間違い?


 だとしたら、おそらくどちらかが偽物だ。


 しかし、二人の手に浮かんだ星の紋章を観察してみても、何も分からない。


 二人のものは、どこからどう見ても本物にしか見えなかった。


 だから結果、私も彼女も本物の扱いを受ける事になった。


 様々な検査を受けて、巫女の認定を受けた後、彼女はがっかりしていた。


「ちぇっ、巫女より護衛になりたかったのにな」

「貴方は護衛が良かったの?」

「ああ、そのために鍛えてたんだ!」

「女の子なのに? 巫女になりたくないんだ?」

「うーん、俺、お淑やかにするの苦手だし」


 私の知ってる女の子は、巫女に憧れを持つ人達ばかりだったから、ちょっと新鮮。


「お姫様みたいで素敵!」とか「神様に目をかけてもらえるなんて!」とか言う人ばかりだったもの。


 私は、目の前の女の子に興味を抱いた。


「とりあえずこれからよろしくな、モカ!」

「うん、こちらこそ。これからよろしくねルオンちゃん」







 つまらない旅になりそうだと思っていた。

 けれど、彼女と一緒なら退屈しなさそうだ。


 その後、聖樹の本部で、必要な教養と勉強を詰め込まれた。


 その後は、巫女就任の儀式や護衛の選抜なども行った。


 そして、一週間後に旅立ちの日を迎える事になった。


 メンバーはもちろん。


 巫女である私と、ルオンちゃん。


 そして護衛。


 二人の巫女の護衛に選ばれたのは、ナナキという少年だった。


「数百年前の巫女様、スカイレーティア様の話を聞いて育ったので、巫女の護衛につけるなんて光栄です。どうかこれからよろしくお願いします」


 挨拶は、そんな感じ。


 第一印象、生真面目で堅苦しそうな雰囲気。


 キラキラしたまなざしを向けられて、期待を寄せられるのが、ちょっと疲れるかな。


「巫女はすばらしいもの」なんて幻想を持ってそう。


 巫女らしくない行動をとったら幻滅される、なんて事になったら嫌だな。


 けれど、そんな事を思っていたのは私だけだったみたいだ。


「そうか、よろしくなナナキ!」

「はい、こちらこそ」


 ルオンちゃんはあっという間に、ナナキと仲良くなってしまった。


 彼女は裏表のない性格だから、聖樹の施設ですごしていた時も、多くの人から慕われていた。


 人に壁を作らない人間なんだろうね。


 こういう人のこういう面を見ると、私は自分の中のよくないものを見て、少しだけ嫌になる。


「こんなに美しい方達と旅ができるなんて光栄です」

「ばっ美しいって、俺は女に見えねーってよく言われるのに、からかってるのか」

「あれっ、ルオンちゃん赤くなってるー。あはは可愛い」


 ちょっと疎外感。


 私はそういう風には人と付き合えないから。


「やめろって、ナナキもモカもからかうなよっ」


 子供の頃からお嬢様としていきてきて、社交界で人の闇を見て育ってきたからね。








 旅はそれなりに順調だった。


 でも、旅慣れしていない私のせいで二人の足を引っ張っちゃったのが気がかり。


 自分で言うのもなんだけど私って、結構いいところのお嬢様だからね。


 特に体力がないのが大変だったかな。


 深窓のお嬢様なんてものをやってると、どうしても体力が落ちちゃう。


 ナナキにおぶってもらいながら、荷物みたいに運ばれる事も多い。


 でも、そんな私に文句も言わない二人は、本当にいい人だと思う。


 偽物って、もしかして私なんじゃないかな。








 そんな旅の中で、ルオンちゃんとナナキが喧嘩をはじめちゃった。


 野盗に出会った時、ルオンちゃんが護衛のナナキをさしおいて戦っちゃったから。


