憧憬

@bluepasta_222

第1話

〈人は絶望の淵に立たされた時、憧れに縋る。〉


 憧れという、自身とは一番遠い存在。手を伸ばせば伸ばすほど遠ざかってゆくそれは、何故か空虚な自身を肯定してくれているようで。相反するように思えるそれが、矛盾した自らの存在と思考に水をくれる。


 それと同時に、憧れとは卑劣極まりない自身と自らの理想の塊との差を明確にしてしまうもので、「私」というハリボテの人間の継ぎ目を引き裂きにかかる。

 自身にとっての憧れという存在が、自らの二律背反の思考や意思を更に引き剥がしてしまう。

 それによって更に闇の中に引き摺り込まれるのを、無意識のうちに望んでいるのだ。


 物語行く末に自ら幕引きをしようとした矢先、この世で一番眩いピンスポットを無理矢理「私」に当ててその先を見据えさせようとさせるのも憧れだ。

 哀れな人間に手を差し伸べるのもまた、憧れなのである。

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