第3話 Episode1-3 ANCLE出動せよ《破》
5 突入
「90分! たった?」
「戦闘モードはレベルに応じて消費エネルギーが増大します。活動限界を超えた場合は充電か動力パックの装着が必要です」
「できるんですよね」
「できません」
「は?」
「動力パックは現在、放電の不具合が発生して対応中です」
「
アイコンの
「その呼び方はやめてください」
「なんでよ」
「下がいないのに『長』を付けられると
「面倒くせーなー」
「じゃあスヌーピー」
「はあ?」
「ビーグルスカウトって言いにくいんだよ」
「コードネームの意味ないでしょう!」
それを無視して、
「
「
数秒間、スピーカーの
「これが最終警告だ!」と、入谷が続けた。「十数えたら突入する! 無駄な抵抗は無駄だ! 一二三四五六七八九十! 突入!」
言い終わるなり
無茶苦茶だ。
前方にいた機動隊員は
「スヌーーピーー!」
「それだけの重量を動かすんだから、実機の
「……す、すいません」
謝りながら立ち上がったが、そもそも謝る相手が違うような気もする。
転んだのはアウターバディだが、加速度がかかったせいか自分の腕や膝も痛いように感じる。
「どうすれば?」
「慣れろ」と
「えぇ……」
「人間は慣れる」と
「機械も慣れる。
(実戦でやることじゃないだろ……)
先の暴動では、いったいどうやって運び込んだのか、横流しされたロシア製
先行する
「右を確認しろ、スヌーピー」
首筋が
「右サイド、クリアー」
見ると
「えっと、どうすれば……そうか、
スクリーン左上に表示されているオシロスコープのような緑の円が赤く変わり、水平のラインが波を打った。
〈何でしょう〉
「武器はどこだ」
〈武装リストを表示します。第二レベル以上の戦闘モードでは自動的に表示されます。表示状態で音声入力により使用可能状態に移行します〉
左下に「WEAPONS」の表示が現れた。
Head gun
Stun Rod
none
none
none
「ヘッドガン?」
一人が声に出すと、どこか上の方でガチャリという音がして、スクリーン中央に赤い十字の照準マークが現れた。ガードナーの側頭部が開いて、30ミリ自動機銃が射撃態勢を整えたのだ。
一人は
「そうじゃなくて、拳銃とか」
〈未装備です〉
「なんで!」
〈理由はわかりません〉
「ああ……だろうね」
「じゃあスタンロッド」
〈
スクリーンにガードナーの
右手を肩の後ろにやると、今まではなかったはずの棒状の何かが触れた。バックパックから分離されたそれを試行錯誤でなんとか
〈現在ショートモードです。ロング、ショートの音声入力で伸縮可能です〉
「ロング」
一人が声にすると、警棒は瞬時に倍の長さに伸びた。それにしたって、棒は棒だ。まあいい。何もないよりはマシだ。と考えるしかない。とはいえ、接触の感覚がないから本当に握っているのかどうかわからないのが難点だ。握りしめた指に抵抗を感じるだけである。
「握る力がよくわからない」
〈マニピュレーターへの荷重は自動制御です。手を開かない限りは落としも破壊もしません〉
あまりにいろいろとわかっていないので、無機質な説明も馬鹿にされているように感じてくる。
「ならいいんだけど」
「何をぶつぶつ言ってるんだ」
「教習初日に高速道路を走らされているもので」
「高速は簡単だ。交差点も信号もない」
「そういうことでは……」
ムッとして反論しかけた時、どこか離れた場所でくぐもった
「
続けて二発、三発。
発煙弾だ。
大型の、暴徒鎮圧の際などに軍や警察で広く用いられているやつだ。もっとも普通は
微風はあるもののどうやら風下のようで、敵の姿はおろか、
「どうする士長」
「煙幕展開が意味するのは肉薄か退却のどちらかです。ここに逃げ道はない。つまりは肉薄です」
「で?」
「僕が回り込んで背後を突きます。
「採用だ」
街路区図によれば、十字路を直進したすぐ先に左に伸びる横道があるはずだった。この視界の悪さならば、運がよければ気づかれずに背後を取れる可能性もある。
と考えながら煙の中を抜けていく。ガードナーの足音も重量なりだが、なにしろ建機の稼働音は比べものにならないのだ。今もキャタピラの回転音が聞こえている。
(……回転音? 近すぎないか?)
そう思った瞬間。
突然、風景が左に吹っ飛んだ。一瞬遅れて衝撃が全身を襲い、身体の固定部が一斉に悲鳴を上げた。
(何だっ?)
