第11話




 玄関口まで見送りに来たユーフェミアは恥ずかしそうに指先を弄っているが、意を決したのか一歩、私と距離を詰めた。

「マーシャ、また、誘っても迷惑ではありませんか?」

「は?」

 予想外だ。

 懐かれる行動なんてした覚えが無い。

 次が無いから、ユーフェミアは私にルドルフの相談をしたのではないのか。

「ピアノも、他にも聞きたいお話がありますの。マーシャのこともっと知りたいですわ」

 頬を紅潮させて目を輝かせるユーフェミアは可愛い。

 出来れば、後ろで憤懣遣る方無いと言った様子のシャーリーに向けて欲しい。

 更に願わくば、私の最推しといちゃついて欲しい。

「ユーフェミア様、私は何かを教えられるような立場ではございません」

「いいえ、マーシャは私よりも知恵をお持ちだわ」

 純粋な眼差しが眩しい。

 これが嫌味や皮肉ならば受け流せば良いのだが、言葉には欠片も嘘が見当たらない。

 純粋な好意に身動みじろぐなと言うのが酷な話だ。

「私も仕事がありますので、その――」

「分かりました」

 分かってくれたか、と期待の目でユーフェミアを見詰める。

 妙に意気込んでいる様子に嫌な予感がする。


「貴方の雇い主とお話をさせて下さいませ」


(ハイ、オワタ)

 頭の中でファンファーレと鍵盤を力任せに叩いたような混じった音が鳴り響く。

「お仕事の調整をして時間を私に貰えるようお願いしますわ」

 ユーフェミアに会いたいと言われればエレイン様は喜んで過剰に持て成すことは容易に察しがつく。

 気圧されるのは間違いなくユーフェミアである。

 レグルスの母親なんて、ユーフェミアにとってはトラウマのトリガーだろう。

「だっ、大丈夫です。一応、今は、私の裁量に委ねられている部分が大きいので、他の方よりは時間の自由があります」

 何しろ、目下の仕事はレグルスをどうにかしてユーフェミアとくっつけることだ。

 寧ろ今の状況をエレイン様が知ればレグルスのアピールに使うべきと力強く告げるだろう。

 尤もアピールしたところで糠に釘、暖簾に腕押しは否めないのが現状だ。

「ならば、明日もお招きしても良いかしら」

「わかりました。明日も可能でしたら教会に、無理でしたら司祭様に言付け出来るように手配します」

 渋っても良いことは無いだろうとユーフェミアの申し出を受け入れればユーフェミアは嬉しそうに笑った。

「ええ、マーシャが来てくれるのを私、待ちますわ」

 期待されても困る。

 そして、ユーフェミアの背後から、お嬢様の望みを叶えないつもりはないだろうな、と圧迫してくるシャーリーが怖い。

 ユーフェミアが、自分の意見が言えた、とシャーリーに目配せすればシャーリーは眦を下げて片笑んだ。

(あまっ、あまーい)

