最終話 特別な主人公たち

 四年後。


「あっ! くーくん久しぶり~」

「久しぶり比奈。元気にしてた?」


 待ち合わせの駅前にて空が待っていると、比奈が小走りで駆け寄って来た。

 比奈も現在22歳。立派な成人で、かつて引きこもっていた陰りは見当たらない。四年の月日が流れたが、内面ほど身体の方は成長しておらず小柄で可愛らしいまま。しかし垢抜けた印象で大人の色気も漂うため、先程から通行人が二度見していた。


「もぉ、くーくんも見過ぎだよ。彼女に怒られるよ?」

「ぐ……確かにぶん殴られそうだ」

「あはは、やりそーだね。くーくんは卒業したらどうするの?」

「そうだな。どっかでバイトしながら写真の仕事やろうかなって感じかな」


 空は高校生活を通し、特別な人間の見せる顔が好きだということに気づいた。それを写真という形で残すことにやりがいを感じ、自分の好きなことを仕事にしようとしている。


「比奈はどう? やっぱり就職はしない?」


 大学は心理学を学ぶという目標を持ち、空とは違う大学に進学した比奈。人を恐れていた比奈が自分の足で歩んでいること自体喜ばしいことだ。


 しかしもっと驚くことに、


「だね。執筆だけに集中したいかな」

「さすが売れっ子作家様は違う。新作も面白かったし今日の映画楽しみだよ」

「えへへ、ありがと。すっごく良い出来だから期待してねっ」


 比奈は四年前に小説大賞で受賞して以来、出す本すべてで重版を連発する売れっ子作家として活躍している。今日は受賞作の『私の心にガムシロップを注いで』の実写映画公開日で、一緒に観に行くことになっている。


 比奈とのトークに花を咲かせていると、


「おにぃちゃ~ん! ヒナさ~ん!」

「あ、サヤカ。おはよ」


 比奈とサヤカがいぇーいとハイタッチ。

 二人は高校時代から仲を深め、今は親友の関係にまでなっている。


「ヒナさん今日も可愛いです! おにぃちゃんは何というかまあ相変わらず普通ですね」

「悪かったな。サヤカちゃんも元気そうでよかったよ」


 サヤカは恵まれた身体がさらに成長し、スタイル抜群のハーフ美女になっていた。しかしチャラチャラした感じは無く、むしろ落ち着いた大人の雰囲気が漂っている。


「あー、おにぃちゃんやらしい目してるぅ。彼女に怒られますよ?」

「してないって! ほんとに殺されるからあんまからかわないでくれ」

「いひひ、公共の場を血の海にはしたくないですもんね」

「ほんとだよ。サヤカちゃんは最近どう?」

「楽しいですよ。子どもたちも可愛いですし!」


 サヤカの子どもというわけではない。サヤカは現在教育学部に通っている。弟や妹の面倒を見るのが好きということもあり、幼稚園の先生を目指したのだ。


「でもぉ、サヤカも甘えられるばっかじゃなくて甘えたくなる時があるんですよねぇ。だからその時はおにぃちゃんに甘えよっかな~?」


 サヤカが包容力のある身体でにじり寄ってくる。と、


「こら、サヤカ。人の彼氏を誘惑するな」

「てて。……あ、ミホさーん! 会いたかったですぅ!」

「はいはい、わかったから抱き着かないで。比奈もおはよ、昨日ぶりだね」

「ううん、今日ぶりだよ。海帆よく間に合ったね。あんな飲んでたのに」


 比奈は昨夜、海帆とバーで飲んでいたらしい。海帆は酒が弱く、酔うと甘えん坊になってしまっていつも大変である。最近は就活中でよく愚痴も聞かされるのだ。


「ついでに空くんもおはよ」

「お、おう。俺はついで扱いなんだ」

「他の女の子にデレデレしちゃって、あたし来ない方が良かったかな?」

「全然そんなことないです。今日もめっちゃ可愛いです」

「ふふっ、ありがと」


 愉しそうに笑う海帆。付き合ってもう四年になる。たまに喧嘩したりデートに行ったりと幸せな日々を一緒に過ごしている。


「朝から見せつけちゃってくれますねぇ、お二人さん」

「爆発すればいいのにねー」


 サヤカと比奈にジト目を向けられ、空と海帆はぽっと顔を赤くする。


「ミホさん最近もっと可愛くなりましたよねぇ~」

「恋してるからなのかな? 海帆、今度取材させてよ。参考にするから」

「ちょ、二人ともやめてよ。空くんも何とか言って!」

「いやー、俺も海帆めっちゃ可愛いなーって思うよ」

「もう!」


 そんな風に懐かしのメンツで盛り上がっていると、


「おっと、ワタシが最後か。みんな楽しそうで何よりだな」


 最後に登場したのは、今や老若男女問わずその名を知らぬ者はいない国民的大スター。


「おはようございます、真凛さん」

「やあ、空。みんなもおはよう」


 真凛は現在24歳。芸能界の第一線でドラマや声優や歌手など多岐に渡って大活躍中。マスクとサングラスで顔を隠しているが滲み出る美貌は隠しきれていない。


「真凛さんやばかわ!」

「真凛さんきゃわあ!」

「真凛さん素敵です!」


「ありがと。やっぱりキミたちの声援は一段と効くな。映画の方も頑張ったから楽しんでくれると嬉しいよ。比奈の脚本も凄いしな」


 そう。比奈の作品の主演として真凛が出演する。

 宣伝もばんばん行われており今年一のビッグタイトルだ。


「じゃあみんな揃ったことだし行くか」


 空が言って、歩き出す。

 道は違えど、それぞれの道で活躍し、自信を持って進んでいる。

 周りの人間が眩しくて自分はダメな奴だと思うこともあるだろう。

 隣の人と比較して惨めに思えてくることもあるだろう。

 自分は人より劣っていると思うこともあるだろう。

 傷つけられて泣きたくなる時もあるだろう。


 それでも、止まるな。振り向くな。


 視野を広げて真っ直ぐ生きればきっと辿り着ける。

 きっと誰かが気づいてくれて、自分を認められる日が来る。

 そんなの綺麗ごとで選ばれた者だけの特権だと思うかもしれない。

 それでも、他の人の何倍でも、進んで進んで進み続けるしかない。

 その果てに見える境地。


 それが、特別ってことだろう。

 きっとなれると信じて。彼らは歩みを続けてきた。

 そしてこれからも、一生止まることは無い。

 特別な毎日を謳歌し続けるのだ。



(終)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


完結です。

最後まで読んで頂きまして、本当にありがとうございます!

また次があればよろしくお願いします!!

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五番目の彼女は特別になりたい 彗星カグヤ @yorukei

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