第15話 Episode3-3 城之内死す
29 懐疑
「ネタバレじゃない!」
「どうしたんですか」
居合わせた
「乗ってる人がわからないと主役メカに見えますよね」
冗談めかして
問題は本文なのだ。
「テロ組織殲滅の切り札/特別装備機動警備隊の知られざる戦力」と題されたその記事には、ここまでの公表されている戦果に加えて、ガードナーの詳細なスペックが記されているのだった。サイズや出力くらいならまだしも、装甲素材や装甲厚、内部機構、稼働可能時間、各武装の性能数値までも。一応「推定」となってはいるものの、それらは穴橋エレクトロニクスから伝えられているデータとまったく同じなのである。
「これって機密情報ですよね」
「これじゃまるで攻略法を考える参考にしてくれと言ってるようなもんよ。はした金のために治安にかかわる機密を売るなんて、あそこのコンプライアンスはどうなってるのかしら!」
「売ったと決めつけるのも……」
「だってヴァルキュリスのデータは載っていないじゃないの」
言われてみればそうである。ヴァルキュリスは画像とかなり適当な変形プロセスの図解はあるものの、詳細データまでは載っていないのだ。関係者が漏洩したとすれば、
「……意図的にリークしたのかもしれませんよ」
隣に座ってファッション誌をめくっている第一小隊技術主任
「よく平気な顔でそんなもの読んでいられるわね」
「あなたにはそんなものでしょうけど、私には大事な情報源です」
誌面から目を離さずに
「
「週刊誌で、ですか?」
「日本はスパイ天国ですから。当然チェックするでしょう」
「でも今の日本はおおっぴらに武器輸出なんてできないでしょう?」
「もちろん、作業用重機としてですよ。だから
「普通に売り込めばいいだけの話じゃないんですか」
「まあ、今の
果たして
「あの……」
入口からおずおずとした声がして、通信係の
「
「
「ああ、もうそんな時間か」
「
「あなたにもよ」
「聞いてないんだけど?」
「どうせここにいるだろうと思って、言わなかった」
「あのねえ……」
「実際、いるじゃない」
☆
「
後部座席に陣取る、黒いアーマースーツの五人の男。その中の一人が、車の後方を凝視しながら言った。運転席周り以外のガラスはすべて防弾仕様のミラーシェードである。外から車内は見えない。どれだけ振り返っても警戒されることはない。
夕刻の首都高を走る
「ええ、わかってますよ」
あるいは動きを封じるためにわざと露骨に追尾する「圧迫尾行」かもしれない。いずれにしろ、これから
「何者でしょう」
「おそらく、公安でしょうね」
「なぜ公安が?」別の隊員が
「たぶん、疑心暗鬼になっているのですよ」
「サミット襲撃で蚊帳の外に置かれたにもかかわらず、
ふふっ、と軽い笑いが起きた。
「なめられたものですね。こんな映画みたいな手口に引っかかるなんて」
後方のセダンが消えているのを確認して、
とはいうものの、やりにくくなったことは確かだった。公安とはいえ公僕には違いない。上の指示によっては、
そもそも、国家公安委員会直々で指令を出したにもかかわらず、首都圏の不法入国者がさほど摘発されたと聞かないのも気がかりだ。おそらく、敵は何かを企んでいる。公安も焦っているのだろう。
(さて、どうしたものか)
30 暗謀
「
ええ、と
「ちょーっと待った! まずこれの説明をしてもらいましょうか」
「説明と言われましても……実のところ、私たちも混乱しているのですよ」
「社内で調査は始まっていますが、流出元の特定に至るとも思えません。こう言ってはなんですが、データを持っているのは弊社だけではありませんし……」
「え? 何? まさか私たちを疑ってるってこと? 隊員は命張ってんのに?」
「……一介の技術部員が、社内調査の結果を悲観的に予測する。しかもそれを社外の人間に語る。どういう意味かは、考えるまでもありませんね」
ただでさえ広いとは言えない応接室が、息苦しくなるような緊張感に包まれた。
その時、唐突にドアが開いて、仕立ての良さそうなダークブルーのスーツに身を包んだ小柄な男が入って来た。七三にきっちりと分けて固めた髪は、朝のうちに床屋に行ってきたかのよう。しっかりとディンプルをこしらえた赤いネクタイの上に、とりたてて特徴のない、衣料量販店の広告モデルみたいな敵意も他意もなさそうな笑顔が乗っている。
「ああ、話し中だったかな」
男の姿を認めたや
「こちらは
「こちら、
「えっ!」
「ああいや、そのままで。私は付き添いというか、勝手に付いてきただけなので。一度お伺いしたいと思っていましたし。今、
調子だけは良いセールスマンの口調で
「話せましたか」
「それにしても、なぜ
「それはこの二人が……あれ、まだ話してないのかな」
「はい、これからです」
「
「ええ、
「付け加えたUSは何なんです?」
「with Ultra Senser です」
「withどこ行ったんだ」という
「脳波センサーを搭載して、
「サイコミュ?」
「何ですって?」
「いえ、続けて」
「目新しい技術ではないのです。基本となるシステムは、VRゲームのギアなどにかなり前から実装されています。ただ、扱いにくいので普及が進まないだけで」
「その扱いにくいものを実戦機に?」
「ちょっと言い方を間違えました」と、
「……
「その通りです」と
今度は
僅かな沈黙をついて、
「ヴァルキュリスの機動性能にはまだ余裕があるんですよ。現状は
「いや、まあ、機械というのはたいていそういう作り方をするものですから」
苦笑いしながら
(そんなに上手くいくんだろうか……)
「それをいつから」
「許可をいただければすぐにでも可能です」と
「お断りします」
「……と言ったらどうしますか」
一瞬、表情が固まった
「どうやら
そう言って、
「回収した
☆
「どう思う」
「何がです?」
「もちろん」
「ああ……らしくありませんね」
「叩き上げだとしても、隙がありすぎる。何というか……あの人が本当に
聞くところによると、
「……と、見せているだけかもしれません」
「え?」
「カリスマがなければ、取り繕う威厳など弱点でしかない、ということです。
それはそうだ、なにしろ
☆
時計を見た。いくらなんでも遅すぎた。
嫌な予感がした。
インターホンのモニター画面には、ピザ屋の制服を着た男が立っていたが、初めて見る顔だった。そして、
(そういうことか)
ヘマをしたとは思えない。可能性は一つしかないように思えた。
逃げ道はなさそうだった。
「ここまでか……」
声にして
「
〈ナニカゴヨウデショウカ〉
「最後の頼みだ。『
〈ショウチシマシタ。『ディスポーズ』プロトコル、ヲ、ジッコウシマス〉
別の場所、
宛先は「Katsuya Johnouchi」
「
だが「
(ピザ、食べたかったな)
☆
時間切れだった。
薄れゆく意識の中で回る走馬灯が不意に止まって、
あの時の男の子、名前も思い出せない、顔もはっきりとは覚えていない。少なくともそんなにイカした子ではなかったはずだ。
でも、楽しかった。
黙って家を抜け出して、ふらふらで帰ってきた時にはひどく怒られたけれど、でも、最高に楽しかった。
(彼、元気にしてるかな……)
それが、
☆
「
(『
処理が行われる条件は限られている。メンバーに確実な死の危険が迫っており、彼がそのままにできない重要なデータを抱えている場合である。
今夜はゆっくり眠れそうにないな、と
(Continue to Episode4)
特装機警ANCLE 小林猫太 @suama
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