 自分が巻き込まれていなければ私も、可愛いなぁ、と和んでいた自信はあるが目の前でやられると、胸に来る。

 何かが。







「まぁ、凄いわ。流石マーシャね」

 今日の報告を口頭で伝える為、エレイン様の部屋を訪れれば、椅子から慌ただしく立ち上がり駆け寄ってきた。

「こんな短期間でユーフェミア嬢に近付くなんて、私が見込んだだけはあるわ」

「はぁ、本当は接触するつもりは無かったのですが、必要に駆られた為です。影ながら見守るつもりが失敗しました」

 この国の神と市井の様子を教会で情報収集するつもりが大分逸れてしまった。

 お菓子は美味しいし、目の保養になったのは確かだが精神衛生上宜しくは無かった。

「ユーフェミア嬢はどうだったかしら?社交界にもあの子の所為で積極的に参加する様子は見受けられないし、お元気だったかしら?」

「ええ。ですが、今はご友人のことで心を煩わせている様子です」

 敢えて男性とは付け加えなかった。

 現代の感覚と掛け離れているが、男女の友情というものはこの国では一般的なものでは無い。

 幼馴染みや従者という明確な理由があるならば兎も角、同じ階級で友人となるのはやはり同性というのが普遍的らしい。

「まぁ、彼女に友人が?どちらのご令嬢かしら?」

「えっ、と……済みません、詳しくは聞けていません」

 ハリウェル伯の今は存在しない令息だなんて、説明が複雑すぎる、と自分に言い訳をして口を噤む。

「レグルスのことを考えれば、ユーフェミア嬢のご友人にもアピールしておきたいわね」

「外堀を埋めすぎるのも問題かと思います」

 周囲に流されるだけだったユーフェミアならばそれで事足りただろうが、選択肢をレグルスしか残さなかった状態で選ばせるのではなく、多くの中からレグルスを出来れば選んで欲しい。

 推しではないが。

 結婚とか、あまり納得出来ないが。

「あら、マーシャはこういう手法は嫌いかしら?」

「嫌い、というよりは、それも場合によりありだと思います。ただ、ユーフェミア嬢に自分の意志で選んで頂きたいだけです。結婚生活に影響が及びますので」

「完全勝利を望むということね。強気なのね」

 ふふと笑ったエレイン様にユーフェミアからの提案を告げようとするが、遠くから足音が近付く音に気付き思わず扉に目を向ける。

「マーシャ、どうしたの?」

「どなたか、来ます」

 バタバタと煩い足音が近付きエレイン様も気付いたようだ。

「レグルスかしら、あわてんぼうね」

「偶に粗野な部分がありますよね」

 普段は優美に振る舞うからこそ、この粗忽なそれが彼の素の部分だと納得出来る。

 これで、全てが、他者からそう見えるように装っていると言われたら私の目が曇っているとして白旗を揚げよう。

 ドアを三度鳴らすと中からの返答を待たずに荒々しくドアは開かれる。

「母上、マーシャは此処にますか」

「まぁ、レグルス、レディの部屋に許可も無く立ち入るなんて無作法にも程がありますよ」

 切迫したレグルスの表情に対して、エレイン様はおっとりと受け答えをする。

「そういうとこ、ありますよね」

 小さく呟けば、レグルスの視線がこちらに向けられた。

「マーシャ、おまっ、ユーフェミアの屋敷に居たって――」

 勢いよく指を突き付けてくるレグルスに咎めるような眼差しを向ければ、一拍置いて、腕がそっと下ろされる。

「ええ、よくご存じですね。良い耳をお持ちのようで」

 私がユーフェミアの屋敷にお邪魔したことは、エレイン様にしか告げていない。

 どこで気取られたのかと首を傾げるも、彼には彼で私の知らない伝があるのだろう。

「何故、そのようなことになった。ユーフェミアは息災だったか?かなりの時間滞在していたと聞き及んでいる、一体、どういうことだ」

 一気に捲し立てるレグルスはユーフェミアの事になるとこうなるのだろう。

 普段はあんなにも落ち着いて見えて、貴族然としているのに、恋する少年のようで微笑ましくもある。

「レグルス、落ち着きなさい」

「母上、失礼いたしました」

 レグルスを窘めるエレイン様の姿を見て、ああ、とどこか見られなかった側面を見た気分に陥る。

 息子の恋愛模様にきゃぴきゃぴとしていた雰囲気が鳴りを潜め、凛とした表情に慈愛を湛えた眼差し。

 改めて、エレイン様はレグルスの“母”であるのだと気付かされる。

「私も今、マーシャに説明を受けていたところなの、一緒に聞きましょう」

「はい。マーシャ、説明を」

 促されて、さてどこまで話したかと思い出す。

「帰り際にお土産を渡されました。ユーフェミア嬢が手ずからに包装して下さいました。あげませんよ」

 ジッとこちらを見たレグルスに機先を制するように告げれば、ぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべる。

