第18話 出発
まずユウ達三人が話し合ったのはパーティメンバーを増やすかどうかについてだ。冒険者パーティの最大人数は四人。パトリックを失ったためその空いた穴を埋めるかどうかは重要な議題に違いなかった。
結論からいうとメンバーの補充は見送りになった。理由はいくつかあったが最も大きなものはやはりユウの能力の問題だった。
ユウが使えるのはステルスという隠密スキルのみ。
戦闘時にユウが出来ることは一瞬敵の注意を引いたり、バレないようにトラップなどのアイテムを使用することなど。
新しい人間を加えてもこのことに対して悪感情を抱かれる恐れは十分にあった。それこそパトリックのときのように。
その不和のせいで任務中に争いが起きたり、連携にほころびが生まれたりしてはパーティ全体の生死に関わりかねない。
だからこそまずは三人で安定した活動を行えるようになってから再度募集してみよう、ということになったのだった。
もう一つの議題についてはすぐに話がついた。
それは次にどの依頼を受けるか、だ。
ガッツの、難易度が低い依頼から着実にこなしていく、という提案にユウとスノウがノータイムで受け入れた。
「よし、これでOKだな」
今後の方針が決まった後、三人はギルドカウンターで正式なパーティ登録を行った。
「ほら、これ。ちゃんともっとけよ」
そう言ってパーティ登録をしたガッツが後ろで見守っていた二人それぞれに一枚の紙を手渡す。
ギルドがパーティを認可したことを証明する書類だった。
「ありがとう」
ユウは礼を言いながらそれを受け取る。スノウは相変わらずの無言で。
手にあるそれをユウはじっくりと見つめる。
正式なパーティを組んだ、それを示すもの。
ユウが初めて手にとることができたもの。
無意識に頬が緩んでしまうユウ。
「おめでとう」
隣にいたスノウが小さな声でお祝いを言ってくれる。
「あ、ありがとう」
照れくさくなって頬をかくユウ。
横でそんなになっている人間がいてもどこ吹く風といった様子のスノウ。
「よし、このまま次受ける依頼を探すとするか」
ガッツはガッツでユウの気持ちに気がつくこともなくさくさくと次の行動を始める。依頼書が貼ってある掲示板のほうに向かって歩き始める。
ユウとスノウもその後に続いていく。
掲示板の前について三人で横に並んで張り出された依頼書を眺める。
「さて、どれにする?」
ガッツが聞いてくる。
「さっき話し合ったとおりの難易度であれば…」
「まかせる」
討伐系の依頼を全く受けていなかったせいでどれがいいのか判断がつかないためためらいがちにガッツに委ねるユウ。
どの依頼でも構わないと空気を隠していないスノウ。
「そうか、じゃあどれにするかな」
気を悪くした様子もなく適当な依頼を探し始めるガッツ。いくつかの依頼書を眺め、気になったものは手にとってより念入りに確認する。
掲示板と依頼書を前に真剣なガッツをユウは横から盗み見る。任せっきりにしてしまっている罪悪感とどんな依頼を見ているのかが気になる好奇心を持ちながら。
「よし、これにするか。二人もこれでいいか?」
何分かそうしていたガッツが頷いてから手に持っていた依頼書を二人にもみせてくれる。
ユウは差し出された紙に目を向けそこにかかれた内容を確認する。
ゴブリン五頭の討伐。
この街に来るための道の近くでゴブリンの群れが確認された。道を通る商人や旅人などに危険が迫る可能性があるためこれを排除しなくてはならない。
という内容だった。
ゴブリンの討伐ランクは最低のE。新人冒険者が初めて討伐するモンスターとしては最も多いといっても過言ではない。
そのゴブリンを五頭討伐する。
ユウ達三人がパーティとしての経験を積む最初のステップとして選択する依頼としては適切であった。
「いいと思う」
スノウが小さく頷きながら同意する。
「うん、これにしよう」
ユウも遅れて少し慌てながら同意した。
「ならこの依頼でいいな。手続きにいくか」
ガッツはそう言って依頼書を持ってギルドカウンターのある方へ歩き出す。
ユウとスノウはまたガッツの後ろに並んで続いていくだけだ。
手続きの間も手持ちぶさたにしているしかないユウとやはり何を考えているか分からない表情で佇んでいるスノウ。
受付嬢と話をしていたガッツが軽く会釈をしてカウンターを離れる。続く二人。そして先ほどまでいたテーブルに戻る。
「よし、依頼の受注は完了したぞ。俺はこのまま出発できるが、二人はどうだ?」
「俺も準備はしてきたから大丈夫だよ」
「私も問題ない」
ガッツの質問にユウとスノウはすぐに答える。
「よし、なら早速行くか」
そう言って座ったばかりの席からすぐに立ち上がるガッツ、そして街の外に向かうためギルドの出入り口へ歩き出す。
ユウも遅れて慌てながら立ち上がる。スノウはゆっくりと。
ガッツの後ろに追いつくユウ。
パーティの方向性決めから依頼の選択、受注手続きなど色々なことをガッツに頼りすぎている、そうユウは思ってしまった。
やっとの思いでできた仲間がたよりになるのはとても嬉しい。だがここまで何もかも頼りきりなのは正直少し悔しいと感じてしまう。
今は無理でもいつかそういう事柄についても対等に話し合えるようになりたい。その気持ちを今は行動で表わそう。
ガッツの後ろにいるユウは一瞬足を速める。そしてガッツの横に並んだ。
ガッツはそれを軽く横目で見るが何も言わない。
そしてスノウはそんな二人の背中を後ろから静かに見つめていた。
その並びのまま三人はギルドを出て、街を出発して依頼の目的地へと赴くのだった。
異世界ぼっち でーかざん @daikazan
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