1-5

 それからは特に何事もなく、次の日になった。

 ベットも何もないカーペットの上で眠った二人は、あまり良く眠れず、浅い睡眠をとっていた。朝になり、智成は眠そうに瞼を擦った。


 この部屋には、机の足に腕を繋がれた智成と玲華しかいない。玲華はうとうとと頭を下げ、今にも机に頭がぶつかりそうだった。


ゴツン


「痛っ」


 玲華はとうとう机に頭をぶつけた。玲華は疲れた表情で扉と智成を見ると、はあ、とため息をついた。


「なんか失礼だね」

「今日も変わらないわね」


 その言葉に、智成はどうでもよさそうに肩をすくめると、縄を解いて扉に近づいた。


「どこ行くの?」

「トイレに」


 智成は不意をついて扉を開けて、部屋から静かに走り去った。不思議と見張りの人達の声や物音は聞こえなかった。


 智成は途中で物置部屋に入ると、部屋を物色してヤクザの服を手に入れた。制服を脱いでヤクザの服に着替えると、制服についていたボタンをむしり取り、ポケットに忍ばせた。

 そして部屋から出た智成は、大股で堂々とめんどくさそうに歩き、右手で髪の毛をぼさぼさにした。


 智成は屋敷の中をうろうろしていると、側近の山田が部屋に入って行くのが見えた。智成はその部屋に近づくと、少しだけ扉を開けて中を覗いた。

 山田の部屋はある意味、異様な光景だった。大量のアルコールランプとコーヒー豆が部屋の棚にぎっしりと並んであった。コーヒー豆の香りが部屋に充満していた。


(アルコールランプ?)


 そういえば、ボスの部屋にもアルコールランプがあった、と智成は思い出した。コーヒー好きのボスのために、山田はアルコールランプで火をつけて、コーヒーを淹れているようだった。


 山田はソファーに座ってくつろぐと、徐に鋭く地団駄を踏んだ。


ダァン!


 山田はとてもイライラしている様子だった。智成はそれを見なかったことにして、そっと扉を閉めて引き返した。


ダダダダッ


 智成が元の部屋に戻り服を整えると、外では慌てた様子でヤクザが走っていた。


バン!


「おい! 逃げてやしねぇだろうな」


 顎髭を生やしたヤクザが扉を開くと、玲華と智成はおとなしく机の足に腕を縛られていた。


「ちっ。いるじゃねぇか。……おい、お前! 見張りを絶やすんじゃねぇぞ!」


 顎髭を生やしたヤクザが見張りのヤクザにそう言って怒鳴ると、顎髭を生やしたヤクザは部屋から去っていった。





 30分ぐらい経過しただろうか。ガラガラと音がすると、高田が朝食を持って部屋に入った。


「調子はどうだ?」

「栄養のあるものが食べたい」

「飯が出るだけありがたいと思え」


 智成が食事の改善を要求すると、高田は毒のある笑みを浮かべて言葉を発した。玲華は内心ひやりとしながらそれを見守った。


「ボスの死因は?」


 智成と玲華がもそもそと食事をしている途中、智成が自然な風を装って重大な発言をした。


「お前が知る必要はない」


 案の定、智成の発言は切って捨てられた。高田は鋭い眼差しで二人を一瞥し、部屋から立ち去った。


……。


 ピリピリとした静寂がこの場に訪れ、二人は無言で食事を終えた。

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方向音痴な主人公、今日も事件に迷い込む こと。 @sirokikoto

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