「こういった場合、明日、訪れる際に何か手土産なとお持ちした方が宜しいのでしょうか?」

「そうね。私に任せて下さる?」

 エレイン様の言葉に私は頷いた。

 浪費はしていないが貴族の家への手土産など私の給金で絞り出すのは困難だろう。

「我が家が贔屓にしている商会があるのでそちらに相応しいものをお願いいたしましょう。ラムレイの名をマーシャはご存じかしら」

「ええ、かなりの豪商と聞き及んでいます」

 城下には大小様々な商会がしのぎを削っている。

 その中でも手広い交易と高級品から廉価なものまで幅広いラインナップで有名な商会の一つだ。

 商人が屋敷に出入りしているのも、中に居れば気付くことだ。

 現代で言う外商みたいな感じだろう。

「何かあったらそちらを頼って良いわ。私の名前を出せば事足りるでしょう」

「痛み入ります」

 商会に頼ることなどそうそう訪れることは無いだろう。

 何かを小さな羊皮紙にメモをしたエレイン様は机の上のベルを鳴らした。

 数拍おいて、ドアが等間隔でノックされる。

「入ってちょうだい。これをラムレイに渡すように」

 ドアを隔てた廊下にいた執事にエレイン様は紙片を渡すとこちらに向き直った。

「これで明日の不安は取り除けたわね。それで、マーシャ何か気がかりなことでもあって?」

「いえ。手土産の心配は解消しました。問題としては、ユーフェミア様が現在抱えている問題についてです」

 ルドルフの領内での不正告発の件である。

 ルドルフは小説でも正攻法をとることはなく搦め手でハリウェル伯に処分を求めた。

 そして、ユーフェミアはルドルフに食らいつくと笑って告げた。

 共に行動をするか、若しくは、行動の援助をするつもりだろう。

 明らかに危険の匂いしかしない。

「ハリウェル伯領の問題だな。こちらでも少し調べてみた。怪しい町と村が幾つかピックアップされたがルテティア地方、メンマゴスではないか?」

「そんな名前だったような気がしますが、どうしてそこまで?」

「何人か領内に潜入させた結果だ。農産物の収穫量、税率を鑑みて違和感があった町と近くの幾つかの村だ」

 ユーフェミアが関わるとこの人の行動力は底なしである。

 どうして、真っ当な手段で口説き落とせないのか本当に不思議である。

「残念ながら証拠はまだあがってない」

 先んじようという気概があるのかレグルスは渋い表情をする。

「証拠を見付けてどうするおつもりですか?」

 領内のことは基本的に不干渉である。

 農民は大凡あくまで土地に縛り付けられている付属品であり、領主が所有するものに過ぎない。

 ハリウェル伯領内に干渉する権利は誰も有していない。

 可能性があるのは王ぐらいだろうが、それは、この件が公になることと同義だ。

「貴族は外聞を気にするものだ。そっと囁けば良い。使用人を管理出来ていないのかと、領内の不正を見抜けないほど暗愚なのかと」

 降り掛かる火の粉は誰だって払うだろう。

 貴族ならば、苛烈に無慈悲に、切り捨てるだろう。

 だが、それではルドルフの有能さをハリウェル伯に見せつけるには幾許か足りない。

 ハリウェル伯がルドルフを後継者候補として扱うにはこの件を上手く収める必要がある。

 下手をすればルドルフがハリウェル伯の後継者候補として招かれない可能性があるのだ。

「レグルス、それはマーシャの予定からは逸脱しているのではなくて?」

 エレイン様の指摘にレグルスは私を見遣ると怪訝な表情を浮かべる。

 確かにレグルスの考えに誤りは無い。

 目指す結果が違うのだから手段が違うのは仕方が無いのだろう。

 ルドルフには今後の事も考えて貴族社会に来てもらわなければならない。

 あの才覚を市井に埋もれさせておいても勿体ない。

 優秀な人間だから貴族で無くとも商売でもして成り上がるのは容易そうだが、貴族社会でユーフェミアの味方は一人でも多い方が良い。

 本人は認めたがらないが、ルドルフにとってもユーフェミアは“特別な”お嬢様だ。

「出来れば、ハリウェル伯の御落胤を表舞台に引っ張りだす形で終えたいというのが私の目論見です」

「何故だ?」