 ルオンちゃんは巫女じゃなくて護衛の方になりたかったから、そういう危なくなった時に自然と体が動いちゃうんだろうね。


 あとは性格的に、人に戦わせておいて大人しくできない、ってのもあると思う。


 女の子が危ない事するなんてって思うけど、ルオンちゃんとしては危ない事の方が好きなのかも。


 気絶させた野盗を足元において、ルオンちゃんとナナキが言い争ってる。


「なんで戦っちゃだめなんだよ!」

「ルオン様が巫女様だからです。巫女様の身に万が一のことがあったらどうするんですか! それにあなたは女性なんですよ! 傷が残ったらどうするんですか」

「そんな事いって、俺の心配より、自分の事考えてるんじゃないのか! 巫女らしくないってどうせ幻滅してるんだろ!」

「そんな事はまったく思ってません」


 あー、すごいこじれ方してる。


 ルオンちゃんは巫女らしくしたくない。


 けど、ナナキはルオンちゃんに巫女らしく大人しくしてほしい。


 両方とも正反対の事考えてるからなぁ。


 二人は目もあわせたくないみたいな雰囲気で互いを無視し続けてる。


 ここは私が何とかするしかないのかな。


 ナナキは巫女に対して強い思いを抱きすぎてるんだよね。


 だから、ついつい過保護になっちゃう。


 別にルオンちゃんを嫌っているわけじゃないっていうのが救い。


 ルオンちゃんを何もできない人間だって思ってるわけじゃないんだけど。


 たまに巫女らしくない事を気にしてるルオンちゃんには、かなりまずい態度かな。


 ルオンちゃんは巫女様の事を「おしとやかにしていなければならない女の子らしい職業」だと思ってるみたいだから。


 いつも「俺みたいなやつが巫女になるなんて何かの間違いだ」って言ってるから、そう考えてるのは間違いないと思う。







 次の町に行く間。


 利用する交通手段は様々。


 馬車だったり、船だったりする。


 徒歩が基本は多いけど。乗り物に乗る事も少なくはない。


 だからその日は、飛行船に乗る事になった。


 とりあえず、飛行船に乗った時、私はまずナナキとお話しすることにした。


 部屋をとって、荷物を置いた後、ルオンちゃんを自由行動にさせて、その後に。


「モカ様、私に何か話でしょうか」

「うん。うすうす分かってると思うけど、ルオンちゃんとナナキの関係についてだよ」

「その件に関しては、すみません」


 ナナキはすごくしゅんとした顔になって頭を下げてきた。


 そういうところ、ほんとうに真面目だよね。


 まあ、ナナキの立場ならルオンちゃんに対するあたりが強くなるのは、おかしくない事なんだけど。


 でも、それにしたって普段からぴりぴりしすぎなんだよね。


「ナナキはもう少し素の自分を出した方がいいよ。本当のナナキはもっとフレンドリーな人でしょ?」

「そんな事はありませんよ。よく壁を作ってると言われますし」

「でも、一度打ち解けたら世話焼きな人だと思う」

「それはまあ、友人からちょくちょく言われますね」

「でしょ?」


 こう見えても私は、人を見る目がある。

 社交界に出て、色々な人と話をした経験があるからだ。


 おなかの中に黒い物を持ってる人とか、そうでない人の見分けはすぐについちゃう。


 ナナキは後者で、きっとすごくいい人だ。

 だから裏表のない性格のルオンちゃんとは、本来なら相性がいいはずなんだけど。


 お互いの立場がそれを邪魔しちゃう。


「覚えておいて、素の自分を出した方が、ナナキの本当の想いは伝わると思うよ」

「本当の想い、ですか」

「過保護にするのはちょっとどうかと思うけど、自分を信じてほしいからあんな事を言ったんだってちゃんと伝えなくちゃ。一番伝えなくちゃいけない事つたわってないからこじれちゃうんだよ」

