第056話 僕はただの寮母です

「あ、レイくーん、ちょっとお散歩しましょうよ」

「レイ君は私とデートするんですよ!!」

「いいえ、レイ君は私にマッサージしてくれるんですよね?」

「す、すみません!! 僕は寮の仕事があるので!!」


 学園の中を歩いていると、多数の女の子達が声を掛けてきて困惑してしまう。どうしたらいいか分からないので、僕は逃げ出した。


「ふぅ……」


 ある程度走った後で、木の影に身を隠す。


 僕は安堵のため息を吐いた。


 遠征から帰ってきてからというもの、僕が学園で大手を振って仕事ができるようになったのは良かった。でも、その代わりに、なぜか女の子たちが僕を見つけると、凄い勢いで近寄ってくるようになった。


 その理由は未だに分かっていない。


 ただ、いつまでもこの状態では寮母の仕事に影響が出てしまう。


 どうにかしなくちゃならない。


「あっ。レイじゃない。今日もいつものアレ?」

「はい……」


 寮内でルビィさんとばったりと出くわした。寮生たちは外で出会う女子生徒のように僕にグイグイ詰め寄ってこないので助かる。


「それは大変ね」

「全然大変だと思ってないですよね?」

「まぁ、半分くらいは」

「ひどい!! こっちは毎日毎日追いかけまわされて大変なのに……」


 人の気も知らないで適当な返事をするルビィさんに不満をこぼす。

 

「いいじゃない、女の子たちにモテモテで」

「モテる理由も分かりませんし、寄ってくる人が多すぎます」

「モテる理由、知りたいの?」


 さも知っているかのようにルビィさんが僕に尋ねる。


「え!? もしかしてルビィさん、分かるんですか!?」

「まぁね」


 本当にそうだったらしい。


「な、なんなんですか、僕がモテる理由って」

「どうしようかなぁ」


 焦らすように言い渋るルビィさん。僕はここ最近女の子たちからモテる理由を早く知りたかった。それが分かればどうにかできるような気がしたからだ。


「もったいぶらないで教えてくださいよ」

「しょうがないわね。レイがモテる理由は――」


 僕が促すと、ルビィさんが渋々口を開いた。


「あぁ~、レイ君があんな所にいるわよ!!」

「ホントだ!! レイくーん!!」


 しかし、ルビィさんの言葉は遮られてしまった。


「げげっ!?」


 女の子たちに見つけられてしまったからだ。


 僕はすぐにその場から逃げ出した。


「レイ君、待ってよー!!」

「逃げないでください、英雄様!!」

「英雄君、私にマッサージしてくださーい!!」


 女の子たちが僕を追ってくる。


 な、なんであの人たちは追ってくるんだぁ?


「おっ。レイ、いいところに来たのう」

「あっ、学園長、どうしたんですか?」


 僕が逃げていると、学園長に遭遇した。


「うむ。お主に王城から召喚状が届いておってな。これからすぐにくぞ」

「へ?」


 学園長の良く分からない言葉に呆然とする僕。


「マリンダ・リンダス・キャリーデ辺境伯、レイ・アストラル様、ご入場!!」


 僕はぼーっとしたままいつの間にか馬車に乗せられて、いつの間にか王都までやってきて、いつの間にか王城に連れてこられ、いつの間にか謁見の間というところに通されていた。


 周りには武装した戦乙女たちが整然と並んでいる。


 な、なんで僕はこんな所に通されているんだ!?


「ほれ、ぼーっとしてないで、ついてこんか」

「は、はい」


 僕は学園長に促されて周りをキョロキョロと見回しながら後をついていく。


 奥には煌びやかな服装に身を包む女性が豪華な椅子に座っていた。


 もしかしてあれがこの国の王様ってやつなのかな?


 一定の距離まで近づくと、学園長が急に跪いた。


 え、え、何これ、どうすればいいんだ?


「これ、ワシの真似をせんか」

「は、はい」


 僕を咎める学園長に従ってその場に膝をつこうとすると、


「いいわ。カトレア様の孫、しかも、救国の英雄ともなれば、むしろ私が跪かねばならないくらいだもの」


 王様に止められてしまった。


「承知しました」

「よく来たわね、レイ・アストラル、いえ、救国の英雄と呼ぶべきかしら?」

「えっと……おっしゃってる意味が良く分からないのですが……」


 そう言えば、女の子たちも英雄とかなんとか言っていたような……国王様もそんなことを言っているし、どういうことなんだろう。


「マリンダ、これはいったいどういうことなの?」

「はぁ……こやつは少々自分の力に疎いところがありましてな」

「そういう……」


 学園長と王様が何か通じ合っている。


「あなたは数十万ものモンスターを退け、未知のモンスターも撃退しました。我が国を救ってくれた英雄なのよ?」

「へっ?」


 王様が言っていることの意味が分からず、変な声が出た。


「あのそれは何かの間違いではないかと……僕は害獣しか倒してませんし……」


 僕が倒したのは害獣だけだし、モンスターなんて倒していない。何がどうなっているのか……。


「レイが害獣と呼んでいるものこそ、モンスターなのよ」

「いや、そんなわけが……」

「私が嘘をつくとでも?」

「そんなことはありませんが……」


 学園長も戦場でそんなことを言っていたけど、いや……そんなまさかね……。


「まぁいいわ。あなたを呼んだのはほかでもない。褒賞を授与するためよ。あなたには爵位を与えるわ」

「しゃ、爵位?」


 爵位って貴族とかってのになるってこと?


「そ、そんなもの僕が受け取るにはいきません」

「爵位では不服だと?」

「いえ、爵位だなんて僕には分不相応かと」


 目が細くなった王様に慌てて言い換える。


「そう……分かったわ。欲しいものがあったらいいなさい。私の権限でどうにかできるものは好きに与えるわ」


 王様からそんな風に言ってもらえるなら、欲しいものがある。


「は、はい。それでしたら、これからも戦乙女学園で働く許可を貰えればと」

「本当に欲がないのね……それは私の管轄じゃないのだけど、私も許可を与えるわ」

「ありがとうございます!!」

 

 僕は嬉しくなって頭を下げた。


「これにて褒賞の授与は終わりよ」


 王様の一言で式は終わり、僕たちは退出させられた。


 数日後、戦乙女学園に帰還。


 寮に戻ると、寮生たちが出迎えてくれる。


 本当に帰って来たって気持ちになる。


「聞いたわよ? 爵位を断ったんだって?」


 ルビィさんが代表してそんなことを聞いてくる。


「はい」

「どうして?」


 理由は決まっている。


「僕は英雄なんかじゃありません。ただの寮母ですから」




 完



 ■■■■■


 これにて本編は閉幕となります。


 ここまでお読みいただきましてありがとうございました。


 もしよろしければ、ページの下の方ある☆☆☆を★★★にしていただけますと大変嬉しいです。


 引き続き、後日談や外伝的なものを投稿できたらと思っております。


 どうぞよろしくお願いいたします。



 また、下記作品もカクコン用の新作として投稿しております。もしよろしければ、こちらも併せて作品をフォローして応援していただければ幸いです。


◆最低ランクの雑魚モンスターしかテイムできないせいで退学させられた最弱テイマー、『ブリーダー』能力に目覚め、やがて規格外の神獣や幻獣を従える英雄になる

https://kakuyomu.jp/works/16817330668950536263

 

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戦乙女《ヴァルキリー》学園の寮母(♂)無双〜山奥から下りてきた田舎者の少年、ただ雑用をこなしてるだけなのに英雄扱いされる〜 ミポリオン @miporion

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