 七面倒だろうと訴えかけてくる眼差しが痛い。

 私とて、初見の問題であれば貴族の権力を使った方が楽だし、余計な手間が無いから選択するだろう。

 だけど、今回は詮方せんかたないのだ。

「彼はユーフェミア嬢の役に立つからです……恐らく」

 理屈なんて言えないのだから思わず、言葉を濁したことを許して欲しい。

「理由は?」

「レグルス様が納得される理由はありません。敢えて言うのならば、女の勘とだけ言っておきましょう」

 レグルスの眼差しが、何を愚かなこと、と呆れを滲ませ私の心に負荷を掛ける。

 仕方ないではないか。

 この後、起きるかもしれない事を告げたところで余計な疑惑が生まれるだけだ。

 ならば、少し頭がおかしいと思われた方が良い。

「マーシャの勘ね、ならばきっと正しいわ」

「エレイン様」

「問題は彼とユーフェミア嬢の関係性かしらね」

 不必要な疑問が発生してしまった。

 抑も、エレイン様にはユーフェミアの友人の話は詳しくしていない。

 察しの良い方だ。

 ユーフェミアの数少ない友人がそれだと気付いてもおかしくない。

「色恋はありません」

 今は未だ、という言葉を飲み込んだ。

 ユーフェミアからルドルフの感情は小説の中でも一貫している。

 稀有な友人、自分を叱ってくれる人、世間の汚い部分を見せてくれる人、言い方は様々だがユーフェミアからは色恋の欠片も見当たらない。

 一方、ルドルフは色恋そのものが表層に出てこない。

 明確な恋愛描写がないから、私はそうではないと除外しているが、読者の中にはルドルフはユーフェミアに恋慕していると確定している人もいた。

 ユーフェミアを普通の令嬢とは違うと“特別視”しながら、何も知らない女と貶め傷付ける。

 だが、ユーフェミアの考えを馬鹿にしながら否定はしない。

 そう考えることは自由であると受け止める。

 大凡の読者の言葉を借りるならば、


 『レグルスよりはユーフェミアを理解している』


 『ルドルフと結婚したら、まぁ、そこそこ幸せにしてくれるんじゃない』


 『軽度のツンデレだからレグルスよりマシ』


 といった具合である。

「ふふ、確証がないといった表情ね、マーシャ」

 エレイン様にはやはり看破された。

「レグルス様のように分かりやすい方は兎も角、男女の機微は不得手ですので。それに、隠すことに長けている人の心の裡は推し量るのは難しいです」

「理論的に答えろ、不明瞭すぎる」

「愛に理屈なんてないでしょうが!!」

 レグルスの文句に言い返せば、驚いた表情をされた。

 解せぬ。

「あら、マーシャとても情熱的ね」

「色恋はそういうものでしょう。お似合いの二人が結ばれなかったり、予想外の相手と結婚をしたり」

 ドラマで共演した二人が結婚、なんて見出しがあって思わず興味を引かれたが主役と端役という微妙な二人だったことを思い出した。

 ドラマの相手役が主演女優とお似合いだったから実生活でも噂があった時は少し興奮したものだ。

 結果は、主役の女優と接点の無かった役者という落ちであった。

「マーシャの恋愛観を聞きたいところだけれども、それはまた後日にしましょう」

「特殊な恋愛観は持っていませんよ」

 一般的な筈だ。

 金遣いの荒い男は嫌だ。

 浮気をする男は嫌だ。

 不誠実な男は嫌だ。

 暴力を振るう男は嫌だ。

 酒癖の悪い男は嫌だ。

 優しくない男は嫌だ。

 結婚をするのにそういった感覚を持つのは珍しいことではないだろう。

 抑も、明日、ユーフェミアは私に何を言うつもりなのか想像も付かない状態だ。

 ハリウェル伯領内の件を考えれば時間の余裕などない筈である。

 今日のあれで腹を決めたのは理解出来るが、これ以上私にどうしろというのだ。

「今日は予定外が多すぎます」

 ユーフェミアとシャーリーの生の遣り取りに萌えたのは確かだが、シャーリーの圧が強い。

 彼自身、本紙では素性が明らかになっていないが、怒りをぶちまけたり感情の箍が外れた時に吐き出す言葉が小難しいことから、ある程度の教育を施されていたのではないのか、というのがルドルフの推測だ。