視界が横倒しで停止したのを見て、自分が倒れていることを知った。スクリーンのあちこちに赤い文字の表示が現れて点滅した。
〈シールド脱落。接合部破損。左肩関節損傷。可動域92%に縮小〉
前方に立ち塞がる黒い影。細身の戦車に人間の上半身を乗せたような外観、車体の両脇に付いた太く短い脚には幅広のキャタビラ、異様に長い腕の先の巨大な手、頭部の操縦席を覆うクリアセラミックのキャノピー、そして背中の機構から伸びるクレーンアームが先端をいっぱいに伸ばして回転している。
ガードナーはそのアームに横殴りにされて、倉庫の壁に叩きつけられたのだ。おそらくこちらの動きを先読みして、とっくに煙幕の後方に移動して待ち構えていたに違いない。先手を打ったつもりが完全に後手だったのだ。
〈状況を確認。戦闘モード、第二レベルに上昇します〉
(ただの建設作業員が乗っているわけではないということか)
クレーン
「ええい、ままよ!」
衝撃で曲がった
だが、激突の瞬間にアームの勢いが急速に落ちた。
衝撃加速度を検知した
見ると
〈胸部装甲損傷。衝撃耐性低下。周辺システム異常なし〉
(助かった……)
いや、終わったわけじゃなかった。
「大丈夫か」という
「全然大丈夫じゃありません」と
「ロッドコレダーだな」
「何ですって?」
「電撃系の技の名前は昔からコレダーと決まっている」
「何を言っているのかわかりません」
と途端に、聞こえてきたのは連続する銃声だった。
だが、聞こえてきた
「……こいつはまずいな」
6 難局
「妙だな……」
警視庁第一機動隊駐屯地内に新設されたプレハブ製の
彼にはこれがただの襲撃事件だとはどうしても思えなかった。
現場状況が刻々と更新され続けるモニター群から一度目を離して、上原は殺風景な天井を見上げながらIKEAの事務椅子にどっかと沈み込んだ。
「どうかしたんですか」
「おかしいとは思わないか」
上を見上げたまましばらく無言で固まっていた
「犯人たちの目的は何だ。あそこに何かあるとしても、それを奪ってどうやって逃げるつもりなんだ。どう考えても無理だ。最初から無理だ。それはすなわち、強奪が目的ではないということだ。では何だ。どう思う、
「
冷ややかな口調で
「破壊が目的ではないのでしょうか」
うむ、と
「私も一瞬それを考えた。しかしだ、単に破壊が目的なら、海上から高速艇で接近した方がはるかに無駄がない。
「では船や砲を調達できなかったのではないですか。使われている建機も盗難届けが出ていますし」
ううむ、と
筋は通る。だがどこか不自然だ。バランスが悪い。汎用重機二機と大型
「だとしても、
「封鎖を突破して強引に脱出するつもりなのではないでしょうか」
「どこへ?」
考えられる可能性は、一つしかないように思われた。
逃げる気がない、ということだ。
だが、それはいったいどういうことか。そもそも襲撃の目的がわからなければ推測のしようもない。
☆
その30メートルほど先でクレーン
その縮めたまま静止しているアームの先端に、何かがあった。天井のない低い
誰かがクレーンの先に乗っている、いや、あれは乗せられているのだ。そして
「……大丈夫なのか……よく見えないな」
〈拡大します〉
視界が
その人影こそは、行方不明になっている監視所の警備員に違いなかった。
「隊長!」
「……考えてみりゃ定石なんだよなあ。
ガードナー002の右肩装甲が開き、拡声器が作動する。
「……おい襲撃犯! 貴様はもう逃げられない! おまえは詰んでいるのだ! 王手王取りだ! チェックメイトだ! 悪いことは言わん、人質を解放して素直に投降しろ!」
そのまま三分が過ぎた。
「……要求は何だ! 電話くらい携帯してるだろ! 要求を言え! 連絡先は110番でいい!」
さらに十分が過ぎた。動きもなければ本部からの連絡もない。
「
イライラした様子で
どういうつもりなのか。
「……時間稼ぎ?」
一人が口にすると、
「ブルテリアからポインター、目標脱出の可能性は」
「周辺道路は封鎖中、海域および上空への侵入制限中、怪しい動きは今のところ確認できません」
〈推定稼働時間、残り45分〉
「腕を撃ち抜けると思うか」
「危険過ぎます」
「何かの拍子に指が動かないとも限りませんし、腕を失ってもアームを倉庫に激突させれば人質は無傷じゃ済まない」
「だよなあ」
「後ろから押さえ込めないでしょうか」
「本気でできると思ってるのか?」
「いいえ」
不慣れな操縦で、たとえ右腕を取ることは可能でも、クレーンの伸縮を止められるとは思えない。
(……あれ?)
静寂の中、何か重い金属音が聞こえたような気がしたのだ。
視線の先にはクレーン
その黒い穴の中で、不意に何かが光るのを
誰かがいる、いや、何かがある。あれは……あの
「
「倉庫だ! 倉庫の中だ! 奴等の目的は別の
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