「そうかもしれません。そうですね。分かりました。ありがとうございます。モカ様」


 これでナナキはなんとかなるかな。


 あとはルオンちゃんの方も話したかったんだけど、どこにいるかな。


 早く探しに行かなくちゃ。







 ルオンちゃんは展望台にいるらしい。


 他の人の目撃証言を聞いて、歩いて向かう。


 だけど、たどり着く前に怪しい集団に捕まってしまった。


 願いを叶える巫女なんて、貴重な存在だから、ときどきそういう人達がいるんだよね。


 選定の使徒とかいう組織がそう。


 自分勝手に願いを叶えるために、巫女を拉致しちゃうの。


 聖樹もあれだけど、使徒もたいがいだよね。


 取り繕ってる分、まだ聖樹の方がましかな。


 私は彼等に捕まってしまったけど、逆にいい機会だと思って利用させてもらう事にした。


「残念ですが巫女様、もう一人の巫女様をおびきだすまで、大人しくしていてもらいますよ」


 わかってまーす。


「ルオンちゃんとナナキが助けに来てくれるから、その時にがんばって悲劇のヒロインしてなくちゃ」


 いけない。


 呟きが声にでてしまった。


 なぜか捕まえた人達がドン引きしていた。


 しかも私の事、偽物じゃないかって疑ってる。


「おい、この女ほんものの巫女なのか?」

「どっ、どうなんだろう」

「間違えてないだろうな」


 うーん、ちょっと否定できないかも。








 ややあって、二人が私の元へやって来た。


 あと少し遅かったら、しびれをきらした人達が、用意した小型の船で脱出しちゃう所だったよ。


 二人は仲直りできた後かな?


「モカを離せ!」

「モカ様をかえしてもらいます!」


 ナナキは護衛だから当然だけど、強い。


 ルオンちゃんも鍛えていたらしいから、強い。


 二人はあっという間に敵をしとめてしまった。


「護衛はともかくなんで巫女まで強いんだよ」


 それにかんしてはごめんね。


 ルオンちゃんは普通の巫女よりちょっとおてんばなの。


 悪い事やってるんだから、痛い目に見るのは当然だけど気持ちは分からなくない。


 しばりあげた人たちをつんつんして遊んでたら、その場のながれてナナキとルオンちゃんが和解していた。


 あ、まだ仲直りしてなかったんだ。


 それともする途中でかけつけてきてくれたのかな。

 だったらごめんね。モカのせいで。


「ルオン様、あの時は言い過ぎました。すみません。俺はただ心配だっただけなんです」

「こっちも悪かったな。お前の事、悪く言っちまって」

「ルオン様が大切すぎて目をくもらせていたようです」

「大切って、お前もうちょっと言葉択べよな」


 めでたしめでたしだ。


 安堵のため息をついた私は、二人を見ながら思いをはせる。


 とてもまじめで良い人で、ちょっととんちんかんな所がお似合いで、そして息ぴったりな二人を。


 これ、たぶん私が偽物だよね。


 でも、もうちょっとだけ旅に同行していたいな。


 私は、ナナキ達が捕まえた悪い人達に、こちょこちょしながら、他の悪い人達の情報を吐かせることにした。 







 あれからルオンちゃんとナナキはすっかり仲がよくなったみたい。


 二人は本当にお似合いだ。


「ルオン様、勝手にどこかに行かないでください。心配してしまいます」

「うっ、ちょっとくらい離れたっていいだろ。お前はべたべたしすぎなんだよ。あたしの父ちゃんかよ」

「あなたの父上の苦労がよく分かります。ルオン様は放っておけないんですよ。ずっとそばにいて見ていないと気が済まないんです」

「そっ、そういう事真顔で言うなよな!」


 うん、でも無自覚にいちゃいちゃするのはやめてほしいかな。


 私は別に恋愛感情とか興味ないからいいけど、私じゃなかったら三角関係でドロドロしてたかもね。


 ナナキって無駄にハイスペックだし、顔はいいから。


 私はジト目になりながらも、二人にちょっかいをかけにいく。


 三人でもこれからの旅は、楽しくなりそうだけど、ちょっと私には糖分多すぎるかもしれないな。


 過剰摂取でお腹こわないようにしなくちゃ。


「えいっ」

「うわっ、どうしたんだよモカ! いきなり抱き着いてきたりして」

「二人ともモカを差し置いて仲良しなんてずるいんだ! 私も一緒に遊びたいな」

「いやっ、別に仲良くしてたわけじゃねーだろ。言い合いしてだけじゃねーか」


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