 卓抜な口舌をひた隠しにする事由は、面倒事の匂いしかしない。

 名前からして、男性名でもあり女性名でもあるというのが嫌な予感を呼び起こす。

「マーシャ、眉根に皺が寄っているわよ」

「済みません」

 眉間を指でソッと触れるとエレイン様は小さく笑った。

「……ユーフェミアを泣かした男を信用しろというのは難しい話だろう」

 女の勘、で済ませた話をレグルスは蒸し返してきた。

 気が滅入りこむ。

「一つぐらい、明確な理由があるだろう?」

「……彼はきっと汚れ役をすることに厭うことは無いからです」

 細い息を吐き出して告げればレグルスの眼差しは話の先を促す。

 他人の心を曝くやましさを振り払うように、私は口早に言葉を紡ぐ。

「目的の為に手段は選んでいない、と以前お話ししましたよね。誇りが泥に塗れようと折れぬ芯の強さがあります。守る、と一度決めたのならば自分の手を汚すことも厭わないです。相手の為になるのならば、嫌われ憎まれても構わないと自身を納得させることが出来る人です」

「……嫌われても良いなど、そんなのは――」

 ユーフェミアに現在進行形で苦手意識を持たれているレグルスには息苦しさを感じるだろう。

「寂しくて、辛いではないか」

 その声は心淋うらさびしい。

 育ちが良い、というか真っ当な人間の台詞に口元が綻ぶ。

 きっとユーフェミアも同じ事を言うだろう。

 こういうところがレグルスを突き放せない理由だ。

 寂しさや喜びを分かち合えるのは人間関係で大事なことだ。

 時として離婚の理由が価値観の違いという一言で済まされるほど、単純なものではないのだ。

「寂しい、と言えるレグルス様はエレイン様から愛情を注がれて育てられたということです」

 愛されているから、満ち足りているからこそ、一抹の心悲うらがなしさに敏感に気づけるのだ。

 砂漠にあって、水の一滴の尊さを実感し、川辺で水に顧みることも無いのは同義だろう。

「まぁ、マーシャったら、嬉しいわ」

 エレイン様は目を細めくすぐったそうに笑った。

 育児を褒めたつもりはないのだが、良い方に受け止められるのならば訂正する必要は無いだろう。

「愛されているからこそレグルス様は情に甘くなるところもありますが、それはカイル様がフォローするので問題ないでしょう」

 レグルスの片腕ならば諌言の一つや二つ、出来るだろう。

 自分に迎合するだけの男をレグルスが重用するとは到底思えない。

「意外だな。カイルを評価しているのだな」

「長年レグルス様をフォローしており、レグルス様のイメージ戦略にも一役買っているのでしょう。レグルス様のあれも周囲に知られておりませんし」

 最後に言葉を付け加えてエレイン様に目を遣れば、困ったように笑った。

「あれとはなんだ」

「ユーフェミア嬢に対してのあの振る舞いですよ」

 あの、と強調して告げればきまり悪げに顔を背ける。

(子供かっ)

 自覚を促して少しはマシになったのだろうか。

 いざ、ユーフェミアを目の前にしてツンデレを発動したら私はレグルスを蹴飛ばしても許されるのではないだろうか。

「マーシャ、これからも厳しくレグルスに接してくれるかしら」

「母上!?」

 上擦った声を発したレグルスを無視して私は神妙な顔をして深く頷いた。




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